北原雅樹:穿刺(ワクチン接種を含む)を契機とした遷延痛への対応. 産科と婦人科 89(6):657-661,2023
- IASPの痛みの定義にあるように、医療者も患者も、個人は人生での経験を通じて、痛みの概念を学ぶ
- そして最初に学ぶのは急性痛であり、痛みは急性痛の感覚として経験・記憶され、そして急性痛として対処される
- 人が慢性痛を経験するのははるかに後年であり、したがって、いざ慢性痛を経験したときにそれを急性と同様に捉えてしまうのは仕方がないことである
- しかし、実際には急性痛と慢性痛とは大きく異なり、そのため有効な治療法も異なってくる
- 慢性痛と急性痛は異なるということを真に理解して慢性痛に対処できるようになるためには、急性痛について長年の間に蓄積してきた経験や記憶を、慢性痛についての知識や経験を基に理性をもってねじ伏せる必要がある。
- これは容易なことではなく、かなりの慢性痛診療の経験が必要であり、しかも気を緩めると熟練者でもつい急性痛の視点に引きずられてしまう
- ICD-11で示されたように慢性痛はそれ自体が疾患であり、しかも原因がよくわからないことが多い。したがって、少なくとも臨床の現場では、慢性痛である(急性痛やがん性痛ではない)ことこそが重要なのであり、細かい診断名にはあまり意味がない。
- 穿刺後遷延痛への対処
- それ以外の多くの場合では痛みの要因は筋筋膜性疼痛である。おそらく、注射後のごく初期の強い痛みに対して、痛みが悪化するのを恐れて注射された
- 上肢をあまり動かさなくなったり不自然な格好で保持したりすること(恐怖回避行動)で起こるのではないかと思われる
- 「心因性」「精神的なもの」などの言葉は様々な誤解を生みかねないので不用意に使うべきでない
- 対処法
- 大前提として、原因の追求を「棚上げする」ことが必須である
- 原因追求を棚上げするとは原因の存在を否定することではない。最も重要である患者の症状の軽快に焦点を絞って、患者・家族・医療者が協力して対処するためには、少なくとも一時的に原因の究明から離れる必要がある。
- この際注意すべき点として、患者・家族のほとんどが原因や診断名について誤った概念を持っていることである
- これらについてしっかりと説明をしないと、患者・家族はなかなか棚上げに応じてくれない
- 原因を究明するのももちろん重要なことでしょうが、それよりも急いで対処すべきことがあるのではありませんか?というような例え話をする場合もある
- おわりに
- ワクチン接種を契機とした疼痛に関していえば、診療で最も重要なことは医療者側が「何とかなる」と高をくくることではないかと筆者は考えている