安田貴昭、畠田順一、吉益春夫 器質的異常の伴わない神経疾患様の症状への対応 BRAIN and NERVE 2018;70(9):971-979
- 身体的に説明できない症状を訴える患者そ診断し、治療とマネジメントを行うための診断カテゴリ
- 変換症の診断
- 変換症の概念の歴史的変遷
- 変換症の起源 紀元前のヒステリーの概念にまでさかのぼる
- 精神分析理論によりば、解決が困難な問題に直面し、心理的な葛藤が生じた際、その心理的な苦痛を和らげるための無意識的な心理過程が防衛機制であり、その一つが変換(転換)や解離ということになる。これは一時疾病利得とよばれ、患者は変換や解離によって症状に苦しむことになる一方で、葛藤による心理的苦痛から逃れることができる。しかし、これはあくまでも無意識なものであって、患者が意図的に症状を作り出しているわけではない
- 病者の役割を得ることで金銭的、社会的な実利が得られるような場合は2次疾病利得と呼ばれる。そのような損得勘定のうえで症状を演じている場合は詐病であり、無意識的な過程である防衛機制と意識的に行われる詐病が異なるものであることには注意が必要である
- 心因というとらえどころのない概念はEBMの考え方に馴染まず、診断基準から心因要素が排除される傾向があると思われるが、精神科医が患者因アプローチする際に、心因を考慮することはいまだ重要な意味をもつものと考える
- 変換症の診療の実際
- 何よりもまず患者の解釈モデルを意識しながら、丁寧に現状を説明することが重要である
- 支持的精神療法として重要であるのは支持と保証
- 医師はこれまでの精査や評価の結果を踏まえ、「すぐに患部がみつかり、それを治療すればすべてが解決する」といった急性疾患モデルでの介入から、「複合的な問題があり、治療だけでは必ずしも解決に至らない」という慢性疾患モデルへと切り替えなければならない。
- 患者の「症状を消し去ってほしい」というニーズを決して無視するわけではないが、それはとりあえず棚上げにし、現時点で介入可能なことや、さしあたり生活を破綻させないために優先して考えるべきことにリソースを振り向けていく。そういった長い時間軸での根気強い関わりの中で、患者の心理的な変容がおこり、心因性に症状が引き起こされていたのであれば、いずれそれが解決していくことを期待する。そのように患者を信じて待つ姿勢も治療のうちである