ペインリハビリテーション

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P95-132 第一章第三節 痛みの神経科科学

  • 1 脳の機能解剖
  • 2 痛みに対する脳機能
  • Melzackは、末梢器官に病変を認めないにもかかわらず慢性痛を呈する者は、脳の中の自己の身体地図に変化をきたしているという説、すなわち「ニューロマトリックス(neuromatrix)理論」を提唱した。
  • 3つのneuromatrix
    • 感覚ー識別 sensory-discriminative 侵害刺激に基づいて、その刺激がどの部位に与えられたものかといった刺激を同定(場所や強度)するもの
    • 意欲ー情動 motivational-affective 侵害刺激を不快なものとして分類するものであり、さらに不快や嫌悪や悲しみなど否定的な情動に細分化していくもの
    • 認知ー評価 cognitive-evaluative 過去の経験と現在進行形の経験を比較照合しながら、痛みの性質や程度を分析するもの
    • 痛みはこれらの3つの性質をもっていることから、脳の様々な領域が関与していることが考えられる
  • 痛みの関連する6つの責任領域
  • 3 痛みに知覚
  • 痛みの知覚 感覚(sensory),知覚(perception),認知(recognition)
    • 感覚 外の感覚または身体内に起こった刺激によって生体内の受容器が興奮し、脳の関連領野に情報が伝達され、それが意識に上った体験。そのような性質でなんであるかの情報プロセスは含んでいない
    • 知覚 感覚を介して知覚の性質を把握する働き。感覚を意味づけすること
    • 認知 いくつかの知覚を統合した後、知覚されたものが「なんであるか」あるいは「どこにあるか」を判断すること。認知する為には、感覚知覚のみならず、記憶言語判断といった機能の付与および統合が必要
  • S1(一次体性感覚野)、S2(二次体性感覚野)
    • S1(ブロードマン3野、1野、2野)
    • 3a野 深部感覚情報が再現、感覚野の体部位再現(ホムンクルス)、痛みの同定に関与
    • 3b野 表在感覚情報が再現
    • 2野 能動的接触による対象物の認識に関与、外界の認識に関与
    • S1の特徴としては、痛み刺激の強度に比例して活動が増加
    • S2 S1よりも深部に局在をもつ。辺側の身体に感覚刺激の与えても両側の半球が活動するbilateral neuronが多い。
    • 脳磁図を用いた研究において、S1におくれてS2が応答することから、S1は体部位再現に基づいて身体に刺激を受けた最初の窓口になるが、S1はS1の情報処理後に、刺激に性質を識別する場所であると考える。
    • 痛みの知覚は痛みを予期した時や、痛みに対して注意を集中している時に変化し、その変化に関連している場所がS2であることが指摘されている
    • S2の活動は、予期や注意といった高次機能にも関与すると共に、注意、学習、記憶といった認知プロセスに影響もおおいに受けることが明らかになっている。
    • 以上の観点から、 S2は痛みの感受性の変化に関連する領域と考えられる。
    • S1,S2は侵害刺激に応答する急性痛に主に関与し、慢性痛の自発痛にはあまり関与しないと報告されている。
  • 4 痛みの情動
  • 情動喚起のプロセスとして、扁桃体はもっとも重要な領域と認識されている
  • 扁桃体の中心核外側外包部は侵害受容性扁桃体(nociceptive amygdala)と呼ばれ、痛みと不快情動を結びつける役割を持つことが示唆されている。
  • 扁桃体の活動は痛みの情動的側面に影響を与え、知覚の強度に影響することが考えられる
  • S1,S2は急性痛に関与するが、島皮質と前帯状回は急性痛のみならず、慢性痛においても関与することが判明しており、現在では痛みの情動的側面の中心的な脳領域として認知されている
  • 帯状回の活動は、痛みの強度の段階づけの結果と強い相関関係があり、その活動は他者の痛みの対する主観的反応によって調整されることが判明している。
  • 島皮質 痛みに対する嫌悪感を発生させる脳領域、恐怖、嫌悪感、怒りなど否定的感情の想起時に特に島皮質が働く。深いといった否定的感情に共通して関与する領域。後方は感覚的側面、そして前方に向かうに従って情動的側面に関与
  • 帯状回は内外の刺激に対して社会的な状況にも応じて、自己の情動バランスの査定を行う領域といえる
  • 帯状回 主観的な不快さを反映する領域
  • 5 痛みの認知
  • 頭頂連合野 痛みの記憶に関わる領域、痛みの経験が身体図式化される領域
  • 視覚情報と体性感覚野不一致によって痛みが出現することがいくつかの研究で発表されている
  • 慢性痛患者は無視様症候群(neglect-like syndrome)を呈することが明らかになっている
    • この現象は、患肢を自己の身体と感じない認知無視や、視覚で過剰な注意を払いながらでないと患肢で運動が行えない運動無視の2つの症状からなる
    • この現象は頭頂葉後頭葉の境界部の機能不全によって生まれると考えられている
  • Priceは痛みをMelzackとは違った3つの要素(感覚要素、即時的情動要素、長期的情動要素)に分類しているが、前頭前野は長期的情動要素に関わると考察している。
  • 前頭前野に損傷があると洞察力にかけ、将来の計画立案が困難になるが、慢性痛患者はそうした機能の中心である意思決定能力、意欲の低下を引き起こす。その原因には、前頭前野、前帯状回が萎縮していることが報告されている。
  • 内側前頭前野の萎縮 情動の制御が困難低下
  • 背外側前頭前野の活動が増加 痛みに対して注意が向けられている
  • Apkarian 背外側前頭前野は急性痛に関わり、内側前頭前野は慢性痛に関わる