北原雅樹:慢性疼痛診療におけるペインクリニックの役割. Brain and Nerve 75(3):235-241,2023
- IASPの痛みの定義にあるように、医療者も患者も、「個人は人生の経験を通じて、痛みの概念を学ぶ」
- われわれが人生で最初に遭遇し学ぶのは急性痛であり、痛みは急性痛の感覚として経験・記憶され、急性痛として対処される
- 人が慢性痛を経験するのははるかに後年であり、したがって、いざ慢性痛を経験したときにそれを急性痛と同様に捉えてしまうのはやむを得ないことである
- 痛みシステムはしばしば火災報知器にたとえられる
- 急性痛は火災報知器が正常に作動して、火(組織の損傷)に対してアラームが鳴っている(痛みを感じている)状態である
- システムそのものが故障して、火(組織の損傷)がないのにアラームが鳴っている(痛みを感じている)のが慢性痛である
- そこで、「慢性痛と急性痛とは異なる」ということを真に理解して対処できるようになるためには、急性痛について長年蓄積してきた知識や診療経験(主に他社の経験)に基づいて、理性に基づいてねじ伏せる必要がある。
- 慢性痛では原因がもともとよくわからない。したがって少なくとも臨床の現場では、慢性痛である(急性痛やがん性痛ではない)ことこそが重要なのであり、細かい診断名にはあまり意味がない
- なぜなら、慢性痛では診断名がことなっていても、治療方針はあまり変わらないからである。
- 患者・家族の多くは診断名が確定できないと治療法がなく、逆に診断名さえ確定すれば、治療法は存在すると思っている。
- このようにして患者・家族だけでなく医療者も、どこかの誰かがつけた診断名にこだわり、振り回されがちになる。
- そして、患者や家族は、インターネットやマスコミや知人からの情報の中から自分が信じたい情報だけを集めていくことで、ますます深く罠にはまっていくのである
- 慢性疼痛治療における目的と最終目標は?
- 痛みの軽減は慢性疼痛治療の最終目標の一つであるが、第一目標ではない。医療者は患者の痛いの管理を行いながら、患者の生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL0を向上させることを治療の目的とすべきである
- なかでも、物忘れの症状が主な健忘型MCIより、注意力や遂行力などの記憶力以外の認知機能が低下する非健忘型MCIは診断がさらに困難となる
- 言語理解が弱い場合、言葉の意味を正確に捉えずに使用している可能性があり、したがって、コミュニケーションで伝えたいことと実際に伝わっていることが一致していない場合がある
- ワーキングメモリが弱い場合には耳から入った情報を覚えておくことが苦手な場合が多いため、口頭での説明が理解できていないおそれがある
- 獨協医科大学の山口重樹先生の名言であるが、「慢性痛だからといって薬剤を慢性的に使用する必要はない。」