高齢者の身体症状症とその鑑別

新里和弘 高齢者の身体症状症とその鑑別 Geriat Med 2019;57(3):223-226

  • 身体に不調が生じた際に、「もう年だから(仕方ない)」と受け入れることができる高齢者と、頑なに不調を訴え続ける高齢者がある。後者は度が過ぎると精神科の病名がつくことになる。従来身体表現性障害とよばれていたその病名は、DSM-Vとなり身体症状症と呼び名を変えた
  • 注意を要することとして、同様な身体不調を訴える患者の中に、精神病性の疾患(仮面うつ、統合失調症の心気妄想)が紛れることが挙げられる
  • DSM-IVでの身体表現性障害の診断基準ではMUS(medically unexplained symptoms)を認めることが必須とされていたが、身体症状症ではそれが外された。このことは、患者の訴える身体不調の器質的原因がたとえはっきりしなくとも、その訴えが不釣り合いに過度で長く続き、生活に支障を来すものであるならば、身体症状症と診断ができるようになったということである
  • つまり、患者の側に立った改訂といえるが、どこからを過度とするかの線引が難しく、患者側、診断をする側からも恣意性の入り込む余地を残した変更とも言える
  • 従来心気症と診断されたもののうち約75%が身体症状症に、残りの約25%が病気不安症に含まれると予想されている
  • 小精神療法の要点を列挙すると、1)器質的原因が特定できないため診断が下せないという謙虚な姿勢を意思側も示すことが重要で、単に気持ちのせいであると決めつけないこと、2)症状の消退を目指すより症状への対処法に焦点をあてること、病気と上手く付き合うこ方策を探ること、3)診察と検査は適度を心がけることなどが示されている
  • エイジングパラドックス 超高齢となりADLは低下しても、逆に生活における幸福度は高くなっていく現象
  • この現象は、ありがたさの認識や社会的自己からの脱却、肯定感、利他性、無為自然などの特徴をもつが、このような境地の獲得を目指すことは、超高齢社会では一つの目標となり得るのではないだろうか
  • 身体症状症の患者を前にして感じることは、安寧なよい生を得たいという内的な切望である
  • 自らの老化に伴う変化を受け止めて、満足感と諦観に支えられた領域に一歩でも近づけるようにサポートすることが、高齢者の身体症状症の最終的な治療目標になるのではなかろうか