水村和枝 遅発性筋痛モデルを使った筋性疼痛の末梢機構へのアプローチ PAIN RESEARCH 2008;23:177-183

  • 筋性疼痛の特徴は、圧痛、運動時痛などの機械痛覚過敏が主体で、また圧痛のある部分を圧すと遠隔部に放散することである
  • 筋性疼痛の研究に用いられてきた動物モデルは、炎症モデルか,酸の筋注による持続性の痛覚過敏である。しかし、多くの筋性疼痛状態では炎症像はみられず、炎症以外のモデルが求められていた
  • 筋性疼痛評価で問題となるのは、筋全体に一様に圧痛閾値の低下があるのではなく、特定の場所(多くの場合索状の硬結がある部位で、その圧迫により放散痛や筋収縮が生じることがある)に強くでるということである
  • 筋硬結上に存在し、その圧迫により放散痛を生じるような点はトリガーポイントといわれている。
  • これは筋拘縮によるエネルギー危機とする説、筋紡錘説、運動終板機能の異常亢進による局所拘縮説、神経根症状説やポリモーダル受容器の感作+深部組織の浮腫などの仮説が唱えられているが、本態は未だ不明である
  • 触知される硬結は次に紹介する伸張性収縮運動によっても生じ、トリガーポイントの研究に用いうるのではないかと考えられている。
  • 遅発性筋痛は、山を下る場合の大腿四頭筋の収縮のような伸張性収縮によって生じる。自発痛はほとんどなく、圧痛・運動時痛が顕著である
  • この筋痛は運動中および運動後しばらくのあいだは気づかれず、運動後一日以上経過して起こる点が不思議である
  • 慢性的な痛みの潜在的な原因となっている可能性がある
  • 遅発性筋痛は筋損傷を引き金とした炎症による、というのが現在ポピュラーな考え方である。
  • 遅発性筋痛では機械痛覚過敏とともに筋の腫脹がおこることが知られている
  • 同一被験者において運動前後で筋生検をおこなったごく最近の研究では、運動3時間後には有意な変化像はみられず、48時間後にマクロファージや好中球などの浸潤やZ帯のみだれなどの損傷後の大幅な増加がみられている。これは光顕的な組織損傷は原因ではなく結果であることを強く示唆する
  • 加齢に伴ない遅発性筋痛からの回復がおくれることが明らかになった
  • C線維の関与を確認するため、新生児期にカプサイシンを大量投与してC線維およびその細胞体を破壊した動物で調べたところ、遅発性筋痛が生じないという結果を得た
  • 最近、筋痛をおこすグルタミン酸の遊離が、疼痛をもつ筋を運動させた場合に健常の筋より大きいこと、また炎症や虚血または神経損傷後の筋で増大するNGFの筋肉内投与により筋圧痛過敏を生じることが報告されている
  • Itoh ヒト中指に錘をつけてそれを保持しつつ下方へおろす運動をさせると、一日後に指伸筋に遅発性筋痛が誘発され、ひも状の硬結が触知される。