オピオイド依存に陥った慢性疼痛患者の対応

成瀬暢也: オピオイド依存に陥った慢性疼痛患者の対応. ペインクリニック,39:1591-1602

  • 世の中に慢性疼痛で悩む人は少なくない。慢性疼痛の多くは通常の鎮痛剤で解決しない
  • 処方薬依存患者の特徴
    • 何事も薬で解決しようとする傾向
    • “”薬でしか解決できない””という認識が強化される
    • 自分の力で解決するという当たり前のことができなくなる
    • 「まとめ飲み」もエピドード的に繰り返される
  • 依存症患者の心理的背景
    • 「自分の弱みを見せられないこと」であり、「安心して人に相談できないこと」
    • 薬物使用は、「人に癒やされず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」という視点が最も適切
    • 人と信頼関係を築けず、人に癒やされることができない点が依存症の根本的な問題である
  • 慢性疼痛患者の心理背景
    • 「身体の痛みでえしかSOSを出せない人」という見方もできる
    • 慢性疼痛の背後には、心理的社会的苦痛が存在するとされる。ならば、その背後の問題が解決しなければ症状は収まらないであろう
  • 言語で心理的社会的苦痛を伝えられなければ、身体で表現するしかない
  • 極言すると、「自己評価が低く、自分に自信が持てない」「人を信じられない」「本音を言えない」「見捨てられることへの不安が強い」「孤独で寂しい」「自分を大切にできない」などの依存症患者にみられる6つの特徴は、慢性疼痛患者の特徴とも重なる。つまり依存症患者も慢性痛患者も、根本的問題は共通していると考えられる。とすると、慢性痛患者に対して依存性のある薬物で治療した場合、依存が形成される危険性は高くなる
  • 両者ともに大切なことは、症状が続いていることの理由を理解することである。これらの「症状としての表現できない患者の苦悩」を理解した対応が必要である
  • 慢性疼痛患者も同様に、「信頼できる人と安心できる居場所」を持てるようになって初めて症状が軽快する
  • 一般的にわれわれは慢性疼痛患者に対して、依存症患者に対すると同様に、「厄介な人」「精神的に問題がある人」などの陰性感情を持つことが多く、そのことを患者は敏感に感じている
  • 患者は、自分を理解してくれ、信用して本音を話せる存在を求めている。人の中にあって様々な不安に対して癒やしを得ることができなかったために、身体症状である痛みという形で不安や苦痛を表現しているのが慢性疼痛であり、薬物による仮初めの癒やしを求めてコントロールを失った状態が依存症である
  • とすると、人の中にあって安心感・安全感を得られるようになった時、痛みで表現したり薬物によって気分を変えたりする必要はなくなる
  • 依存症患者のオピオイド乱用は責められるべき「悪」ではなく、ともに解決を目指す「症状」である。患者と治療者、家族が協同してこの問題に取り組んでいくという姿勢が求められる
  • 「孤独な自己治療」から「人に相談できるようになること」が当面の目標となる
  • 慢性疼痛は身体化の診断であるが、精神科では疼痛性障害(DSM-IV)、持続性身体表現性疼痛障害(ICD-10)などと診断されてきた
  • 最新のDSM-5では、「身体症状症、疼痛が主症状のもの」とされ、外苑も大きく変更された
  • これまで重要視された、「医学的に説明のできない症状」という概念は削除され、「心理的要因が疼痛の発症、重症度、悪化、持続に重要な役割を果たしている」という項目も外された
  • 代わって、「痛みに対する思考、感情、行動の異常」として疾患を概念化しており、痛みに対する認知機能の偏りが重視されることになった