疼痛と脳画像

小平雅基 疼痛と脳画像 トラウマティック・ストレス 2015;13(1):44-50

  • 本来痛みとは我々生命体が外傷や疾病を受けた際に、被害箇所が回復に向けて機能するために、被害箇所周辺を広範囲に行動制限するための重要な感覚と言える
  • しかし一方で疼痛性障害の場合などのように、痛みが慢性化して(時にその痛みが受傷とは明らかに解離した形で)、その痛み自体により社会的機能の傷害や生活的苦悩が引き起こされる場合もある
  • 疼痛の知覚は、感覚弁別要素、感情要素、認知要素からなり、それぞれは異なる中枢神経システムを介在していると理解されている。
  • すなわち疼痛は、あくまでも感覚としての”痛み”だけではなく、それによって引き起こされる感情や記憶、またそれに対する認知などを含んだ総体ということで理解できる。
  • 親愛なる対象の痛みに共感する際に賦活されるのはあくまでも疼痛の感情要素であり、感覚弁別要素ではない
  • 慢性疼痛を伴う患者においてのPTSDの有病率にかんする報告では、近年上昇傾向にある
  • PTSDは疼痛が慢性化、重症化する際の注意すべき要素と考えていいだろう
  • 痛みはPTSD罹患者の最も有力な身体徴候であり、特に兵役経験者にその傾向は顕著であるとの報告や、トラウマ的な出来事の後に発生する痛みはPTSDの発生のリスクファクターになるとの報告も認めている
  • PTSD症状を伴う難民の臨床群において76%の割合で慢性疼痛が存在
  • 拷問の経験がある難民においてはとりわけ高頻度で慢性疼痛を認めているといる報告もある
  • 幼少期の虐待体験と成人になってからの慢性とうつとの関連についての報告も数多く認めている
  • Davisらのメタ解析
    • 被虐待の経験のある対象は被虐待の経験がない対象よりも痛みの症状が多い
    • 慢性疼痛の患者は健常者よりも被虐待の既往の報告が多い
    • 慢性疼痛を伴う患者は慢性疼痛を伴うコミュニティサンプルよりも被虐待の既往の報告が多い
    • 痛みを報告するコミュニティサンプルは痛みを報告しないコミュニティサンプルよりも被虐待の既往の報告が多い
  • PTSD群の方がnon-PTSD群よりも実験的疼痛に対して、島皮質(嫌悪反応に関わる)の活動が亢進し、扁桃体(恐怖反応に関わる)の活動が低下しているという結論は、非常に興味深い