疼痛の神経心理学

森岡周 疼痛の神経心理学 ー身体性と社会性の観点から 神経心理学 2016;32(3):208-215

  • 痛みの分類 感覚的側面、情動社会的側面、認知身体的側面
  • 痛みの情動・社会的側面のメカニズム
  • 内側前頭前野側坐核のコネクティビティの強さと痛みの不快感の程度には正の相関が認められることから、内側前頭前野の過活動が痛みの増強に影響していることが考えられる
  • 内側前頭前野の過活動を抑制する脳領域は、背外側前頭前野
  • 背外側前頭前野の機能不全は慢性痛の原因であるという指摘は多い
  • 心理社会モデルである痛みの恐怖ー回避モデルもこうした前頭前野の機能不全によって起こると想定されている
  • 背外側前頭前野はワーキングモメリ機能に関わり意図により作動する
  • 報酬系の作動に加えて自己の意図に基づき目標志向的に行動を起こすことは、痛みをコントロールする上で重要な役割を担っているといえよう
  • 痛みの情動・社会的側面に対する治療的ストラテジー
  • 背外側前頭前野は目標志向的な活動における意思決定や注意に関与するが、腹外側前頭前野の働きは思考の柔軟性に関与する
  • 心理検査からストレス因子を受け入れ、そのストレスとうまく付き合って生活しようとする思考ストラテジーを持つものは、痛みを予期している時の腹外側前頭前野の活動が高く、その活動と主観的疼痛強度は負の相関を示すことが明らかになっている
  • 医療者は痛みの程度の変化がなぜ生じるか、患者に良心的かつエビデンスに基づいた適切なフィードバックを与えることで、痛みの自己コントロールに関して学習させることができる、すなわち、こうした介入は「痛みは変化しない(固執)」「余計悪くなってしまう(拡大視)」といった破局的思考の意識を変えるための患者とセラピストの共同注意を働かせる道具になる
  • 社会的痛みの感受性と身体的痛みの感受性は直接的な正の相関を示し、それに共通した神経基盤が前帯状回、島の活動である
  • 社会的痛みに関しては社会的援助によって疎外感を与えないことが重要になる
  • Tunk 慢性痛は急性痛と異なり心理社会的側面の影響が大きく、そのポイントは痛みによっておこる行動と痛みのよって損失される社会的役割が問題であると述べた
  • 近年では痛みの直接的に治療するのではなく、痛みよって起こる動作障害の改善・克服、そして不安をあおる情報を整理・コントロールし、科学的かつ専門的な正確な知識に基づいた集学的アプローチによる患者教育の方が重要であることが認知されている
  • 痛みの認知・身体的側面のメカニズム
  • 痛みによって運動が抑制され、痛みを避けるような行動をとることによって、学習性の不使用(learned nouse)が生じ、不使用が継続することで患部の体部位再現が狭小化され、その結果、疼痛抑制に関与する皮質機能が低下し、痛みが慢性化される
  • 感覚情報の不一致が起これば前帯状回は活性化を起こすため、この過活動が痛みを増幅させている可能性がある
  • 痛みの認知・身体的側面の治療的ストラテジー
  • ミラーセラピーはRamachandranらによって開発された「健側を鏡に写すことであたかも患側があるように錯覚を生じさせるもの」であるが、この原理は切断によって失った手の体性感覚に基づく記憶情報と視覚的な錯覚の惹起に基づく記憶情報との間に整合性をもたらすというものであり、実際の介入によって幻肢痛の緩和が報告されている
  • Sumitaniらは、ミラーセラピーの介入効果がみられた症例は固有受容感覚に関連した痛みであり、皮膚受容感覚に関連した性質の痛みには効果がなかったことを明らかにしている
  • 外界からの感覚刺激は身体表象を介して知覚として情報化されるが、これらの課題では、接触されている位置を識別させていることに特徴があり、このプロセスが身体性の再構築に関与していると考えられる
  • 個人の情動体験、文脈や信念、さらには自己と他者の関係などのトップダウン意識によって個人の身体性が変容し、それによって痛みの程度を変化させてしまうことから、対象者の社会的拝啓も鑑み疼痛緩和アプローチを試みる必要があろう

高度情報社会におけるアイデンティティの変容 ー内受容感覚への注目

濱野清志 高度情報社会におけるアイデンティティの変容 ー内受容感覚への注目 心身医 2021;61:158-163

  • テレワークをすることが増えて改めて感じることは、きわめて私的な空間にいながら仕事向けの顔を使うという体験の微妙な居心地の悪さである
  • 内的空間がどこまでも他者を前提にした体験様式とならざるを得なくなり、身の回りの複数他者に応じた自分自身の分割提供を自然と行うことになる。ここにはプライベートと仕事を切り分け、本音と建前、表と裏を使い分ける日本人の従来の感覚に大きな挑戦がつきつけられているといえるだろう
  • 大人になるということは、多様な人間関係のなかで部分化し役割化した自分の上手に活用し、個人としての一貫性を保つことができるということである
  • 自我の機能が健康である限り、いくつかの部分化した「私」の違いは自覚されており、そこで生じる矛盾にも目を向けることができる。そして、矛盾した自分が全体としてひとりの「私」であることを把握できているのである
  • それが真の大人となることだとするなら、ウィズコロナの状況は私たち日本人に真の大人になる試練を与えているということもできるだろう
  • この心理的経験を統合する母体としての身体は、全体が一貫としてまとまりをもっている感覚、生きた身体の全体的な感覚に支えられている。この中核的な感覚基盤が後に検討する内受容感覚である
  • アイデンティティの基盤としての内受容感覚
  • 内受容感覚は、「身体の状態をとらえるための内的生理状態の求心性の機能」といわれるように、皮膚の内側の環境が安全な状態かをみる機能として発達してきた感覚である
  • 外受容感覚、自己受容感覚、内受容感覚の3つを並べ、これらを生命体にとって一定の環境内で生命現象を維持するための必須のセンサーとして捉え直してみると、感覚という現象に当然のように自我意識を主体としておくことは、人間特有の思い上がりであることに気づく、こうやって自我意識と感覚を切り離してみることも重要なことである
  • 乾は、「換言すれば、前島は、われわれが「見て、聞いて、感じる」ものを内受容予測の影響のもとで統合し、身体の多感覚表現を作っているのである。このためこの領域は統合された意識経験の基盤を形成しており、「身体的自己の基盤」であるといわれている
  • 帯状皮質や腹側前頭前野から内受容感覚が予測され、前島で実際の内受容感覚との予測誤差が検出され、この予測誤差が少なく、精度の高い状態が、環境の中にあって自己の身体がほどよい状態を保っているということを示すのであって、このあたりの現象が自己存在感や主体感の基盤となるのではないかという
  • このようにみてくると、島皮質を中心に生じる脳神経現象が、環境世界に生きる生命体としての人間にとって、生命としてのまとまりを保つ身体的な自己の中隔であることが理解されるだろう
  • 神原が人間の健康を保つ上での意識的な調整につながる「気づき」と意識下の生理的な調整機能との連携のポイントを島皮質領域に位置づけていることもうなずける

いま」を作り出す身体反応の受容・制御と感情 ー島皮質の機能からの考察ー

寺澤悠里 「いま」を作り出す身体反応の受容・制御と感情 ー島皮質の機能からの考察ー 神経心理学 2018;34(4):289-298

  • 身体状態が恒常状態から離れると前部帯状回、両側島皮質、視床、脳幹といった内受容感覚に関わる部位の活動がみられる
  • 島皮質 内受容感覚の処理に欠かすことができない領域
  • 右島皮質が、主観的な感覚としての感情を生成し調整することに関わっている、との推論を可能にするであろう
  • 右島皮質の機能が失われたことによって、表情観察時に主体において生じる身体反応の検出能力が低下した
  • 怒り、嫌悪、悲しみの違いは、覚醒度の違いで説明される
  • 島皮質が身体内部反応の受容を介して感情の強さ(覚醒度)を調整する基盤、そして身体由来情報と文脈的情報を感情として統合的に意識するための基盤であることを意味するのではないだろうか
  • 島皮質の係る機能と対応する領域のまとめ Uddin
  • 前部背側領域 認知コントロール機能 注意・セイリエンス・発語
  • 前部腹側領域 社会感情機能     感情経験・共感・社会的認知・リスクを伴う意思決定
  • 中部から後部 感覚運動機能     内臓感覚・自律神経機能の制御・内受容感覚・体性感覚・痛み、・聴覚・味覚・嗅覚・前提機能
  • Uddin 脳内のデフォールトモードネットワークと中央実行系ネットワークの切り替えに、前部島皮質および前部帯状会を中心とした生理セイリエンスネットワークが重要であるという仮説
  • 脳損傷後に、喫煙行動の中断に成功した患者に共通する損傷部位を調査 
  • 右島皮質前部の損傷をもつ症例で、高い確率で喫煙の中断が見られた
  • 右前島皮質が、内受容感覚を脳内で表象し主観的感情として意識するのに重要であるがために、この部位の損傷は、喫煙の中断によって生じる不安や緊張を患者に感じさせにくくなり喫煙行動の中断を招いたと考察されている
  • 喫煙行動の中断や、非合理的なギャンブル行動の減少は、いずれも身体反応を介した感情経験が島皮質の損傷によって減弱することで、意思決定への方向づけが変化した例として扱うことができるであろう
  • 島皮質は、頭頂葉辺縁系との連結によって身体に生じている変化を、そして前頭葉・側頭葉との連結によって現在直面している状況に関する知識の入力を受け、この両者の情報を照合し、統合的な解釈や判断の方向づけを行っているために、両者のマッチングとアップデート過程を前提とする様々な認知機能への関与が見いだされる、と考えることができる。感情はその最たるものであるが故に、島皮質との強い関わりがみられるのかもしれない
  • Singer 不確実状況下における予測とその予測誤差の符号化のために、島皮質が外受容情報、内受容情報、そして状況に対する文脈情報を統合し、身体の状態の調整を通じて生体の行動の方向づけを行っている、という仮説を提示した
  • Seth,Barrett 島皮質における内受容予測とその符号化 (interoceptive prediction, interoceptive coding)
  • 無顆粒皮質である島皮質前部や前部帯状回などが内受容情報に関する予測シグナルを生成、それを亜顆粒皮質あるいは顆粒皮質である中部から後部にかけての島皮質に送る。中部、および後部島皮質は、同時に脳幹や視床を介して身体からの内受容情報の入力を受けているので、予測シグナルと実際の情報を比較し、予測が正しいものであったのか、あるいは誤ったものであったのか、という情報を符号化することができる
  • 誤差がなかった場合は、そのまま内受容状態は意識に上ることなく、この脳と身体のループが滞りなく動いていくが、誤差があった場合には、予想情報のアップデートや身体状態の調整が必要になる
  • これによって、心拍や呼吸といった自律神経活動が変化し、身体内部状態の変化が内受容感覚として意識に上るというのだ
  • 島皮質における虚血性脳卒中は、その後心臓血管系の問題によって突然死を引き起こすリスクを上昇させることを示すデータがある
  • 上述のモデルを援用して考えれば、島皮質を介した内受容状態の予測と実際の入力のずれのモニタリング機能が低下し、状況に応じた心臓血管系へのコントロールに長期的な不調が生じたため、という見方もあるのではないだろうか
  • こうして見えてくるのは島皮質が身体の内外の情報を統合することで、人間にとっての「いま」が生み出され、それに応じた自身の意識的・無意識的な調整が可能となっていることであり、この調整が感情の重要な側面であることだ

予測低符号化・内受容感覚・感情

大平英樹 予測低符号化・内受容感覚・感情 エモーション・スタディーズ 2017:3(1):2-12

  • 身体化された予測的内受容符号化モデル Embodied Predictive Interoception Coding Model : EPIC model)
  • 予測符号化 脳は、感覚器官から入力される刺激に受動的に反応しているのではなく、これから入力される刺激を予測する内的モデルを構成し、それによる予測と入力された感覚信号を比較し、両者のズレ(予測誤差:prediction error)の計算の基づいて、知覚を能動的に創発している
  • この発想の起源 物理学者ヘルツホルム 無意識の推論
  • ヒトを含む生体は、そうした階層的に検出される予測誤差を含む生体は、そうした階層的に検出される予測誤差の和を最小化することで統一的に整合的な自己像と世界像を構築し、それらを維持しようと努める。この予測誤差の和は、これもヘルツホルムの熱力学理論になぞらえて、自由エネルギーと呼ばれている
  • 無意識の推論、能動的推論 (active inference)
  • 予測符号化の解剖学的基盤
  • 顆粒皮質 視覚、聴覚、体性感覚など、感覚入力を受ける 6層構造 第4層に顆粒細胞、
  • 顆粒皮質の構造は感覚情報の処理に適している
  • 無顆粒皮質は過去の経験に基づく感覚の予測を担うと考えられている
  • 身体からの体性感覚野への経路が正常であっても、運動野からの予測信号が無ければ、正常な触覚経験は得られないことを示唆している。運動野は運動のためにだけあるのではなく、その重要あ機能の一つは、感覚を成立させるために予測を提供することなのである
  • 生体は、この予測誤差を最小化することで身体状態を制御しようと努める。予測誤差の最小化のためには、内的モデルの更新と、行動による身体の変容の両方の手段が用いられる
  • 例えば、腸の蠕動運動は、通常は意識されることはほとんどない。これは普段は内的モデルによる予測と実際の運動の予測誤差がわずかであるからである。しかし腸に感染が生じて炎症が起これば、予測誤差は増大し、われわれは違和感や痛みとしてそれを知覚することになる。そうなると腸への注意により感覚運動の分布の精度が上がり、知覚は鋭敏になる。そのような場合には、腸のわずかな動きでさえ感じられる。このような場合に我々は、腹部を手で擦ったり押したりして、違和感を確認したり、痛みを鎮めようと試みる。これは能動的推論による予測誤差縮小のためのこういであると解釈することができる
  • 内受容感覚の予測符号化に重要な部位 島
  • 前部島、MPFC,OFCなどが内受容感覚の内的モデルを形成し、後部島において身体信号との予測誤差が計算されると主張している
  • EPICモデルでは、こうした内受容感覚を基盤として脳に表象された知覚が感情(affect)の本質だと考える
  • 感情の多くの部分は意識されず自動的に処理が進行しており、その一部だけが意識される。感情は快ー不快、覚醒ー鎮静という2次元平面に射影され経験される
  • 言語の機能によりこの連続的な2次元平面はいくつかのカテゴリーに分節され、それらは恐怖、怒り、幸福などと呼ばれる情動(emotion)となる
  • EPICモデルは、情動の末梢起源説(James, 1884)やソマティックマーカー説(Damasio, 1994)などと共通する
  • 統制群における不快の感情とは、予測誤差が正負の値を揺れ動き、縮小できないことに伴う主観的経験である。つまり快と不快の感情とは、自由エネルギーの縮小という脳の原理の目標への接近と停滞を意味する。
  • また特に強化群において強く経験される主観的な覚醒の感覚は、身体活動を制御するシステムが報酬計算システムからの予想信号の変化に伴い、各種の生理的反応レベルを上げることにより予測誤差を縮小しようとする過程が認識されたものである
  • これが、われわれが主観的に感じる感情(affect)である
  • されに、そうした経験を、我々は、意欲、満足、焦り、不安などの名称を与えることにより認識する。これらが情動(emotion)である。
  • この意味では、感情は予測的符号化の過程から創発された随伴物である
  • しかし、一方で感情は、いったん形成されたならば、おそらく言語や記号を扱う最上位のシステムの活動を規定すると考えられる

精神症状と内受容感

是木明宏 精神症状と内受容感覚 神経心理学 2019;35:187-196

  • Charles Sherington 英 生理学者 ノーベル賞受賞者
    • 感覚の機能的分類
    • 外受容感覚(exteroception)、固有受容感覚(proprioception)、内受容感覚(interoception)
    • 内受容感覚
      • 身体全体のホメオスタシスに関係
      • 心拍や血圧、呼吸、消化管といった主に身体内部の生理的な情報の感覚
      • 痛覚や体温覚はもともと外受容感覚と考えられていたが、近年では内受容感覚と捉えられるようになった
      • 固有受容感覚を内受容感覚の一部として捉える立場もあり、そこでは身体内部環境に対する感覚として内受容感覚でまとめられる
  • 前部島皮質が身体情報の表象に関与する一方で、前部帯状回は身体情報に合わせた必要な行動の開始に関与するとされる
  • James-Langeの末梢起源説にもあるように、その身体反応が感情形成に与える重要性は広く受け止められている
  • 実際に感情の主観的側面に関係する脳領域は、内受容感覚の脳領域と共通しており、島皮質や前部帯状回を始めとした脳領域が指摘されている
  • Damasioらのソマティックマーカー仮説では、身体反応が意思決定に影響を与えるとしている
  • 島皮質損傷例 提示した画像に対する覚醒度および感情価を低く見積もったり、怒りや喜びの表情認知が低下していたりすることが報告されており、内受容感覚に基づく感情処理の障害が示唆されている
  • 島皮質の障害が異常な身体感覚を引き起こしている一役を担っている可能性が示唆されている
  • 完全脊髄損傷患者でも提示された画像に対する怒りや恐怖を評価することが難しいことが示されており、内受容感覚の障害が感情処理の障害を引き起こしたと考えられている
  • 統合失調症 内受容感覚の低下していることが示されている 統合失調症における身体感覚の異常に内受容感覚の異常が関与している可能性がある
  • ASDで心拍検出課題での内受容感覚の低下を示し、またその異常が失感情症や共感性の低下と関係し、ASDの感情処理の障害に内受容感覚の低下の関与を示唆した
  • 解離性障害 内受容感覚の低下は感情やストレスの認識の低下を引き起こす一方、身体や運動の異常症状にも関与するとなると、ストレスが認識されずに身体症状に表れるというフロイトの転換の理論は、内受容感覚を通じて説明できるかもしれない
  • 認知行動療法、とくにマインドフルネスは内受容感覚を改善しうる
  • predictive coding  脳は受容した情報を単に処理するだけの臓器ではなく予測をする機能をもつ臓器であり、感覚器から入力される生情報と予測が脳内で比較されるとする脳理論

アレキシサイミアにおける島皮質での内蔵知覚と自覚的感覚の乖離

鹿野理子 アレキシサイミアにおける島皮質での内蔵知覚と自覚的感覚の乖離 心身医 2021;61:153-157

  • アレキシサイミアがどのようなメカニズムで身体的および精神的愁訴(病態)と関連するのかという議論では、心身を動かす基本的な生理機能(自律神経、内分泌、免疫など)と感情の相互作用がうまくいっていないと推測されている
  • 感情は本来、相応の身体反応(心拍増加や発汗、コルチゾールの増加など)と一体であるが、アレキシサイミアではそのような身体反応が自身の感情に伴って起きているとは理解されずに、なぞの心拍増加のようにとらえられ、本来不安などの感情の問題として表現されるべき問題を動悸などの身体症状として訴える傾向が強くなる(あと身体化)と推測される
  • 不安に伴う心拍増加と思い、身体反応と自身の感情の相同が理解されれば、脳内では過剰な身体反応を和らげる機構を作動できるが、うまく働かずに強い身体反応が長引くと推測される
  • そもそも快・不快のよな原始的な感情はより身体反応の形で表され、即時的、衝動的な行動と結びつけているが、自身の感情を理解したり身体反応との結びつきを理解したりするには、感情を概念的に理解することが必要になる。
  • アレキシサイミアではそのような感情のイメージ、概念的な取り扱いができずに、自己の感情を洞察することもできずに、他者と感情を介して共感することもできないと推測される

感情認識と内受容感覚 ー感情関連疾患と内受容感覚の下位概念について

寺澤悠里 感情認識と内受容感覚 ー感情関連疾患と内受容感覚の下位概念について バイオフィードバック研究 2017;44(2):97-101

  • James(1884)は、感情とは”身体的変化から興奮しているという事実を感じ取ること”であると定義し、”速い心拍、深い呼吸、唇のふるえ、鳥肌、内臓の動きといった身体的変化がなければ感情も存在し得ない”と述べた
  • 環境からの刺激が大脳皮質の感覚野や運動野を経由して起こした身体的変化(内蔵変化・姿勢や表情)が、再び大脳皮質にフィードバックされ、これを知覚することによって感情の主観的体験が生じる、という主張である
  • 情動の末梢起源説、James-Lange説
  • 感情体験は自律神経反応の変化(生理的覚醒)のみでは説明できず、環境との統合的な処理(状況適合的認知)によって規定されるという考え方は現在でも支持される
  • Charles Sherrington 外受容感覚(eteroception)、固有感覚(proprioception)、内受容感覚(interoception)という言葉を用いて、感覚の機能的な区別を行った
  • 内受容感覚とは身体全体のホメオスタシスの状態を意識するためのもの
  • 内受容感覚とは、心房、頚動脈、大動脈の伸長受容器、頸動脈洞の化学受容体、門脈循環における脂質受容体、骨格筋の代謝受容体によって生じる感覚で、内臓や血管の状態の知覚に関わっている
  • 心拍や血圧、呼吸などの変化の受容にはこの感覚が主に関わっており、感情の生起にともなって観察される感情反応と呼ばれる身体反応の多くは、内受容感覚器が検出できる変化をもたらすものである
  • Damasio (2003)は、外受容感覚として、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を挙げ、内受容感覚は身体内部環境に関する感覚であると述べている
  • 具体的な情報源として、痛みや体温を含む身体内環境(internal milieu)、内蔵、横紋筋、前提システム、体液の状態を挙げている
  • 内受容感覚の気付きに重要な領域(fMRI) 右島皮質前部/弁蓋部、右島皮質後部、前部帯状回視床頭頂葉内側部(楔部)、体性運動皮質、補足運動皮質
  • オンラインの感情、身体状態双方のモニタリングに深く関与する領域 右島皮質および腹内側前頭前野
  • 感情状態の評価 左側頭極、両側後部帯状回、両側前部帯状回、右内側上前頭回、両側下前頭回、左縁上回、上前頭回
  • 楔前部の活動が、島皮質・腹内側前頭皮質の活動と相互作用関係にあり、内受容感覚と感情経験を結びつけている
  • 先行研究の結果と併せると、内受容感覚と現在置かれている文脈や環境情報の統合が、主観的な感情経験の基盤となっており、感情を意識する過程には、潜在的に自己の身体内部状態を参照する過程が包含されている、という仮説の妥当性が支持されるだろう
  • 心拍知覚課題の成績が良い人のほうが、他者のごくわずかな喜びや悲しみの表情を認識できる
  • 内受容感覚への気づきは、自身において生じている感情への気づきと密接な関係にあることを示唆
  • 身体表現性障害 内受容感覚の亢進を報告する一方、減弱の報告もある
  • Garfinkel (2013) 内受容意識(interoceptive awareness)、内受容感覚の正確さ(interceptive sensitivity/accuracy)、内受容感覚の敏感さ(interoceptive sensibllity)の3つの区分を提言
  • パニック障害 内受容感覚の敏感さは高いが、心拍知覚課題の正確さは同等 内受容感覚の不適切さがパニック障害重篤化と関連
  • 自閉症スペクトラム 内受容感覚の敏感さは高いが、正確さは低い