情動を生み出す「脳・心・身体」のダイナミクス:脳画像研究と神経心理学研究からの統合理解

梅田聡 情動を生み出す「脳・心・身体」のダイナミクス:脳画像研究と神経心理学研究からの統合理解 高次脳機能研究 2016;36(2):265-270

  • 情動とは、本来、生体が生き延びるために、敵と闘ったり、敵あkら逃げたりすることによって危険を回避するうえで生じる精神機能
  • 英語による表現のほうが細分化されている
  • emotion(情動) 動きを生じさせること意味する 生体に行動を生じさせる刺激が消失すると、それに伴う心的状態は徐々によわまりやがて消失する 一過性の心的状態
  • 情動emotionと関連の深い概念としてて、気分(mood)と主観的感情(feeling)が挙げられる
  • 気分 長時間持続する状態
  • 情動障害 一過性の心的状態の障害
  • 気分障害 代表的には、うつ病双極性障害などの障害をさす。すわなち、外的には、何ら気分状態を悪化させるような強い刺激がないにもかかわらず、躁状態が持続したりする場合が気分障害にあたる
  • 主観的感情 あくまでも対象となる人が経験として感じている心的な情動状態
  • 生体が、情動を誘発する刺激を受け取ると、それが処理され、身体反応が生じる。身体に反応がおこると、それが脳に伝達され、身体の変化が連続的にモニターされるようになる。外界で生じる状況の認識と、身体の変化の認識を同時に経験することが主観的感情体験である
  • 情動に関する脳部位
  • 情動の中核部位 扁桃体視床下部帯状回前部、側坐核前頭葉眼窩部
    • 扁桃体 生体の覚醒度を高め、、危険に曝された際に、即座に回避行動がとれるような状態にするうえで、もっとも重要な役割を担っていると言える
    • 視床下部 各制度の制御と深い自律神経活動の調整を担う重要な部位であり、情動を含むさまざまな本能行動の処理に深く関与する部位
    • 帯状回前部 自律神経における交感神経活動に関与しており、生体全体を活発化させ、注意の喚起に関わる機能を担う
    • 側坐核大脳基底核に含まれる) 報酬や快楽関わりに処理に関与する部位 
    • 前頭葉眼窩部 行動の価値判断に基づいて、自律神経を介した生体の制御に関わる
  • 情動の周辺部位
  • 情動に関連の深いネットワーク 4つ
    • 1 salience network 2 mentalizing network 3 mirror neuron network 4 default mode network
    • salience network
      • 帯状回前部および島皮質前部からなるネットワーク、身体の恒常状態であるホメオスタシスから逸脱し、内臓を含む身体に変化が生じた場合に活動し、ホメオスタシスの回復を促す役割を担う
    • mentalizing network
      • 心の理論と呼ばれる、自己や他者の心の世界の推論に関するネットワーク
      • 前頭前野内側部、帯状回前部近傍、側頭頭頂接合部、上側頭溝後部などからなりたつ
    • mirror neuron network
      • 観察をもとに、それを真似ることによる学習を実現するネットワーク
      • 頭頂葉下部、運動前野腹側・前頭葉下部
    • default mode network
      • 前頭葉眼窩部、楔前部、帯状回後部など大脳皮質正中構線構造に位置する部位から成り立つ
      • 外界に特に意識的注意を向ける対象がなく、いわば静かにしている状態で、むしろ強い脳活動がみられる部位の集合体総称
      • このネットワークは、身体内部に注意が向けられることと関係があり、自身の身体状態や感情状態の認識と深く関わっている
  • 1−4のネットワークは、それぞれラージスケールネットワークと呼ばれ、それぞれ比較的特殊な認知処理に関与している。こうしたネットワークが連携的に作用し、脳全体の統合的調和が取られている
  • 情動における身体の関与
    • ジェームズランゲ説 心拍の上昇などの自律神経を介した身体反応が感情体験を生起させる 末梢起源説
    • セイリエンスネットワーク 帯状回前部および島皮質前部 カップリングして活動 身体の恒常性状態であるホメオスタシスを乱し、内臓を含む身体に大きな変化が生じた場合に活動する この2つの部位はペインマトリックスと呼ばれており、痛みの感知と関連のある部位と考えられていた
    • 帯状回前部 心的ストレスがかかるような課題に従事させると活動する傾向 自律神経における交感神経活動と深い関連
    • 島皮質 当初、本人が物理的な痛みを感じているときに活動する部位と考えられていたが、その後さまざまな角度からの研究により、物理的な刺激や慢性疼痛のような痛みだけでなく、温感覚、冷感覚、かゆみを感じたときや、呼吸が荒くなるような運動時にも活動することが明らかになった
    • さらに痛みについては、本人が物理的な痛みを感じていない状態でも、親密な関係にある他者が痛みを感じている場面をみると、島皮質が活動することが明らかにされ、いわゆる心理的な痛みに対しても島皮質が関与することが示された
    • 現在では、島皮質は内蔵を含む身体内部の状態をモニタし、異変が生じたときに、それを意識化させる機能を持つものと想定されている
    • この身体内部の感覚は「内受容感覚 interoception」と呼ばれており、島皮質は身体における異変を脳に伝え、それに対処する上で重要な役割を担う部分であると考えられている
  • 共感の分類とそれを支える脳内メカニズム
    • 共感 他者の感情状態を理解するという機能とその状態を共有する、あるいはその状態に同期する機能に分けられる
  • 心理学 認知的共感と情動的共感
  • 認知的共感 
    • 他者の心の状態を頭の中で推論し、理解する(クールな機能)
    • 比較的意図的なプロセスを含んでおり、オンオフの切り替えがある程度可能
    • トップダウン型の処理
  • 情動的共感 
    • 他者の心の状態を頭のなかで推論するだけでなく、身体反応も伴って理解する(ホットな機能)
    • スイッチをオフにすることは困難
    • ボトムアップ型の処理
  • 著者の身体で表現される共感の分類
    • 行動的共感、主観的共感、身体的共感