内受容感覚の予測的処理から理解する身体症状症

上野大介 内受容感覚の予測的処理から理解する身体症状症 精神医学 2020;62(12):1597-1600

(ここ数年の文献で一番興味深かった by ucymtr)

  • 本稿では、内受容感覚の脳神経基盤に関する知見を紹介し、身体症状症の病態が内受容感覚の予測的処理に基づく予測誤差の修正困難さに起因している可能性を示唆する
  • 内受容感覚とは、恒常性機能を維持する内蔵からの求心性フィードバックの知覚、感覚および気づきから生じる身体内部感覚の総称である
  • 内受容感覚は視覚、聴覚、嗅覚といった外環境の知覚である外受容感覚や空間における身体の位置を反映する固有受容感覚とは区別されている
  • 内受容感覚には生理的な反応を反映している内受容の正確さ、認知的な反応を反映している内受容の気付き、メタ認知的な反応を反映している内受容感覚に対する自信といった3つの次元に分類されている
    • 内受容の正確さ 主観的な心拍数や内臓の動きが客観的な心拍数や内臓の動きと一致している程度
    • 内受容の気付き 自身の身体内部状態に対して主観的に気づくことが可能な程度を示している 多次元的アセスメント (multidimentional assessment of interoceptive awareness: MAIA-J)
    • 内受容感覚に対する自信 内受容感覚の正確さや内受容感覚への気付きに対してどのくらい客観的にみて正確なのかといったメタ認知の程度
  • 内受容感覚の神経基盤
    • 特に島皮質は内受容感覚や身体感覚の信号を受け取り、統合している
    • 島皮質は統合された内受容感覚の信号を前島皮質に当社市、前島皮質は心拍のタイミングを含む身体感覚の意識経験に影響を及ぼす
    • 島皮質と帯状回はこのような機能的結合から内蔵運動皮質と呼ばれ、以前の経験に基づいて予測した身体状態に関する予測信号を出すことによって、内受容感覚の予測的処理において大きな役割を果たす
    • 興味深いことに、内受容感覚にかかわる中枢神経基盤は痛みに関する神経基盤(たとえばペインマトリックス)とも共通するところがあり、身体内部のホメオスタシスの逸脱を意識化させる機能とホメオスタシスの維持および調整の機能を担っていると考えられる
  • 内受容感覚に関するfMRI研究
    • 内受容感覚の正確性は課題に依存せず島皮質と前部帯状回(ACC)に関連していることを報告している
    • 安静時fMRIの研究 デフォルトモードネットワーク、実行制御ネットワーク、セイリエンスネットワーク(SN;slience netowork)が高次認知処理と関連している
    • とくにSNは適切な行動を導くために、高度に処理された感覚データを内蔵、自律神経系、および報酬系に統合するために重要である
    • 安静時fMRI研究では、内受容感覚の正確性と島皮質を含むSNとの関連性が報告されている
  • 内受容感覚の予測的処理モデル
    • EPICモデルは、内受容感覚システムには内受容感覚の予測信号と予測誤差信号を交換するため島皮質と前帯状回(背側扁桃体も同様に)との間に単シナプス性の双方向的な結合があることを提唱している
  • 内受容感覚と身体症状症
    • 内受容感覚の不全が慢性的な身体症状症に影響していることを示唆している
    • これらの研究から、身体症状症の重症度は内受容感覚の不正確さと関連していることから、身体症状性は内受容感覚の予測的処理モデルによって説明できると考えられる
    • つまり、内受容感覚の不正確さが高まることによって、身体反応による実際の感覚と予測された感覚との誤差が大きくなり、身体症状性が悪化していると仮定できる
  • 内受容感覚と加齢
    • 高齢者の内受容感覚の正確性は、吻側前頭前皮質を起点としたSNと関連する他領域との正の機能的結合によって維持されていることが明らかになっった
    • 高齢者では、左島皮質を起点とした視覚に関する外受容感覚を処理する領域と負の機能的結合が内受容感覚の正確性の維持に寄与していることも明らかになった
    • Imamuraらは、高齢者の身体症状症患者の重症度と認知機能の関連性について検討を行った結果、重症患者と軽症患者とでは認知機能に有意な差は見られなかったものの、身体症状症患者は健常高齢者に比べMMSEの合計点数と注意機能が低かった
    • 高齢者の身体症状患者の病態理解には、加齢が内受容感覚の処理や認知機能に及ぼす影響を踏まえて、検討する余地がある
  • 今後展望
    • これまでの知見から、内受容感覚の不正確さが高まることによって、身体反応による実際の感覚と予測された感覚との誤差が大きくなり、身体症状症が悪化している可能性がある
    • 予測誤差が大きくなる2つのメカニズム トップダウンボトムアップの機能不全
    • 内受容感覚のメタ認知や気付きといった内受容感覚の認知的次元によるトップダウンの機能不全
      • →身体症状に対する過度な思い込みや自動思考が原因と考えられる
      • →身体の不快な身体症状のイメージをターゲットとして認知的再構成法など認知バイアスの修正が有効と考えられる
    • 内受容感覚の正確性といった内受容感覚の生理的次元によるボトムアップ処理の機能不全
      • →身体感覚への注意が過度に向いていることが原因と考えられる
      • →マインドフルネス・トレーニングの注意コントロールや注意訓練など注意バイアスの修正が有効であると考えられる