ヒトパピローマウイスルワクチン接種後の神経症状は、なぜ心因性疾患と間違われるのか?

高嶋博: ヒトパピローマウイスルワクチン接種後の神経症状は、なぜ心因性疾患と間違われるのか? 神経治療 35(4):536-542

  • 本症は、本質的には、病初期は視床下部を中心とした症候やsmall fiberの障害、その後、散在性の自己免疫性脳炎としての幅の広い中枢神経症状が出現すると考えられる
  • しかし、症状が多彩でこれまでヒステリー(身体表現性障害、身体症状症)の症候と言われてきた症状を併せ持つことから、l病院では心の病、または疼痛に伴う心因反応として捉えられることが多く、適切な医師に治療を受けられない状況が実際には起こっている
  • 抗体が直接的に症状を引き起こしているという可能性は低いが、一つのバックグラウンドとしては高頻度に自己抗体が存在することが明らかになり、免疫機序を示唆する所見のひとつと考えられる
  • 我々の得た臨床症状と臨床所見からは、びまん性の脳障害とsmall fiber neuropathyがあることは疑いようもないが、ワクチン推進の医師からは強力に心因性の疾患に入れ込もうという力が働いていることもまた事実である
  • HPVワクチンと本神経障害との関連について、関連性を疑う意見が多くでている最も大きな理由は、本症で見られる神経徴候が以前はヒステリーと言われてきた身体表現性障害、疼痛性障害、解離性障害などと言われる深層心理機序において引き起こされるとされている心因性疾患で見られるいわゆる偽神経症状を持つからということにつきる
  • もともと、精神科と神経内科は一緒に発展してきた経緯があり、原因のみつかったものから器質性の疾患として、神経内科系の認識されてきた。現在の神経学は、局所解剖学、すなわち神経局在に由来する症候や症状の理解には大変優れたものであるが、大脳がびまん性に障害されるような病態には弱いものであり、あまり対応ができていない状況である
  • 医師が患者の症状をみて直感的に辻褄があわない、またはわざとらしくみえるような症状であると考えると、それはすなわち”偽神経症状”となり、心因性起源の疾患と診断される。
  • しかし、ほとんどわかっていない我々の大脳機能の理解のレベルから考えると、この症状はつじつまが合わないなどということは軽々しくいえないはずである
  • その症状がなんとなく不合理であるのなどの理由だけで、心因性機序の疾患と診断してしまう権威ある病院があるが、その診断はその大病院という権威により容易には、修正が難しいのが実情である
  • もともと身体表現性障害は詐病ではなく深層心理のレベルの問題といわれており、この解釈もまた矛盾している。心因性機序を強く考える理論構築においては、その説明に都合の良いときだけ、その症状をまねできるかできないか(詐病的考え)により分けたり、あるときは無意識である深層心理による発生機序を使い分けながら、都合よく心因機序に無理に持っていっている感は否めない
  • 一見不合理に見える徴候を注意深く観察し理解できる医師のみが、HPVワクチン接種後脳症の病態を見極めることができるのであろう
  • フロイト以来,100年以上にわたって、深層心理のレベルで患者の知らないところで、本人がたいしてストレスを自覚していなくても、どんな症状でも起こり得るという理屈が通ってきている。現在でもそのように患者に説明しているわけだが、この時代になっても果たしてそれでよいのだろうか。重症筋無力症やGuillain-Baree症候群、N-methyl-D-aspartate receprtors(NMDAR)脳炎、橋本脳症など多くの疾患が深層心理機序から抜け出したが、そのことは忘れてしまっている。これまで、一つでも深層心理の抑圧でおこったことが正しく証明された疾患があるのであろうか。私は、深層心理機序に固執しても、いろんな原因による大脳のびまん性障害の疾患が抜けた後に、最後に残る疾患があるかどうかさえ疑わしいと考えている。