都留京子、稲村圭亮 老年期における身体症状症 精神科 2020;62(129*1605-1611
- 身体症状症においてみられる身体愁訴の背景にはさまざまな心理機制が働くとされている
- 代表的なものが、転換症状(ヒツテリー)、身体化、心気症状
- 転換症状は疾病利得的な側面が強く、失立・失歩などの随意運動機能障害を示すケースが代表的であり、他者への訴えが顕著である
- 身体化は、転換症状の中でも多彩な身体症状を呈する病態を指す
- 心気症状は自己の身体への関心の集中を主体としており、疾病恐怖的な訴えが前面に見られる
- 一般的に、対処戦略の観点からは、身体症状症患者は人生の波乱、心理的な必要性や葛藤、罪悪感や怒りの感情、自尊心の低さに対処する方法として身体性の訴えを採用することがある
- 「不安を打ち消そうとすればするほど制御できない不安が襲ってくる」という悪循環について患者の理解を促し、こうした精神交互作用から成り立つとらわれの規制を打破することが、森田療法の目指す治療の方向性である
- Barskyらが、circle of somatosensory amplificationという概念を用いて、同様の(森田療法)概念を提案している
- 不定愁訴の発生機序のもう一つの代表的なモデルとして、Riefらはフィルターモデルという概念を提唱している
- 認知機能は加齢と共に低下し、特に記憶、注意、実行機能の項目が低下するとされている
- 老年期身体表現性障害患者では注意および実行機能における認知機能低下が存在するという報告がある
- 老年期身体表現性障害では注意の低下を認めるほか、重症度は実行機能およびワーキングメモリに相関することが示された
- 注意とは、感覚・記憶・思考情報からの適切な情報の選択過程を意味する
- 注意の低下は老年期身体表現性障害の重症度とは関係していないことから、注意の低下は身体表現性障害発症前から存在していた可能性もしくは苦痛を伴う身体感覚を軽減するために補償的役割を担っている可能性がある
- 実行機能は、1)目標策定、2)計画策定、3)目標に向けた計画の実行、4)効果的な行動の4項目から成り立つ、独立しており創造的かつ社会において建設的な行動に不可欠な機能である
- 老年期身体症状症における実行機能の低下は、不快な感情や知覚に対するセルフモニタリング能力および修正能力の欠如を意味しており、それが身体表現性障害患者における不安や不定愁訴についての確信と関連している可能性がある
- 老年期身体表現性障害患者を対象として2年間の追跡調査にて、ベースライン時における実行機能低下が予後不要因子として認められることも明らかになった
- 治療において、とらわれの機制を提示することは、患者の不定愁訴の背景に心気症状が存在する場合に、それに対する洞察の有無の確認するために有用である
- 心気症状に対する洞察や治療意欲が得られない場合には、症状の背景に転換症状や身体化の機制が存在する可能性がある