座談会 運動器の痛みにおける筋の問題

座談会 運動器の痛みにおける筋の問題 Practice of Pain management 2011;2(4):220-229

  • IASPが発表しているファクトシートの運動器痛の項には、「運動器痛の病態生理は完全には解明されていないが、炎症、線維化、組織の変性、神経伝達物質、そして神経感覚障害が関与されている」と記載されています。
  • 不動が原因で起こる拘縮は筋の変化に由来するところが大きい
  • 筋肉の伸張性の低下は筋線維よりむしろ筋膜の問題が中心ではないかとされている。そこには線維化が大きくかかわっており、一週間程度の不動で、コラーゲンの増生にともない筋膜が肥厚する現象があり、さらに分子レベルでみると、特に硬い組織に多いタイプIコラーゲンが増加することがわかってきている。また、一ヶ月ほど不動状態にするとコラーゲン分子間に架橋ができ、コラーゲンそのものの動きが悪くなり、筋膜が伸張されない状態となります。そして、これらの変化が筋の拘縮の病態ではないかとされています。
  • 筋自体でみると、拘縮があるとやはり筋膜が伸びないため、筋をその長軸方向に伸ばそうとすると、いわゆるストレッチペインが起こります。これにはAδ線維の関与があるのではと考えています。また拘縮した筋を圧迫すると激痛を訴える患者さんもいらっしゃいます。このように、筋への機械的刺激によって実際に痛覚過敏がおこる事実は、理学療法士をはじめとした多くの医療者は経験的に知っていることではありますが、この知見に関するデータはほとんどありません。
  • 高齢者の場合、一部の筋が脱神経になり、残った一部の筋のみにしか余力がないため、その箇所が過剰に働くしかないという状況が考えられると思います。
  • 慢性疼痛の患者さんで、痛みがあるから動かない、という方が多く存在します。そこで、痛みがあるといっても、このぐらいの作業はできる、動いてもよいというように患者さん自身の認知を変えていくことが大切でしょう
  • 慢性疼痛治療は、痛みがなくなれば最善ですが、現実的には痛みを完全に消しさることは難しいです。むしろ長い目でみれば、患者さんにとっては、痛みがありながらも実生活のなかで作業が可能になるような治療がよい治療ではないかと考えています。
  • 丸田俊彦先生が、「a person with chronic pain(慢性疼痛を有する人)」と「a patient with chronic pain(慢性疼痛を有する患者)」という言葉を使われていました。人は誰しも、大小はあれど痛みを抱えながら生きています。しかし、すべての人が慢性疼痛患者ではありません。すなわち、痛みがあることよりも、それを病気として患者化してしまう何かがあるという問題が存在していると私は解釈しています。認知行動学でいうオペラント仮説にもとづいた、「病院にいけば、やさしくしてくれる、ある程度触ってもらえる、優しい言葉をかけてもらえる」といった意識が痛みと連動していて、それが「person」と「patient」を分ける大きな違いの一因ではないかと感じています。
  • 老人に限らず、慢性痛を抱える患者さんが社会的に隔離された状況が身体症状化したのも慢性痛の一因といえます。
  • そのため、治療は患者さんという一面だけでなく、人として生きることを考えていくべきでしょう。それには、痛みをかかえつつも患者さんのやりたいことができるようになるよう、サポートするという視点を忘れてはいけません。患者さんに希望というモチベーションをもってもらい、生きる喜びを感じてもらえることが、痛みに悩む患者さんに真に必要とされるアプローチではないでしょうか