牛田享宏 我が国における運動器慢性疼痛の診療体制 Locomotive pain frontier 2012;1(1):24-27

  • 急性痛 痛みには必ず生物医学的な原因があり、その原因を物理的治療法で取り除けば、痛みは寛解し、患者の機能障害は減少する」という生物医学モデル(biomedical model)と呼ばれる考え方に基づいている
  • 長引く運動器の痛みにおいては、罹患部位の器質的異常や身体機能の問題だけにとどまらず、精神医学的要因、心理学的要因、社会的な要因などが関与して、痛みが増悪、遷延化していることも多い。
  • 痛い時は安静にしていれば改善するという、急性痛的な考え方は、慢性痛ではむしろ症状の増悪因子になることについても留意しておく必要がある。運動器を廃用状態に陥らせると、筋の萎縮のみならず神経機能異常を引き起こすことも研究されてきているところでもある。
  • 再び痛みがでると困るという恐怖のために動かないというkinesiophobiaについては背景にある精神心理的な問題にも考慮しつつ、動くことが有する意味意義について教育しつつ動くことへの自信を回復させるよう実践させていく必要があるものと考えられる
  • 慢性の痛みは生物的な問題に加えて社会、心理的な要因をもつ多因性であり、治療抵抗性の慢性痛の場合はこれらの要因が複雑に絡み合っていることが多い。そのため難治性では単科のみでは対処することが難しく、専門的な診療科の枠組みを超えた複数の学問体系(multi-disciplne)の共同作業、すなわち集学的あるいは学際的と呼ばれる包括的な対応が必要とされ、海外では導入されている
  • multi-disciplinary 各専門間に連携必要なし
  • inter-disciplinary さまざまな分野の専門家が一つの場所に集まってチームとして患者を評価し、全員の意見を協議した上で、チーム医療としての治療方針を打ち立てる
  • 運動器の慢性痛は多くの国民が有する課題であり、患者や家族の生活の質の問題のみならず医療経済的にも大きな問題になっている。これらには器質的な問題とともに心理社会的な問題が加重して患者を苛んでおり、従来から行われている生物医学的な考え方に基づいた投薬、外科的治療、理学療法を行うだけでなく、生物心理社会的モデルの概念に沿った病態の把握や対応も必要とされる