悲しみと痛みと認知の中枢

仁井田りち、三村將 悲しみと痛みと認知の中枢 BRAIN and NERVE 2017;69(4):417-426

  • 後部帯状回(23野)はデフォルトモードネットワーク(DMN)のハブであり、アルツハイマー病において早期に解剖学的結合が低下する部位である
  • 前部帯状回(24野)はDMN,ワーキングメモリ、顕著性ネットワークなどのネットワークとのつながりがあり、それらのネットワークの相互の調整の役割を果たす
  • 前部帯状回の吻側に位置する膝下部前帯状回うつ病との関連が強く示唆されている部位である
  • 大脳辺縁系 大脳深部の脳梁を包み込むように存在する帯状回と、海馬、扁桃体、乳糖対などの構造物の総称
  • 帯状回 23,24,25,26,29,30,31,32野
  • 脳梁膨大後方部 26,29,30野
  • 前部帯状回(腹側ACC) 24野、後部帯状回(腹側PCC) 23野、膝下部前部帯状回(subgenual ACC)および梁下野(subcallosal area : SCA) 25野
  • 前部帯状回ACCと扁桃体の線維連絡は密であり、情動行動、自律神経系活動のコントロール、痛み、注意など、さまざまな機能に関連している ACCへの入力は大脳辺縁系(海馬、扁桃体視床下部)、視床の前核、内側部・外側部および眼窩部を含む前頭前野、運動前野、補足運動野、前補足運動野を含む広範な領域
  • 後部帯状回PCCは海馬傍回や楔前部との線維連絡が密であり、認知機能との関連が深い 運動前野や補足運動野、全補足運動野を含む高次運動野を中心とした領域と大脳基底核線条体視床下核から入力
  • 帯状回の機能
    • ACC 認知、sqACC 情動、PCC 空間認知
  • ネットワークの調整役としての前部帯状回
    • ACCは他者の考えや感情を理解する共感や同情、物事を遂行するために長時間注意力を維持する注意機能、周囲の人と協調する社会性コントロールなど、多面的な活動に関与
    • ACC ワーキングメモリ(作動記憶)や心の理論(theory of mind:ToM)ネットワーク、顕著性ネットワーク(saliency network:SN)との関わりがある
    • ワーキングメモリネットワークは実行系ネットワーク(executive network)とも呼ばれ、視覚情報と言語情報を担い、脳内のメモ帳として働き、次の作業のために消去されるまでの一時的にデータを置く場所として働いている
    • ToMとは、例えば相手に関心を抱き注意を向け、相手の表情を見てその人の気持や意向を把握し理解しようとする機能 ACCと扁桃体、側頭ー頭頂接合領域、上側頭溝周辺皮質
    • SNは前部島皮質とACCを中心とし、内的・外的情報の顕著性を検出する脳内ネットワークであり、感情を生起させるための身体反応を引き起こす役割を担っている
    • SNがデフォルトモードネットワークとWMNの間の切り替えに関与するネットワークの調整機能を持つ
    • ACCは注意と予測などを含めた高次の認知活動を調整している
    • ACCの細胞構造 皮質6層構造のうち第IV層の内顆粒層がない5層構造 第V層の内錐体細胞が特に発達
    • PCCは感覚と関連する第IV層の顆粒層が発達している これが視空間と記憶処理の働きを含む空間認知を支えている
  • 他人の行動と結果を観察し学習する領域としての前部帯状回
  • ACCは社会的な背景に応じて行動を選択し意図を修正する社会脳領域である
  • PCCは楔前部、海馬と密な連絡を有し、記憶や視空間認知機能において中核的役割を果たすと同時に、脳の基底状態を示すDMNにおいても重要な役割を果たす脳領域である
  • ADのβアミロイド沈着はDMNを構成す領域から働くといわれ、またβアミロイドの沈着前にDMNの結合低下がみられるとされる
  • 体性感覚野と逃避室が身体の痛み刺激の正確な場所を特定する中枢である。ACCは痛みの感情的な意義と痛み刺激にどの程度注意を向けるかを決定することにも関わる
  • 医師的に痛みから注意をそらすと、ACCの活動が抑制させる。よって痛み刺激から注意をそらし、この領域の活性を下げる能力を学習で獲得できると鎮痛効果が生じることがわかっている
  • 快・不快の価値判断を担うPFCとPCCの機能的結合の変化(強化)により、ネガティブ思考の反復パターンが形成される。
  • また、PCCと後部島皮質の機能的変化もネガティブ思考の強化に関与しているとされる
  • ACCは痛みのや情動に伴う適切な行動の選択に関与する部位であるといえる