大平英樹 予測低符号化・内受容感覚・感情 エモーション・スタディーズ 2017:3(1):2-12
- 身体化された予測的内受容符号化モデル Embodied Predictive Interoception Coding Model : EPIC model)
- 予測符号化 脳は、感覚器官から入力される刺激に受動的に反応しているのではなく、これから入力される刺激を予測する内的モデルを構成し、それによる予測と入力された感覚信号を比較し、両者のズレ(予測誤差:prediction error)の計算の基づいて、知覚を能動的に創発している
- この発想の起源 物理学者ヘルツホルム 無意識の推論
- ヒトを含む生体は、そうした階層的に検出される予測誤差を含む生体は、そうした階層的に検出される予測誤差の和を最小化することで統一的に整合的な自己像と世界像を構築し、それらを維持しようと努める。この予測誤差の和は、これもヘルツホルムの熱力学理論になぞらえて、自由エネルギーと呼ばれている
- 無意識の推論、能動的推論 (active inference)
- 予測符号化の解剖学的基盤
- 顆粒皮質 視覚、聴覚、体性感覚など、感覚入力を受ける 6層構造 第4層に顆粒細胞、
- 顆粒皮質の構造は感覚情報の処理に適している
- 無顆粒皮質は過去の経験に基づく感覚の予測を担うと考えられている
- 身体からの体性感覚野への経路が正常であっても、運動野からの予測信号が無ければ、正常な触覚経験は得られないことを示唆している。運動野は運動のためにだけあるのではなく、その重要あ機能の一つは、感覚を成立させるために予測を提供することなのである
- 生体は、この予測誤差を最小化することで身体状態を制御しようと努める。予測誤差の最小化のためには、内的モデルの更新と、行動による身体の変容の両方の手段が用いられる
- 例えば、腸の蠕動運動は、通常は意識されることはほとんどない。これは普段は内的モデルによる予測と実際の運動の予測誤差がわずかであるからである。しかし腸に感染が生じて炎症が起これば、予測誤差は増大し、われわれは違和感や痛みとしてそれを知覚することになる。そうなると腸への注意により感覚運動の分布の精度が上がり、知覚は鋭敏になる。そのような場合には、腸のわずかな動きでさえ感じられる。このような場合に我々は、腹部を手で擦ったり押したりして、違和感を確認したり、痛みを鎮めようと試みる。これは能動的推論による予測誤差縮小のためのこういであると解釈することができる
- 内受容感覚の予測符号化に重要な部位 島
- 前部島、MPFC,OFCなどが内受容感覚の内的モデルを形成し、後部島において身体信号との予測誤差が計算されると主張している
- EPICモデルでは、こうした内受容感覚を基盤として脳に表象された知覚が感情(affect)の本質だと考える
- 感情の多くの部分は意識されず自動的に処理が進行しており、その一部だけが意識される。感情は快ー不快、覚醒ー鎮静という2次元平面に射影され経験される
- 言語の機能によりこの連続的な2次元平面はいくつかのカテゴリーに分節され、それらは恐怖、怒り、幸福などと呼ばれる情動(emotion)となる
- EPICモデルは、情動の末梢起源説(James, 1884)やソマティックマーカー説(Damasio, 1994)などと共通する
- 統制群における不快の感情とは、予測誤差が正負の値を揺れ動き、縮小できないことに伴う主観的経験である。つまり快と不快の感情とは、自由エネルギーの縮小という脳の原理の目標への接近と停滞を意味する。
- また特に強化群において強く経験される主観的な覚醒の感覚は、身体活動を制御するシステムが報酬計算システムからの予想信号の変化に伴い、各種の生理的反応レベルを上げることにより予測誤差を縮小しようとする過程が認識されたものである
- これが、われわれが主観的に感じる感情(affect)である
- されに、そうした経験を、我々は、意欲、満足、焦り、不安などの名称を与えることにより認識する。これらが情動(emotion)である。
- この意味では、感情は予測的符号化の過程から創発された随伴物である
- しかし、一方で感情は、いったん形成されたならば、おそらく言語や記号を扱う最上位のシステムの活動を規定すると考えられる