柴田政彦、前田吉樹、高橋紀代 慢性疼痛難治例とは何か? ー慢性疼痛医療への私の提言ー 慢性疼痛 42(1):6-10,2023
- 運動療法や通常の認知行動療法は治療意欲があることが前提になる
- 重要なことは、治療意欲が十分でない複数の要因を患者と一緒に探り、改善策を提案し患者の生きる希望をはぐくむような介入を行うことである
- このようなアプローチの一つをrecovery-oriented cognitive therapy
- 「患者と目線を合わせる」「信頼関係を構築するの時間をかける」「解決を急がない」「できないことでなく些細なことでよいからできそうなことに目を向ける」
- 痛みに対して不適切な捉え方をすると、人類にとって好ましくない結果をもたらすこともあるのである。痛みを放置してよいというわけでは決してないけれども、痛みという訴えには様々なものがあり、必ずしも痛みを緩和するという考え方だけでよいとは限らない。我々慢性疼痛患者に対する診療も同様に、対応によっては患者の生活や人生を損なう要因の一つになっていることもある
- 臨床心理学の基礎的な概念に、「防衛機制」と「条件づけ」がある
- 防衛機制には、抑圧、転換、隔離、反動、退行、やり直し、取り入れなどがあり、神経症の症状形成機制にもなる
- 条件づけとは、学習の原理をあわらす概念で、環境刺激を操作することで、学習者の反応を生成・修正・除去する手続きのことを指す
- 古典的条件づけ、オペラント条件づけ
- 症状と疾患の切り分け
- 線維筋痛症という病名 原因の特定が困難な慢性の痛みを主訴に医療機関を受診した患者
- 筆者は長年の慢性疼痛患者の診療を通じて、前医が患者を治そうとしすぎたあまり、患者の人生を損なうことにつながったと思われる症例を数多く経験してきた
- このような患者に病気の危険が低いことを説明したうえで、症状の軽減ではなく元の生活に戻ることを目標に段階的に導くことで、生活の質が大きく改善して元の生活に戻ることができ、結果的に痛みへの捉われも薄れていく場合が少なくないからである
- 大事なことは、何らかの症状を持って医療機関を受診し診察や検査で原因の特定が難しい場合には、「症状の原因は何か?」という観点に固執せず「症状を主訴に医療機関を受診したのはなぜだろう?」という観点を持つことも大事になってくる。
- 受診動機につながる要因として、なんらかのストレス、生来の感覚過敏、不安、周囲からの情報などがある。これらの要因を評価し適切な対応そ通じて元の生活への復帰を目指すのが集学的診療の本質である
- 困難な痛みの慢性化要因で筆者が最近注目しているもの 発達障害と養育の問題
- 細井は難治性慢性疼痛患者の病態にフォーヒット仮説を唱え、養育体験が痛みの慢性化に大きな役割を果たしているとしている
- 実際に長期間フォロー中の慢性疼痛患者に養育の問題を尋ねてみると、親からの厳しいしつけや不合理な対応によって自身のアイデンティティ構築が困難であったと思われる例が少なくない
- 発達障害は生来のものであり、養育の問題は親の責任であるから、これらを本人の責任として受け止めるのは確かに酷だと思われる。しかし、社会的にはこれらの問題は本人が責任を持つことが求められており、その乖離が本人の大きな負担となり慢性疼痛につながっている例がすくなくない