松原貴子 p109 動いてよいのかわるいのか?筋と痛み  (注:1月から読んできた文献のなかで、最も感銘をうけた文献のひとつにあげられる by ucymtr)

  • 患者自身が動き、考え、自身の痛みに関する認識や痛み行動を変革していくことが必要である。依存は痛みの治療を難しくしてしまう。医療者に抱く患者の依存を打破することが痛み治療の第一歩といえる
  • キズが治れば痛みも消えるという神話に捉われることなく、たとえキズが治ったとしても痛みが残る可能性があることを理解し、痛みを極力減らす対応をできるだけ早期からとるべきである。過剰な炎症があって消炎鎮痛処置をしたとしても、動かすことを完全に中断してしまわないことが重要である
  • 慢性痛を訴える部位に以前あったであろうキズはもはやない。しかし、そこにはあらたに筋のコンディショニングの不良が発生している。動いても大丈夫、しかし、うごかせる環境づくりがをしてからうごかすことが何よりの安全策である
  • 筋をターゲットとした運動療法によって認知行動療法を補強することで、痛みにともなう活動性低下を防ぎ、同時に痛み自体を軽減し得る。さらに、運動療法は痛みの認知や痛み行動の変容をもたらせるだけでなく、実際にからだの構造改革までおこなおうとするものである。
  • 急性痛と慢性痛を区別することなく進められる治療は、時として痛みを悪化拡大させ、慢性痛の悪循環を作り出す可能性があり、非常に危険である
  • 医療者がかかえる問題として
    • 慢性痛の概念がほとんどないままに日々の診療がおこなわれている
      • あなたの痛みは慢性痛という新たな病気ですが、からだを動かすことでずいぶんと楽になりますよと一言言える医療者がいれば、それだけで慢性痛地獄から救われるひとはふえるであろう
    • 医療者に対する痛みの専門教育が圧倒的にすくないこと
    • 痛みに対する医療保険制度が未整備のままであること
  • 患者サイドの問題
    • しらもらう治療を好み、治療に対して受け身になりやすい
    • 依存は痛みの治療を難しくしてしまうことを医療者は知っておく必要がある
  • 慢性痛は、痛みが持続する間に神経回路の変調(可塑的受容)が生じた結果、自覚するようになったあらたな痛み病である
  • キズはないのにいたい、ーーーこれこそあらたな痛み病とも言える慢性痛が誕生した瞬間である
  • 慢性腰痛の患者は腰部の筋肉にコリコリとした結節様の塊があるケースが多い。背部痛を訴える患者の背筋群をしらべた報告では、傍脊柱筋のタイプII線維(速筋に多く含まれ、瞬発的で大きな力を発揮できる一方で、持続性に乏しく易疲労性の筋線維)の選択的な萎縮がみられ、脊椎の可動性が減少し、萎縮した空間には脂肪の浸潤が認められた。この結果から、慢性痛が生じている部位では、筋の硬化や柔軟性低下、活動性低下を呈することが示唆される。
  • 痛みがあってもできることから運動や活動をはじめてみることが重要である。
  • 患者が受け身となることなく、自身の痛みに向き合い、認識を変えていくためには、受け身治療よりも運動療法の方が能動的かつ積極的に認識や行動、活動性を変えるには有効である。
  • 慢性痛があるときに動いてよいのか?この問いに対する答えは動いてよいということになるであろう。