柿木隆介 脳における痛みの認知:ヒト BRAIN MEDICAL 2009;21(3):211-216

  • 脳磁図は時間分解能が高いため初期反応の時間的情報を得るのに適しており、fMRIは空間分解能が高いため詳細な活動部位の解析に適している
  • 脳磁図を用いた研究
    • SIの初期活動 おそらく主に刺激部位の同定に関わっているものと考えられる
    • SIIは侵害性刺激の性質認知に関わり、島はその情動的認知にかかわるのではないかと推察される
    • 後期活動 内側部側頭葉(MT:扁桃体、海馬を含む) MTの活動は、この部位が動物実験で痛覚に深く関与していると証明されていることを考えると妥当であるとおおわれるが、ひとの画像研究ではこの部位の活性化はあまり観察されないようである
  • 視床ー島ー前部帯状回および前内側部側頭葉の経路を推定している。視床-SI-SIIの経路が刺激のdiscrimitiveな側面(刺激の部位、強さ、種類)に関わり、視床-島-前部帯状回および前内側部側頭葉の経路が情動面や刺激に対応する行動に関わるのではないかと考えられる。痛覚情報処理経路を二分する古典的な概念に従えば、前者がlateral systemに、後者がmedial systemに相当する
    • C線維を上行するsecond painに関連する脳活動
    • 強いレーザー鉱泉刺激を皮膚に与えればAδ線維に加えてC線維も興奮するが、脳波あるいは脳磁図ではC線維を上行するような長潜時の反応は記録されない。これはAδ線維を上行する信号による抑制効果(gating)によるためではないかと考えられている
    • C線維の特徴として、Aδ線維に比して興奮閾値が低く、末梢皮膚での受容体密度がはるかに高いことが挙げられる
    • C線維刺激による脳波、脳磁図反応の特徴的な変化は、覚醒度の変化と注意効果による変化がきわめて大きいことである。このような結果は、second pain、すなわち内臓痛や癌疼痛に対して心理療法の効果が大きいことを示唆する興味ある所見である。
  • fMRIを用いた研究
    • 2種類の刺激(Aδ,C)に対して共通して活動する部位は、両側の視床SII、右側の中部島、両側のBrodmann(BA)の 24/32野(pACCが主)であり、これらが痛覚刺激に対して常に活動する部位と考えられた。
    • 右側半球のBAの24/32/8野ではAδ線維刺激に対してほとんど活動がみられず、この部位がC線維刺激に選択的に活動する部位と考えられた。
    • pACCの活動は痛覚刺激と相関し、aACCの背側の活動は認知や情動に関連が深いと報告されている。
    • 本研究で見られた、second painに関連すると考えられるC線維刺激に対してaACCの背側の活動が有意に大きい、という結果は、second pain認知がfirst pain認知よりも情動に関係が強いことを示唆している
    • ACCは機能的に痛覚関連領域、情動関連領域、非情動関連領域の3つの部位に分けられるが、本研究で見られた活動部位は痛覚関連領域と情動関連領域に該当している
    • 島前部はACCと連動して痛覚認知の注意や情動に関係する部位とされている
    • 実際に痛みを与えられなくても、注射のような「痛そうな画像」を見ただけでも、ACCと島が活動することを明らかにした。これは「心の痛み」と「実際の痛み」は辺縁系では同じように活動することを示しており興味深い
    • 瞑想中には痛みを感じないヨガの達人では、瞑想中に痛み刺激を与えても、視床SII、島、帯状回の活動がみられず、前頭葉頭頂葉、中脳に活動がみられた。これらの部位、特に中脳は、下行性痛覚抑制系に重要な部位と考えられており、ヨガの達人では、瞑想中はなんらかの機序により下行性痛覚抑制系が最大限に活性化されるために、痛みを感じないのだろうと推測した。
    • われわれは最近、gate control theoryが脊髄でなく、大脳皮質の関与が深いこと、脊髄視床路を上行する信号には早いものと遅いものがあること、動脈の圧受容器の昨日が痛覚認知に関与し、収縮期には痛覚関連脳波の振幅は拡張期よりも有意に低下していること、posterior parietal cortexも痛覚認知になんらかの役割をはたしていることなどを報告している