西原真理 身体症状症、疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害) 精神科治療学 2017;32(8):1009-1013
- DSM-5から身体症状症(疼痛が主のもの)が新しく登場したが、これまでの概念から大幅に変更されたものといえる。改善点は特に医学的に説明できないという点や、心因について排除したことである
- DSM-IV-TRにおける身体表現性障害の基礎に置いてきた医学的んい説明できない症状(medically unexplained symptoms:MUS)という概念をDSM-5の身体症状症では外したことである
- 医学的に説明できないという考え方は実際に広がってしまい、あたかも何も以上がない症状、すべてが頭の中で発生している症状、あるいは妄想という見方がされてしまう。これは患者にとって大きな苦痛であり、治療を開始するために治療者が患者と関係性を構築するために大きな障害になっている
- 心因性の身体症状ということについては厳密な意味では立証されていないことについて、我々はもう一度考える必要があるだろう
- また、例えば腰痛に悩む患者の治療を続ける中で、数年経過しやっと腰痛と結びつくような辛さがあったことが語られるようになったことは決して珍しくない
- つまり、心理的要因が痛みの影響するという現象は否定しないが、それは長い治療の中で少しづつ見えてくることも多く、操作的診断という枠組みには適さないと思われる
- ポイントは思考、感情、行動異常として疾患を概念化することにあり、換言すると痛みに対する認知機能の偏りを重要視することにもなった
- 最近はオピオイドやベンゾジアゼピン系薬物が慢性の痛みに適応されていることが多く、痛みの訴えと軽度の意識障害が相まって複雑な病態を呈している症例もあるため、特に注意が必要である
- 「過度」という点はどこから線を引くべきかとうい大問題があり、恣意的になりがちである
- 今後私たちには臨床的な経験を積み重ねながら、具体的な項目としてどこからが過度なのかについて提案してくことが求められる
- 実のところ私見ではあるが、身体症状症のB項目のうち、感情と思考についてはこのPCSで判断が可能だと考えている
- 社会的スティグマにつながる恐れについても考えておきたい
- 痛みによる正常から逸脱した感情、不安、行動を引き起こす元になる神経基盤は全く見出されていない
- メタアナリシス研究では、前帯状皮質、後帯状皮質、島皮質などの関与が上げられているが、問題点も多い
- 残念ながら、痛みそのものに対しても一定の反応を示す脳部位とされるペインマトリックスという概念は再検討が必要とされており、他の感覚のモダリティと比較しても明らかにはされていない
- 総合的に考えると、身体症状症のバイオマーカーはいまのところ「ない」との結論となる
- 今やまさに私たち精神科医が、このような痛みの集学的治療に対して積極的に関わるべき時期がきたのではないだろうか
- もちろん身体症状症という病名が登場しても患者そのものが変わるわけではない。しかし新しい病名が使用されることは患者に多大なる影響を与えうるのである。その功罪について私たちはしっかりと考えなくてはならない