身体症状症

徳倉達也:身体症状症 診断と治療 112(13):172-177, 2024

  • 身体症状症は、苦痛を伴う身体症状を主症状とし、その身体症状に関連した過度な思考・感情・行動を有する状態が慢性的に持続する状態である
  • 原因究明や短期間での症状消失を目標とせず、まずは症状とうまく付き合いながら有意義な生活が遅れるようになることを目指す
  • 身体表現性障害からの変更点としては、「身体症状に対して医学的な説明ができないこと」が疾患の定義から除外され、「苦痛を伴う身体症状があり、その症状に対して過度な思考・感情・行動があること」に主眼が置かれるようになった。その理由としてすべての身体疾患を除外して患者の身体症状が病理生理学的に(つまり医学的に)説明ができないことを証明することができないことを診断の基礎とすることで「こころか身体か」という心身二元論を強化してしまう可能性があることなどがあげられている
  • WHOによる分類ICDの最新版であるICD-11では、身体表現性障害は身体的苦痛症という名称に変更され、DSM-5の身体症状症に近い疾患概念となった
  • 発祥や経過に及ぼす要因として、気質要因(神経症的な特性)、環境要因(教育歴が低い、社会経済的地位が低い、ストレスフルライフイベント、幼児期の虐待など)、経過の修飾要因(女性、高齢、、無職、慢性疾患の併存、精神疾患の併存、疾病利得など)が上げられている。性格特性としては、損害回避傾向が低く協調性が高いほど寛解までの期間は短くなるとされる
  • プライマリケアでの治療導入
    • まずは患者の執拗な訴えに支持的に耳を傾けながら、真剣に訴えを受け止めている姿勢を示す
    • 「何も異常はなく、そのため心因性を疑われる」という説明は避け、「器質的異需要の有無は別にして、その症状は確かにあなたの生活に深刻な影響を及ぼしており、医学的治療の対象である」と伝えると治療導入しやすい。なお、明らかな心理的ストレスや精神疾患が存在する場合でも、他の原因が隠れている場合もあり、安易に「心因性」と診断しない
  • 症状への対処としては、原因の究明や短期間での症状消失を目標とすると、症状に固執することで、逆に悪化したり、すぐに改善が得られないことで悲観的思考が強まったりするため、現在の医学では明確な原因は不明であるが何らかの中枢機能異常も想定されていることを伝え、まずは症状とうまく付き合いながら有意義な生活が送れることを目指す
  • 「もしかしたら自分でも気づいていない心理社会的要因の関与もあるのかもしれない」といったメッセージを伝え、心理社会的側面について話題にしながらすこしづつ意識を向けてもらい、感情の言語化を促進させる
  • 慢性疼痛の発症や経過には、炎症や中枢・末梢神経の感作といった器質因の関与に加えて、認知の要素、生活歴・社会歴、感情の要素など様々な側面が影響する