心気障害

稲垣卓司 心気障害 こころの科学 2013;167:29-32

  • 心気障害を含む従来の身体表現性障害では、患者の訴える身体症状が医学的に説明できないことが重要な診断要素であったが、実際の臨床現場では「医学的に説明できない」と断定することはきわめて困難である。この点が考慮され、病因論的な発想が要求されなくなったことが、今回の改定のポイントである。すなわち、「医学的に説明できない」ことは診断根拠として求められなくなり、患者の主観的な苦悩や障害、QOLの低下などに焦点が当てられるようになった
  • 医者も患者から「早く症状を治してくれ」と責め立てるように感じ、無力感を抱いたり、執拗な訴えへの対応に困惑したりしがちである。そのため、患者は適切な診療がなされていないという不満や不信感を抱く。医師は患者の執拗な、時に強迫的な訴えに辟易とし、進展しない治療に苛立ち、患者に対して陰性感情を持ちかねない。心気障害は、患者と医師双方が行き詰まりの関係に陥ってしまう可能性がある精神疾患である
  • みずからの苦難を身体的な不定愁訴という形で周囲に訴える。すなわち、このような患者の心理としては、防衛的・不適応的であるが、同時に社会性と誇り(自尊心)を維持しようとする二面性を抱いているとしている
  • 治療者の基本的姿勢 狩野
    • 身体症状で困っている主観的な世界を共感的に理解する努力をする
    • 身体所見のあるなしにかかわらず、症状は患者にとっては主観的事実であり苦悩であり、その症状をなんとか克服しようと努力を重ねてきたことを認める(妥当化)
    • これまでの医師や医療に対する情緒的反応や理解(不満や怒り)を肯定も否定もしない態度でじっと聞く
    • 患者が以前の医療機関に対するのと同じような過剰な期待を抱いていれば、今回も同じような不満を経験するかもしれないこと、同じ失敗を繰り返さないためにどのようにしたらよういかを患者と話し合い、医師・患者双方が、病気は慢性的であり、症状を完全に消失させるのでなく、症状を緩和させ、それをコントロールするように治療関係を築いていくことが大切である
    • 医師が抱きやすい陰性感情への対処法については、基本的に患者が不安や葛藤を身体症状に置き換えていることを医療者が理解し、そうせざうえない患者の苦悩に共感する視点を持つことが第一である。患者の心性については、「患者を病気にすがりつかなければいけなくさせるほど辛い事がある、本来なら病人としてでなく人生を歩みたいはずなのに」と理解していく姿勢が求められる