痛みの識別、情動、認知に関わる神経回路

仙波恵美子 痛みの識別、情動、認知に関わる神経回路 ペインクリニック 2003;24(10):1381-1388

  • 痛みの三つの側面
    • 感覚ー識別的 sensory-discriminative 痛みの部位、強度、持続などの分析
    • 感情ー情動的 affective-motivational 痛みにより起こる不快な感情
    • 認知ー評価的 cognitive-evaluative 注意、予知、過去に経験した痛みの記憶に関連したもので、注意を集中しているか、予知しているかどうかで、痛みの感じ方は影響をうける
  • c-fos immediate early genes(IEGs)の一つ
    • ホルマリン注射後のc-fosの発現 15-30分をピークとして脊髄後角表層(I,II層)に認められ、それより遅れて30-60分をピークとして後角深層(V-VII層)に多く認められる
  • 痛みの3つの脊髄からの上行経路
    • 脊髄ー視床路 spino-hypothalamic tract;SHT) neuron 9000個 48%がWDR neuron 39% 侵害刺激のみに反応
    • 脊髄ー橋ー扁桃体
    • 脊髄ー視床下路路、脊髄ー視床路(spino-thalamic tract;STT) neuron 9500個 脊髄後角I層、および深層V-VII層のneuron
      • I層のneuronはAδ、C線維の入力を受け付け、それぞれ鋭い痛み(fast pain)、灼けつくような鈍い痛み(second pain)を伝える
      • I層のSTTニューロンに由来する脊髄ー視床ー皮質路は、小径線維によって伝えられる様々な身体情報(温度覚、痛み、かゆみ、内臓感覚など)を収束して、島皮質に伝え、ホメオスタシスの維持に重要な役割を果たしている。
      • V-VII層 視床に投射 大型で樹状突起を広い範囲に伸ばす AδやC線維とともに、大径有髄線維の入力も受ける。様々な感覚入力に反応するWDR neuronである
      • 脊髄視床路 視床の内側核群をへて前帯状回、島皮質に終わる内側系と、体性感覚の中枢核であるVPL,VPIを経てS1,S2に至外側家院い分けられる。
  • 痛みの中枢回路
    • ACC24野 痛みの情動的側面に一義的に関与
    • 右の前頭前野皮質、PCC,ACC,視床では注意集中時ににのみ血流の増加がみられた
    • 脊髄から起こる痛覚の上行路は、自律神経系を活性化し、逃避行動を起こし、覚醒、恐怖を引き起こす。これらの機能に関与する皮質下の領域は、延髄、中脳網様体、上丘の深層、中心灰白質扁桃体視床下部視床内側核群 
    • 痛みの初期にこれらの核群が活性化され、次いで恐怖、防衛反応、自律神経系の反応が自動的に起こる
    • 大脳皮質体性感覚野S1,S2が興奮すると、痛みの強度や質が識別される。
    • S1→S2からはPPCやICに投射し、そこでは、他の感覚情報も入力しており、身に迫っている危険を総合的に判断評価する
    • S2を破壊すると痛み熱刺激を与えても逃避行動がみられない
    • ヒトでICの破壊はsyndrome of pain asymboliaをお越し、痛みは感覚として感じても逃避行動がみられなくなる。
    • ACCは身に迫る危険を察知する頭頂葉の働きを、行動や反応プランに関わる前頭葉に結びつける働きをしている。
  • 帯状回と痛み
    • 帯状回 情動(25,33,24野),認知(24',32',帯状回の運動野、痛覚野)と運動機能に関与 後帯状回 空間視覚や記憶に関与
    • 帯状回は1.痛みに対する情動の喚起 2.痛みに対する反応の選択 3. 痛み刺激の予知と回避についての学習に関与
    • 帯状回の切断 cingulotomy 痛みを感じ続けるが、それに対する情動的な反応は示さず、痛みに悩まされることはなくなる
  • 痛みに関係するその他の中枢領域
    • CM-PF complexは霊長類で特に発達しており、感覚系と運動系の接点として、感覚入力に対する反応、行動の選択に関与
    • 海馬のCA1が、Egr-1の発現を介して「痛みの長期記憶の形成」に働いている可能性がある
  • 痛みの中枢回路と慢性痛
    • 1991 PETを用いた研究が報告されて以来多くの報告がなされる
    • 頑固な慢性痛の治療として、痛みの情動や認知に関する脳領域、例えば前帯状回やCL、PFなどの視床内側部の破壊が有効であることからも、これらの領域が慢性痛の成立と維持に重要な役割を果たしていることが分かる