身体症状症の早期診断の重要性とその方法

上田剛士 身体症状症の早期診断の重要性とその方法 精神医学 2020;62(12):1579-1585

  • 古典的に器質的疾患を除外することが身体科医の第一の役割であり、器質的疾患を除外してから初めて身体症状症(SSD)の診療が開始されていた。しかし、器質的疾患の除外は容易ではなく、またSSDの診断にとって必要条件でもない。SSDを積極的に診断するほうが診断までの日数は短く、正診率はむしろ高い可能性すらある。SSDを早期に診断することで、不安や「症状の深刻さについての不釣り合いな思考」に対して早期にあぷろーちが可能となる
  • 器質的疾患の除外は容易なことではない。99%除外できても1%除外できず、さらに検査を勧め99.9%除外できたとしても0.1%除外できない。存在しないことを証明するのは存在することを証明するよりもよっぽど困難である
  • もし、器質的疾患と非器質的疾患と明確に二分できると仮定した場合の話だが、器質的疾患を完全に除外することが難しいならば、非器質的疾患(例外のここではSSDを指す)を積極的に診断するほうが容易である
  • DSM-5によるSSDの診断基準には、「器質的疾患の除外」の項目がない。器質的疾患の併存を認めているのである。身体疾患を持っている患者は健康への不安が強くなり、さまざまな愁訴を訴えやすくなる。 SSDが併発しても驚きはない。そのためSSDの診断を除外診断で行うのは不可能であり、積極的な診断をしなければならない
  • 器質的疾患ともSSDともいえないグレーゾーンの場合もある。この場合、各種検査で器質的疾患が見つからないからといって、除外診断的にSSDと決めるけるのは不適切である
  • 早期診断のコツ
  • DSM-5の診断基準には、「自分の症状の深刻さについて不釣り合いかつ持続する思考」という項目がある。SSDを早期に疑うには患者の症状がどれほど深刻であるかを見極める必要があり、日常生活にどのような影響を与えているかを具体的に聴取しなければならない
  • SSDを疑う身体所見
  • 患者の表情を観察しながら病歴聴取することは大切である。ため息が多いことも心的ストレスに相関がある
  • 喉元や首を触る、額や頬をこする、髪をもてあそぶ、腕時計を触る、妊婦が原をこする、両手を組んで指をこすり合わせるなどはストレスに対する「なだめ行動」として認められることがある。
  • 初回の診察ならば理解できるが、再診時にも診察室内でこれらの行動がひっきりなしに行われていれば、やはりSSDの可能性を高めにみつもることになる
  • Closed eye signとは腹部触診時に眼を閉じていれば、非器質的な疾患である可能性が高いとするものである
  • 余談とはなるが、身体診察には診断的価値だけでなく象徴的な価値がある
  • SSDの患者が「検査しても異常はない」と説明をうけても安心できず、ドクターショッピングに走ることはよくあるつまり検査自体は医師の安心に繋がっても患者の安心には必ずしも繋がっていない
  • そもそも不定愁訴に対して処方や検査を提案しているのは患者よりも医師であるという報告がある
  • 検査を行うにしても、必要最低限の検査(たとえば血液検査は甲状腺機能検査しか行わないなど)に留めている
  • SSDの診断基準(DSM-5)には「典型的には6ヶ月以上」という文言が入っているが、SSDが疑われるような状況下では、患者の不安を無闇に煽るような言動は慎み、発症6ヶ月未満の早期の段階から精神面もアプローチしていくべきであると考える
  • 可能な限りその不安は医師が引き受けたいと思っている。筆者はこれを不安のバトンタッチと呼んでいる。器質的疾患のリスクはまだ存在するが、不安のバトンタッチを行うべきと考えた場合には、家族と口裏を合わせることもる