永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント11 痛みと人生 スポーツメディスン 33(3):43-49, 2021.
- スポーツ外傷の受傷から回復に至る間の選手の様子を見ていると、痛みの表現や振る舞いは様々であります
- 同じようなケガが痛みでも全く痛みを気にしていない選手から、受傷した部位を大事にかばっている選手まで幅広くいます
- 痛みの訴えは過去の経験や心理社会的要因により修飾され、発言や行動など様々な表現型である「痛み行動」を呈します
- 過去の経験とは赤ちゃんから大人に成長する過程で学んできたことが反映され痛みに関わることを意味します
- ケガをしたときの侵害受容刺激の体験をして、周囲の反応を学習することを繰り返して、痛みをどのように表現していくかを学びます
- そのために、受傷した選手の訴えを理解し共感し要素するならば、その選手がどのようなライフステージに位置し、どのような人生を歩んできたかについて考える。ことは大切になります。
- とくに慢性疼痛においては、人生の文脈を抜きにしては、痛みの訴えを理解するのは難しくなります。
- 幼児期の痛み
- 赤ちゃんでも侵害刺激を脳で認知してもその意味付けがなされていません
- 得体のしれない感覚だったものが「痛み」と周りの人から教えられ認知し、転んで感じたこの痛みが「大丈夫なもの」と意味づけされ学習します
- したがって、この過程で適切に痛みを学習した幼児とそうでない幼児には、成人期以降の痛みの受容に差が生じる可能性が指摘されています
- 青年期から成人期の痛み
- 青年期の痛みに対するヘルスケアは両親の行動に依存しやすいという特徴があり、問題となる場合があります。
- 両親自身の痛みの管理方法の影響を受ける可能性が高い
- 自分での意思決定がまだ難しい青年期の選手に押し付けてしまうことは悪い方向に働くこともあり、治療アドヒアランスにも大きく影響します
- この時期に身についてしまった信念は、その後の競技生活、スポーツ活動に大きな影響を及ぼし、傷害にわたって痛みに適切に対処できない要因にもなりえます
- 虐待と痛み
- 児童虐待が成人になってから痛みに関係する理由としては、ストレス管理能力の欠如や周囲とのコミュニケーションがうまく取れずに社会的援助が得られないことが挙げらており、適切に休息を取れなかったり医療機関にかかれなかったりして痛みの悪化につながっています
- また神経感覚処理において過去のトラウマが痛みの増幅に関与し、痛みの感受性が低下しているという報告もあります。
- 痛みに対する苦悩が強い場合、生育歴を臨床心理士が聴取する場合があるのはこのような可能性があるからです
- 幼少期から虐待的ともいえる環境で育ち、自己決定の機会が奪われると、本当にこれでよかったのかと客観的に振り返ることが困難になります。
- それは自分のこれまでの人生を否定することにつながるからです
- 否定されたくないが故、それまで培ってきた信念を頑なに正しいと信じ、貫こうとしてしまいます。
- その場合、自分の信念と異なる考えに出会ったとしてもそれを無視してしまったり、学びの場から離れてしまったりするため、痛みの改善に対して新しいアドバイスを受け入れるようなコミュニケーションがとれなくなってしまう恐れがあります。
- 中年期の痛み行動
- ライフイベントにおけるストレスは、痛みの認知的側面、感情的側面に大きな影響を及ぼします
- 心身の変化を自覚せずに、若い頃培った価値観などのポジティブなイメージのまま現在の活動を継続している方のうち、スポーツパフォーマンスの低下を素直に受け入れられない方がいます。10年前の身体能力が今も同じだけ残っているはずだと思い込み、活動量を調節せずスポーツ活動を行ったら、ケガの可能性が非常に高まってしまいます。また、心身の悪循環に陥り慢性疼痛化するリスクも高まります
- 高齢者の痛み
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- このように見ていくと人生において痛みはあらゆる時期において感じられ表現されるものであり、人間が育つ契機となったり、危機への対処法を学習したりといったポジティブな側面がある一方、人を苦しめたり人生を狂わせてしまったりと多くの側面をもっています。