身体症状症の診断と進歩 2

富永敏行 身体症状症の診断と進歩 精神医学 2020;62(12):1565-1577

  • 身体表現障害(DSM-IV-TR)から身体症状症(DSM-V)
    • 2013年に登場したDSM-5では、身体表現性障害に関するものは新たに設けられた身体症状症および関連症群に移行する
    • 下位分類として、身体症状症、病気不安症、変換症/転換性障害(機能性神経症状)、他の医学的疾患に影響する心理的要因
    • 身体症状症では、苦痛を伴う身体症状の存在、身体症状に対する情動、認知、および行動が診断に必要となり、その概念は大きく変化している
    • 身体表現性障害の中核概念である身体化障害の診断基準は厳格で、有病率はわずか1%未満。この概念自体の有用性と妥当性に疑問が生じていた
    • DSM-IVの心気症の約75%は身体症状症に含まれ、25%は病気不安症に含まれるとされる
  • 疼痛性障害 
    • DSM-III 疼痛性障害では、診断に心理的要因の存在が必要とされた DSM-III-Rでは身体表現性疼痛障害と呼称変更され心理的要因についてはとわれなくなった
    • DSM-IV,DSM-IV-TR疼痛性障害で心理的要因の診断項目が復活
    • DSM-V 身体症状症で心理的要因は再び削除された
  • 転換性障害
  • DSM-V
    • 心理的要因の身体症状(いわゆる身体化症状)では治療過程の中で心理的要因が見えてくることも多く、操作的診断基準という枠組みいは適さない
    • 身体症状症(DSM-V)の特徴は、病因論を排し、身体症状それ自体でなく、どのように解釈され、感情や行動の問題の有無に焦点づけられ、認知、感情および行動の要素が診断の根幹となったことから、DSM-IVの身体表現性障害の診断とは大きく変更された新シ費概念ダル
    • 身体症状症は、身体症状が医学的に説明できる可能性の有無や心理的要因の有無が不問となったこと、またDSM-IV-TRの複雑多岐にわたる下位項目がなくなったことから、診断はしやすくなった
  • ICD-11の身体苦痛症
    • 身体症状(痛み)に苦痛を感じ、”身体症状に向けられる過剰な注意”が中核症状とされる。ICD-10の身体表現性障害とは疾患概念が全く異なる
  • 疼痛と身体症状症
  • IASP 2020/7 痛みの定義 痛みは常に個人的な体験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな程度の影響を受け、痛みと侵害受容は異なる現象であって痛覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできない。つまり痛みは感覚的なものだけでなく、情動、認知、行動の要素も含まれた体験であり、多元的なものである。痛みとは何かという原点から考えても、いわゆる慢性疼痛と身体症状症(疼痛が主たるもの)の両者は、オーバラップすることが想像され、今後、身体症状症の病態解明に向けて、新たな糸口になるかもしれない
  • 身体症状症と変換症/転換性障害
    • 変換症の患者は神経学的症状に戸惑い、周囲からどうして震えや麻痺が起こるのかと聞かれることに苦悩してる。慢性の痛みの患者は「どうしてこの病気は目に見えないのか?周りに痛みと辛さを理解してもらえない」という苦悩がある。身体症状の可視化の有無で診断が異なることは奇妙なことだが、医学の進歩で両者の関係が縮まってくるかもしれない
  • 身体症状症の診断ポイント
    • DSM-5での身体症状症の中核症状は、身体症状の存在(A項目)とその症状に対する過剰な認知、不安、過度な行動(B項目)である
    • 認知・不安・行動の精神・行動の基盤ネットワークは、1生物学的な要素、2心理学的な要素、3社会学的な要素の作用をうけることで、身体症状症の苦悩も深まる。通常、1,2,3の複数の要素が関与しているが、患者によってその程度は異なる
  • 身体症状と脳の因果関係にも明確な答えはでていない。たとえば、慢性疼痛でのペインマトリックスの活性化PTTは、持続的な痛みの中枢への刺激入力による結果なのか、あるいは、ペインマトリックスの活動亢進が慢性疼痛をおこしているのかは、解明されていない
  • 身体症状症関連群は、ヒステリーが医学の中で考えられるようになった17世紀以降、どの時代でも、本概念が生物学的・器質的な疾患か、あるいは心理社会的なものか、その狭間でゆれている
  • 現在の操作的診断基準は病因論から離れ、身体に対する認知、感情、行動を基準とすることで、薬物療法の選択や認知行動療法などの治療ターゲットは以前にくらべてややわかりやすくなったが、臨床場面で出会う身体症状症関連に治療は、現在でも単純ではない
  • 身体症状関連群では、その患者の認知や感情といった心理学的な要素、さらに外部環境との社会的な相互作用を受けて、身体症状(その個人の感覚)にも連動し、変化するものである。長期化している身体症状の訴えの背後にあるものを俯瞰的に診ることは、その先にある治療にも繋がる