富永敏行 身体症状症の診断と進歩 精神医学 2020;62(12):1565-1577
- 身体表現障害(DSM-IV-TR)から身体症状症(DSM-V)
- 疼痛性障害
- 転換性障害
- DSM-V
- ICD-11の身体苦痛症
- 身体症状(痛み)に苦痛を感じ、”身体症状に向けられる過剰な注意”が中核症状とされる。ICD-10の身体表現性障害とは疾患概念が全く異なる
- 疼痛と身体症状症
- IASP 2020/7 痛みの定義 痛みは常に個人的な体験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな程度の影響を受け、痛みと侵害受容は異なる現象であって痛覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできない。つまり痛みは感覚的なものだけでなく、情動、認知、行動の要素も含まれた体験であり、多元的なものである。痛みとは何かという原点から考えても、いわゆる慢性疼痛と身体症状症(疼痛が主たるもの)の両者は、オーバラップすることが想像され、今後、身体症状症の病態解明に向けて、新たな糸口になるかもしれない
- 身体症状症と変換症/転換性障害
- 変換症の患者は神経学的症状に戸惑い、周囲からどうして震えや麻痺が起こるのかと聞かれることに苦悩してる。慢性の痛みの患者は「どうしてこの病気は目に見えないのか?周りに痛みと辛さを理解してもらえない」という苦悩がある。身体症状の可視化の有無で診断が異なることは奇妙なことだが、医学の進歩で両者の関係が縮まってくるかもしれない
- 身体症状症の診断ポイント
- 身体症状と脳の因果関係にも明確な答えはでていない。たとえば、慢性疼痛でのペインマトリックスの活性化PTTは、持続的な痛みの中枢への刺激入力による結果なのか、あるいは、ペインマトリックスの活動亢進が慢性疼痛をおこしているのかは、解明されていない
- 身体症状症関連群は、ヒステリーが医学の中で考えられるようになった17世紀以降、どの時代でも、本概念が生物学的・器質的な疾患か、あるいは心理社会的なものか、その狭間でゆれている
- 現在の操作的診断基準は病因論から離れ、身体に対する認知、感情、行動を基準とすることで、薬物療法の選択や認知行動療法などの治療ターゲットは以前にくらべてややわかりやすくなったが、臨床場面で出会う身体症状症関連に治療は、現在でも単純ではない
- 身体症状関連群では、その患者の認知や感情といった心理学的な要素、さらに外部環境との社会的な相互作用を受けて、身体症状(その個人の感覚)にも連動し、変化するものである。長期化している身体症状の訴えの背後にあるものを俯瞰的に診ることは、その先にある治療にも繋がる