牛田享宏 運動器疾患における慢性疼痛治療(interview) Nikkei Medical 2008 (12)

  • 「とにかく痛みだけとってくれればいいんです」とは、日常診療でよくいわれることですが、慢性痛患者の場合、わたしは「無理です」とお答えします。
  • 注目しているのは、運動器廃用と中枢神経の関係
  • ギプスで運動器を固定すると2週間前後で周囲の神経終末や筋紡錘の形態変化、脊髄後角における神経ペプチド含有線維などの分布の変化が認められる
  • 運動器の固定によるこれらの神経の変化は、痛み刺激や炎症などにより神経が侵害されたときにみられる変化と類していることがわかっている
  • つまり、運動器や固定のために使用しなかった場合、筋萎縮による機能の低下だけでなく、神経的な異常も起こることが明らかになってきた
  • fMRI
    • 性神経因性疼痛患者では、痛みを感じていても、痛みの伝達経路である視床の活動性は認められなかった。
    • 性神経因性疼痛患者では、痛い部分を刺激される映像をみただけでも非常な不快感を感じ、痛みとの関連性の強い前頭前野帯状回の活動が観察された
    • 患者のそれまでの経験と記憶から、脳の中で自分に反映させて疑似経験しているため、脳の活動が認められていると推測され、これは梅干しをみたり思ったりしたとしたときに、酸っぱさを思い出し、唾液がでるのと同じような反応とも考えられます
    • 慢性腰痛患者では前頭葉等の脳の萎縮が見られるとの報告もある
  • 変形性関節症では軟骨の摩耗による関節局所の痛みが一次性であるとすれば、問題となっているのは、それにより派生した周辺の二次性の痛みであることが少なくありません。
  • 関節の変形により姿勢や重心がずれて、それを支得る周辺の筋肉に過度な負担がかかったり、痛みのために活動性が低下して廃用から筋萎縮、筋力低下、関節拘縮とともに神経機能変化が起こり、それらが疼痛の原因となっているのです。
  • 廃用に伴う障害を防ぐためには、末梢から中枢までを縦断して発症する痛みの性質をよりよく理解したうえで、リハビリを始め診療科を超えた全人的観点からのアプローチが求められていると考えています。