外傷や医療行為を契機に生じた遺体が長く続く患者のリハビリテーション

高橋紀代、柴田政彦 外傷や医療行為を契機に生じた遺体が長く続く患者のリハビリテーション 総合リハ 2021;49(10):945-950

  • 山田は、「CRPSは何らかの怪我や手術などの外傷をきっかけとして生じるが、その外傷のきっかけが交通事故の被害、暴力被害など他害的なものである場合、手術の執刀医に対する不信が強い場合などでは、これまでいわれてきた「痛みの破局的思考」や「自己効力感」といった痛みを修飾する心理社会的因子に加えて、「不公平感(perceived injustice)」の媒介に配慮する必要がある」としている
  • 慢性痛を診察するには局所のみならず個人の背景まで含めて評価する必要がある。
  • 活動や仕事の妨げとなっていることを特定する方法としてフラッグシステムというものがあり、それによると患者の抱える問題を本人(イエローフラッグ),職場(ブルーフラッグ),l社会環境(ブラックフラッグ)に分けている
  • イエローフラッグは対象者本人に関連した問題で、痛みに関連する思考や感情、行動などである
  • ブルーフラッグは職場に関連した問題で、これらは主に仕事と健康との関連性についての認識から生まれ、仕事の能力低下や長期給食に関連している
  • ブラックフラッグは対象者を取り巻く社会環境に関する問題で、関係する人、制度、政策などである
  • 医師の役割
  • 器質的疾患の有無に関わらず、痛みのために所見のわりに生活の質や活動性の低下が著しい状態が長く続いている人は、痛みに対する捉え方や運動や活動に対する恐怖を改善する必要があるため、認知行動療法リハビリテーションの適応がある
  • 患者は自分の痛みについて生活環境、行動様式、個人の性格などを反映して多彩な表現をとるために、個々の症例に応じて治療目標を設定したきめ細やかな対応が求められる
  • リハビリテーション療法士の役割
  • 治療目標が「痛みのない状態にすること」ではないことを、医師、患者と共有した上で、患者とリハビリテーション目標を設定する。無理のない、具体的な目標が自ら設定できるように支援することが治療効果を上げるために重要である

ストーリーで理解する痛みマネジメント11 痛みと人生

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント11 痛みと人生 スポーツメディスン 33(3):43-49, 2021.

  • スポーツ外傷の受傷から回復に至る間の選手の様子を見ていると、痛みの表現や振る舞いは様々であります
  • 同じようなケガが痛みでも全く痛みを気にしていない選手から、受傷した部位を大事にかばっている選手まで幅広くいます
  • 痛みの訴えは過去の経験や心理社会的要因により修飾され、発言や行動など様々な表現型である「痛み行動」を呈します
  • 過去の経験とは赤ちゃんから大人に成長する過程で学んできたことが反映され痛みに関わることを意味します
  • ケガをしたときの侵害受容刺激の体験をして、周囲の反応を学習することを繰り返して、痛みをどのように表現していくかを学びます
  • そのために、受傷した選手の訴えを理解し共感し要素するならば、その選手がどのようなライフステージに位置し、どのような人生を歩んできたかについて考える。ことは大切になります。
  • とくに慢性疼痛においては、人生の文脈を抜きにしては、痛みの訴えを理解するのは難しくなります。
  • 幼児期の痛み
  • 赤ちゃんでも侵害刺激を脳で認知してもその意味付けがなされていません
  • 得体のしれない感覚だったものが「痛み」と周りの人から教えられ認知し、転んで感じたこの痛みが「大丈夫なもの」と意味づけされ学習します
  • したがって、この過程で適切に痛みを学習した幼児とそうでない幼児には、成人期以降の痛みの受容に差が生じる可能性が指摘されています
  • 青年期から成人期の痛み
  • 青年期の痛みに対するヘルスケアは両親の行動に依存しやすいという特徴があり、問題となる場合があります。
  • 両親自身の痛みの管理方法の影響を受ける可能性が高い
  • 自分での意思決定がまだ難しい青年期の選手に押し付けてしまうことは悪い方向に働くこともあり、治療アドヒアランスにも大きく影響します
  • この時期に身についてしまった信念は、その後の競技生活、スポーツ活動に大きな影響を及ぼし、傷害にわたって痛みに適切に対処できない要因にもなりえます
  • 虐待と痛み
  • 児童虐待が成人になってから痛みに関係する理由としては、ストレス管理能力の欠如や周囲とのコミュニケーションがうまく取れずに社会的援助が得られないことが挙げらており、適切に休息を取れなかったり医療機関にかかれなかったりして痛みの悪化につながっています
  • また神経感覚処理において過去のトラウマが痛みの増幅に関与し、痛みの感受性が低下しているという報告もあります。
  • 痛みに対する苦悩が強い場合、生育歴を臨床心理士が聴取する場合があるのはこのような可能性があるからです
  • 幼少期から虐待的ともいえる環境で育ち、自己決定の機会が奪われると、本当にこれでよかったのかと客観的に振り返ることが困難になります。
  • それは自分のこれまでの人生を否定することにつながるからです
  • 否定されたくないが故、それまで培ってきた信念を頑なに正しいと信じ、貫こうとしてしまいます。
  • その場合、自分の信念と異なる考えに出会ったとしてもそれを無視してしまったり、学びの場から離れてしまったりするため、痛みの改善に対して新しいアドバイスを受け入れるようなコミュニケーションがとれなくなってしまう恐れがあります。
  • 中年期の痛み行動
  • ライフイベントにおけるストレスは、痛みの認知的側面、感情的側面に大きな影響を及ぼします
  • 心身の変化を自覚せずに、若い頃培った価値観などのポジティブなイメージのまま現在の活動を継続している方のうち、スポーツパフォーマンスの低下を素直に受け入れられない方がいます。10年前の身体能力が今も同じだけ残っているはずだと思い込み、活動量を調節せずスポーツ活動を行ったら、ケガの可能性が非常に高まってしまいます。また、心身の悪循環に陥り慢性疼痛化するリスクも高まります
  • 高齢者の痛み

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  • このように見ていくと人生において痛みはあらゆる時期において感じられ表現されるものであり、人間が育つ契機となったり、危機への対処法を学習したりといったポジティブな側面がある一方、人を苦しめたり人生を狂わせてしまったりと多くの側面をもっています。

ストーリーで理解する痛みマネジメント10 アドヒアランス

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント10 アドヒアランス スポーツメディスン 33(2):40-44, 2021.

  • とくに慢性疼痛においては、遺体の感覚が身体の異常を知らせる警告信号としての役割を果たしていないため、痛みの治療とパフォーマンスアップを区別してトレーニングに臨みます
  • そのため、痛みに対する適切な知識を持ち、その日の調子を把握し治療者や指導者に報告できる自己観察能力や、能動的にかつ自制的に取り組むことができる自己管理能力が求められます。
  • 患者が積極的に治療やトレーニング方針の決定に参加し、その決定を理解し介入を受けている状態を「アドヒアランス」といいます。
  • アドヒアランスは主に慢性性を持つ疾患の療養に必要な概念として2003年に「患者が服薬、食事療法、生活習慣の改善、運動などに関して、医療者の勧めに自ら同意し一致した行動をとっている程度」とWHOが定義しました。
  • それまでは、患者の療育行動は医療者からのアドバイスをいかに守れるかの忠実性、「コンプライアンス」の概念で成立してきました。
  • このような「患者は治療に従順であるべき」という患者依存の治療概念から脱し、「自分自身を支える責任を持つ」概念が必要となりアドヒアランスが議論されるようになりました
  • 慢性腰痛の研究では多次元アドヒアランスが高いほど痛みや機能障害の改善が期待できる研究結果もあり、関連が報告されています
  • アドヒアランス維持に関わる因子
    • 選手側の因子
      • 痛みの強さ、原因についての考え方、適切な知識の有無、治療内容についての考え方、自己効力感、心理社会的要因
    • 介入者の問題
      • 生物医学モデルに偏った説明や治療、コミュニケーションスキル、実践的なスキル
    • 環境の問題
    • 病院や施設へのアクセス、設備内容、一緒に取り組む仲間や指導者との社会的関係、家族との関係、チームでの役割や期待など、経済的条件
  • とくに慢性疼痛は、痛みに対する正しい知識を介入者も選手も持つことが必要であり、そのうえで選手の信念や個性が尊重された取り組みが行われます
  • それらの基礎が合った上で、専門家のサポートの元、最終的には選手自身が選び決断していくことがスタートになります。
  • かつては、医療的な介入や、リハビリテーション指導、競技のトレーニングなどは、いわば、上からの押しつけ的な方法で行われてきました。
  • しかし、自身の身体のことに対し主体的に関わらないことの弊害は大きく、とくに慢性性の疾患、傷害では、自分で意思決定しコントロールしていくことが有用です
  • 専門家の意見を聞きながらも、その都度、自分の人生は自分自身で決定し進んでいく、このような心構えを持ち痛みのマネジメントに取り組むことが理想です。

ストーリーで理解する痛みマネジメント9 痛みと違和感

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント9 痛みと違和感 スポーツメディスン 33(1):41-45, 2021.

  • 看護師によって行われた概念分析によると、「不快感(discomfort)」は自己報告または観察によって識別されるもので、身体的または心理的である可能性があり、慢性的な痛みに類似する性質があります。
  • 痛みではなく、通常とは異なる「違和感」という感覚で不快感を示すアスリートもいます。
  • スポーツ選手が訴える違和感の場合、通常と異なる表在感覚的な側面の他に、身体を動かしたときに思い通りに四肢が動かない感覚を表現する場合もあると考えられます
  • 違和感は、慢性的な痛みに移行する前段階の状態を表す表現としての可能性があります。
  • 原因がない違和感の背景
    • 1 中枢神経系の再編成
      • 学習された不使用 learnen no use
    • 2 身体知覚異常
    • 3 運動と感覚のミスマッチ
      • 予測とフィードバックにずれが生じ、動きに伴う感覚が脳に認識されないという不均衡が生じると、身体の変容感を感じるという研究が報告sれています
      • 頭頂葉を中心としたネットワークが関与
    • 4 運動恐怖
      • 運動恐怖とは、身体を動かすことに対する回避的な考え方を持つという概念です
      • リハビリの過程で動いたほうが痛くなると誤って学習してしまうと運動や活動に不安が伴い、回避的な行動が多くなり、筋力や持久力が低下してしまいます。この家庭でネガティブな情報が入ってきたりすると、運動恐怖による回避傾向はさらに強くなり、痛みがないのに痛みが出現したような感覚が生じる条件づけがなされます
    • 5 マッスルインバランスなどのmovement systemの要因
    • 6 心理要因
    • 7 環境要因

ストーリーで理解する痛みマネジメント8 痛みの評価(3)

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント8 痛みの評価(3) スポーツメディスン 32 (10):41-44, 2020.

  • 評価において、運動機能に対する適切な評価は必須です。しかし、慢性疼痛だからといって特別な評価法があるわけではありません。腰痛の場合、急性でも慢性でも心理社会的側面に対してのケアをまずは常に意識することが重要で、評価結果から得た情報を工夫して運用していく必要があります。
  • 両選手とも、それぞれに心理的な特性があり、そのことが痛みの悪循環の一因となっていることが推測されます。独特な価値観やコミュニケーションの方法は社会的な孤立を生じやすく、適切な介入を受ける機会が少なくなってしまうことが予想されます
  • これらのような正確や言動はあくまで個性であり、所属するコミュニティに合うように矯正しようとするのではなく、個性をそのまま認めていくことが問題解決の第一歩になります。

ストーリーで理解する痛みマネジメント7 痛みの評価(2)

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント7 痛みの評価(2) スポーツメディスン 32 (9):41-45, 2020.

  • 痛みに対する認知と対処行動の偏りは慢性化に影響を及ぼします
  • インタビューでチェックするポイントは、"傷害の程度と訴え・行動との整合性"です
  • 毎回変化を観察し、ポジティブな変化にはしっかりとフィードバックを行い、ネガティブな変化には寄り添って見守っていきます
  • 痛み行動の背景には何らかの心理的傾向や信念があるかもしれません
  • 選手が現実に合わせた、"今、目の前の"、課題に集中できるように、環境を整備していきます
  • 心理的問題そのものが痛みを直接生み出すのではなく、あくまで痛みの認知やそれに伴う行動の偏りにより、行動までが変容し悪循環に陥ってしまっていると考えます
  • そのような経験は選手の人間的な成長につながるため、理想は必要最小限の介入です。大きく道を逸れていなければ、まずは見守り、本人の気づきを待つというスタンスは、忍耐が必要になります。介入者にもレジリエンスが求められます
  • 日常生活のチェック事項として、池田ら(2018)による慢性疼痛患者に対する地域・在宅リハビリテーションにおける考えが参考になります。慢性疼痛に関わる生活習慣として、1運動・身体活動と休養、2 睡眠 3 栄養・食事行動 4 排泄 5 ストレス 6社会的な関わり 7生活史 の7つを活用し、慢性疼痛を解釈するようにしています。
  • スポーツ選手は身体能力が高く、通常の姿勢では異常な知見が認められない場合があります。そのようなときは、中間的姿勢を確認すると良いでしょう。そのような姿勢で、痛みや過剰な代償が認められることがあります。安定性を優先して姿勢の偏りをつくりだし、痛みが引き起こされることがあります。
  • 身体評価における注意として、評価結果に過剰に負の意味付けを行わないことが挙げられます。とくに慢性疼痛においては、必ずしも評価結果が痛みの訴えと一致するわけではありません。訴えと評価が一致すればそれを改善していきますが、長引きこじれている場合には複合的に要因が絡み、身体運動機能の改善=痛みの解消、とならないこともあります。
  • マイナスの評価結果は「劣っている」部分ではなく、競技をより快適に実施するための克服すべき課題の一つとして考えていきましょう

ストーリーで理解する痛みマネジメント6 痛みの評価(1)

永田将行, 江原弘之 ストーリーで理解する痛みマネジメント6 痛みの評価(1) スポーツメディスン 32 (8):43-46, 2020.

  • 慢性疼痛の評価
  • もちろん、痛み自体の評価を行いますが、痛みの悪循環に陥っている要因と考えられる心理状態や社会的状況についても評価します
  • 評価の構造化 痛みのアンケートは、口腔顔面痛における構造化問診が参考になります。
  • 痛みが長引いてしまっていることで、痛みが生活の中心に位置してしまい価値判断の基準となってしまっている可能性があります。痛いから調子が悪い、痛くないから調子がよいというように、判断のすべてが痛みを基準としてしまい、痛みから離れられなくなってしまいます。慢性疼痛の目標設定においては、痛みをなくすことではなく、日常生活、スポーツ活動におけるパフォーマンスの改善が目標になります。それために痛みだけでなく、生活や競技での希望を聞き、目標設定の参考にしていきます。
  • このとき、痛みを抱えた選手は、ケガの程度に見合わない過剰な表現を見せるかもしれません。また、まったく痛くないようなそぶりを見せることもあります。強い痛みで混乱していることもあるでしょう。そこで、介入者の先入観を介在させず、痛みの表現をありのままに聞くことが大切です。相手の訴えには寄り添いますが、治療者自身の気持ちや感情を入れず、中間的態度をいじするように気をつけましょう
  • 初回の介入、とくに主訴を聞く場面では、「この人は話をちゃんと聞いてくれる人だ」と選手が感じされるように、訴えを受け入れるという態度を示し、お互いの信頼を深めることに努めます
  • 介入者が間違いを正したくなってしまう反応を、動機づけ面接法では、「正したい反射」と読んでいます。
  • 介入者が正しいと考える、ある一方向に誘導するような説得をすると、説得されて方は、感情を害された、自由を侵害されたと感じてしまいます。そして、より矛盾した言動をとるようになってしまい、心理的バリアが強固に形成されてしまいます。