ストーリーで理解する痛みマネジメント10 アドヒアランス

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント10 アドヒアランス スポーツメディスン 33(2):40-44, 2021.

  • とくに慢性疼痛においては、遺体の感覚が身体の異常を知らせる警告信号としての役割を果たしていないため、痛みの治療とパフォーマンスアップを区別してトレーニングに臨みます
  • そのため、痛みに対する適切な知識を持ち、その日の調子を把握し治療者や指導者に報告できる自己観察能力や、能動的にかつ自制的に取り組むことができる自己管理能力が求められます。
  • 患者が積極的に治療やトレーニング方針の決定に参加し、その決定を理解し介入を受けている状態を「アドヒアランス」といいます。
  • アドヒアランスは主に慢性性を持つ疾患の療養に必要な概念として2003年に「患者が服薬、食事療法、生活習慣の改善、運動などに関して、医療者の勧めに自ら同意し一致した行動をとっている程度」とWHOが定義しました。
  • それまでは、患者の療育行動は医療者からのアドバイスをいかに守れるかの忠実性、「コンプライアンス」の概念で成立してきました。
  • このような「患者は治療に従順であるべき」という患者依存の治療概念から脱し、「自分自身を支える責任を持つ」概念が必要となりアドヒアランスが議論されるようになりました
  • 慢性腰痛の研究では多次元アドヒアランスが高いほど痛みや機能障害の改善が期待できる研究結果もあり、関連が報告されています
  • アドヒアランス維持に関わる因子
    • 選手側の因子
      • 痛みの強さ、原因についての考え方、適切な知識の有無、治療内容についての考え方、自己効力感、心理社会的要因
    • 介入者の問題
      • 生物医学モデルに偏った説明や治療、コミュニケーションスキル、実践的なスキル
    • 環境の問題
    • 病院や施設へのアクセス、設備内容、一緒に取り組む仲間や指導者との社会的関係、家族との関係、チームでの役割や期待など、経済的条件
  • とくに慢性疼痛は、痛みに対する正しい知識を介入者も選手も持つことが必要であり、そのうえで選手の信念や個性が尊重された取り組みが行われます
  • それらの基礎が合った上で、専門家のサポートの元、最終的には選手自身が選び決断していくことがスタートになります。
  • かつては、医療的な介入や、リハビリテーション指導、競技のトレーニングなどは、いわば、上からの押しつけ的な方法で行われてきました。
  • しかし、自身の身体のことに対し主体的に関わらないことの弊害は大きく、とくに慢性性の疾患、傷害では、自分で意思決定しコントロールしていくことが有用です
  • 専門家の意見を聞きながらも、その都度、自分の人生は自分自身で決定し進んでいく、このような心構えを持ち痛みのマネジメントに取り組むことが理想です。