マインドフルネスと内受容感覚

山本和美 マインドフルネスと内受容感覚 身の医療 2017;3:18-24

  • マインドフルネス瞑想の練習を積み重ねていくにつれ、自己の内外の事象の関係性において生じるストレス反応などの身体感覚や思考、感情への気付きが高まり、それまで”自動操縦状態”で反応して習慣的・条件反射的に繰り返されてきたパターンに気づくともに新たに適応的な対応への選択肢が生まれる。また自己へ気づきは他者への気付きにもつながらり、対人関係に肯定的な影響を及ぼす
  • 心身症患者の特徴的病態であるところの自己の感情への気付きに乏しいアレキシサイミアおよび身体への気付きにとぼしいアレキシソミアという心身状態への築きの低下である
  • アレキシサイミア傾向の心身症患者の特徴の一つとして身体症状を過剰に感じてしまう身体感覚増幅傾向もみられる
  • 内受容感覚の神経基盤 島皮質と帯状回
  • Sethらが提唱した予測符号化モデル(predictive coding model)によると、視覚、聴覚、触覚などの外受容感覚(exteroception)や、内受容感覚は、脳内で過去の経験に基づいて期待・推測された内的モデルによるトップダウン的な能動的推論(active inference)と外界や身体から脳に入力されるボトムアップの感覚を反映する知覚的推論(perceptual inference)との間で常に照合され処理が行われている
  • 両者間で予測誤差が生じた場合それを縮小しようとして、能動的推論に基づいて予測された感覚に合うように何らかの行為を行って身体の状態を変化させたり、あるいは知覚的推論によって、実際の感覚を変えずに予測値の認知を変えたりすると仮定されている
  • 能動的推論を重視して感覚を変化させる方法は、感覚の正確性を低下させる可能性があるため内受容感覚の障害に繋がりやすく、身体感覚の増幅や自己調整力に影響して様々な身体疾患へのリスクを高めると考えられている
  • マインドフル瞑想は、感覚そのものを調節して変えようとせず、ありのままの感覚を受容し観察するという感覚に対する態度を変えることで、条件付けられた不適応な行動を適応的なものへと方向づける
  • マインドフルネス効果の構成要素と内受容感覚
  • Holzelらは神経生理学の観点からマインドフルネス効果の構成要素を、1 注意制御 (attention regulation) 2 身体感覚の感受 (body awareness) 3 情動調整 (emotion regulation) 4 自己感の変化 (change in perspective on the self)の4つの分類し、これらの構成要素の密な相互作用が自己制御力を高めると考えた
  • 1 注意制御
    • マインドフルネス瞑想の効果の中核
    • 注意集中の練習において脳内では、1 注意散漫 2 注意散漫への気付き 3 注意の転換 4 注意の維持という4つのサイクルが繰り返されている
    • 注意散漫状態は、内省状態にかかわる内側前頭前野・後部帯状回、楔前部などの領域が活動するデフォールトモードネットワーク (default mode network ; DNM)と呼ばれ、安静状態で活動が活性化し認知課題の遂行中は活動が低下する
    • DMNの活動が抑制できないと注意欠陥や課題遂行が困難になったり、また過活動はうつ病、不安障害、注意欠陥などに関連すると考えられている
    • 注意散漫への気付きは顕著性ネットワーク(salience network)の領域で起こり、主に身体感覚や感情の観察に関わる島皮質と前部帯状回が活性化する
    • 前部帯状回はマスターコントロールの機能を果たし、注意散漫に気づいて注意を転換するが、その働きは瞑想初心者において活性化し、熟練者になると注意集中が安定するため働きは低下する
    • 注意の転換は、認知的なコントロールに関わる背外側前頭前野が強く活動し、注意の維持においても引き続き背外側前頭前野が活性化する
    • マインドフルネス瞑想を始めたばかりの慢性疼痛患者にとっては、痛みへの注意の固着から注意の転換や柔軟性を得ることは感情的苦痛の減弱に繋がる
    • また対象への注意の向け方として、「価値判断にとらわれない」ことが重要であり、快・不快、好き・嫌いなど評価を介さずに対象に注意集中してありのままを観察する態度を養う。このことにより内受容感覚への安定した気づきが促され、正確性の高まりや不適応な条件反射的習慣の見直しに繋がると考えられる
  • 2 身体感覚の感受
    • MBSRでは食べる瞑想として一粒のレーズンを五感のすべてを用いて味わう体験をする
    • 身体感覚を重視するマインドフルネス瞑想は、それまでの症状に対する認知的評価や増幅された感覚から実際の身体感覚に注意を向けモニタリングすることを可能にする。練習を続けていくことで身体感覚への観察力が高まり、内受容感覚の正確性が増す。日常生活における様々な状況において知覚的推論による内受容意識は、それまでの不適切な条件反射的習慣に気づきをもたらし、適応的な対応へと導いて自己効力感も高めることが示唆される
  • 3 情動調節
    • 情動とは、感情とそれに伴う生理反応のことを言う
    • 対象が不快や嫌悪と感じているものに対してhあ、初めは勇気が必要であるが、練習を重ねていくうちに深いん感情や思考に対して一定の心的距離をおいて客観的に眺める脱中心化が可能になる
    • 痛みのような深いと感じる身体感覚に対しても、落ち着いた心的態度で痛みの性状を観察できるようになると、痛みそれ自体の感覚と痛みの感覚への破局的思考による情動的苦痛とを識別できるようになってくる。そうすると痛みの知覚自体に変化がなくても、痛みとの関係性の変化が感情的干渉を減弱し、苦痛な情動軽減が軽減する
    • MBSR終了後の参加者たちの脳活動を調べたかんきゅうでは、腹外側前頭前野の活動が亢進し情動調整力の高まりが認められた
  • 4 自己感の変化
    • マインドフル瞑想は、今この瞬間の自他の状態に注意を向け、評価にとらわれずに受容する心的モードを養うことで自分自身はもちろん他者への慈しみの気持ちを育むことが示唆される