ペインリハビリテーションの方向性  臨床と神経科学の融合

森岡周 ペインリハビリテーションの方向性  臨床と神経科学の融合 物理療法科学 2014:21:1-8

  • 疼痛の3つの側面
    • 感覚的側面 体性感覚野
    • 情動的側面 扁桃体、島皮質、前帯状回
    • 認知的側面 後頭頂葉(身体イメージ)
  • 不動や運動抑制に基づいた痛みの慢性化プロセス
    • 障害初期の運動抑制が引き金になり体部位再現の狭小化が起こると、疼痛の慢性化を生じさせてしまうことが想定されることから、急性期から運動抑制の積極的な解除、ならびに一次運動野等の活動の維持をはかることが疼痛の慢性化を予防する理学療法の目的になるであろう
  • 痛みの感覚的・運動側面に対するアプローチの考え方
    • Sluca TENSによって中脳水道灰白質や延髄吻側腹内側部の活性化が起こり、それによりオピオイドセロトニンといった抑制性神経伝達物質の放出されることがTENSによる鎮痛メカニズムと指摘している
    • 早期からの運動・感覚入力が、その後の疼痛抑制効果に対してポジティブに作用することを示した理学療法の基礎研究(沖田)
    • 運動出力が鎮痛効果に関与することが示唆
    • 一次運動野の興奮による効果は痛みの感覚的側面に対応していることが示唆された (不安、認知機能には変化なし)
  • 痛みの情動的側面に対するアプローチの考え方
    • Apkarian 2004 侵害刺激に基づいた痛みの知覚の際には、体性感覚野や視床の興奮 自発痛ではそれらの領域の活性化を認めた報告は少なく、逆に前頭前野の機能不全を示した研究が多い
    • 慢性痛者の自発痛 内側前頭前野大脳辺縁系(情動系)の過活動が生じている
    • 慢性腰痛者では両側背外側前頭前野灰白質容積の現象が確認されており、この減少と意欲の低下に関係が見られることご報告されている
    • 背外側前頭前野の興奮は痛みの情動的側面の抑制に関わる神経システムの調整する作用があることが示唆された
    • 腰痛非改善群は内側前頭前野側坐核のコネクティビティが初期から有意に高く、痛みの情動的側面(不快感)とそのコネクティビティの強さの間には正の相関関係が認められる
    • プラセボ鎮痛時にはドーパミンオピオイド受容体を介した神経伝達が起こり、側坐核ドーパミン活性が大きいほど、オピオイド活性も増加し、それに伴って痛みの強度が低下することが明らかにされている
    • 鎮痛の期待によって放出されるドーパミンが増加すればするほど、オピオイドの活性化を高める
    • オピオイドによる鎮痛は報酬系に関わる脳領域が正常に機能していることが必要条件であるといった研究成果もみられる
    • 言語による期待感、刺激や文脈の条件付け、ストレス因子の受容、そして固執的思考から柔軟的思考への社会的な学習を生み出す介入の重要性が示唆されている
    • 今日では痛みの下行性疼痛抑制は認知的操作によって背外側前頭前野が活性化する経路、そして思考の柔軟性によって腹外側前頭前野が活性化する経路が考えられている
  • 痛みの認知的側面に対するアプローチの考え方
    • CRPS患者は主観的に感じる身体の大きさを実際よりも大きく感じ、その誤差は罹患期間と正の相関があることがあきらかになっている
    • 脳損傷がみられない疼痛患者であっても、身体知覚に関わる脳領域の活動低下がみられ、それに伴い身体イメージの問題がおこることがクローズアップされている。
    • イメージや意図と実際の感覚フィードバック、そして多種感覚モダリティ間に情報の不一致がおこることで痛みが出現することが古くからわかっている
    • Moseley
    • Sumitani 鏡療法が効果を示すのは固有受容感覚に関連した性質の痛み(例:ねじれるような)であり、皮膚受容感覚に関連した性質の痛み(例:ナイフで刺されたような)には効果が見られないことを報告した
    • 感覚モダリティを吟味して介入
    • 運動イメージ想起によって逆に痛みが増大することが報告されているので注意
    • そこで筆者らは視線認知に基づいた運動観察法を開発
    • 疼痛閾値が低下した者の中でも不快感を強く感じる者ほど、自己の身体の体型や外見に対してこだわりが強く、自己の身体に対して否定的な観念を持っていることがわかった
    • そもそもの自己の身体に対するイメージが痛みの主観的強度に関与していることがわかっていることから、臨床介入に先立ち、人格・心理・感情に関わる心理的検査を行って対応することが望ましい
  • おわりに 全人的アプローチの必要性
    • 現代における痛みの問題解決のためには、単なる侵害刺激や侵害刺激が脳に伝わって生じる痛みの知覚だけ医を取り上げるだけでは不十分である
    • 疼痛は多面性を有することから、それを鑑み、疼痛そのものだけではなく、疼痛を有する患者全体を"一人の個 whole body"として捉え、包括的にアプローチしていかなければならない