感情認識と内受容感覚 ー感情関連疾患と内受容感覚の下位概念について

寺澤悠里 感情認識と内受容感覚 ー感情関連疾患と内受容感覚の下位概念について バイオフィードバック研究 2017;44(2):97-101

  • James(1884)は、感情とは”身体的変化から興奮しているという事実を感じ取ること”であると定義し、”速い心拍、深い呼吸、唇のふるえ、鳥肌、内臓の動きといった身体的変化がなければ感情も存在し得ない”と述べた
  • 環境からの刺激が大脳皮質の感覚野や運動野を経由して起こした身体的変化(内蔵変化・姿勢や表情)が、再び大脳皮質にフィードバックされ、これを知覚することによって感情の主観的体験が生じる、という主張である
  • 情動の末梢起源説、James-Lange説
  • 感情体験は自律神経反応の変化(生理的覚醒)のみでは説明できず、環境との統合的な処理(状況適合的認知)によって規定されるという考え方は現在でも支持される
  • Charles Sherrington 外受容感覚(eteroception)、固有感覚(proprioception)、内受容感覚(interoception)という言葉を用いて、感覚の機能的な区別を行った
  • 内受容感覚とは身体全体のホメオスタシスの状態を意識するためのもの
  • 内受容感覚とは、心房、頚動脈、大動脈の伸長受容器、頸動脈洞の化学受容体、門脈循環における脂質受容体、骨格筋の代謝受容体によって生じる感覚で、内臓や血管の状態の知覚に関わっている
  • 心拍や血圧、呼吸などの変化の受容にはこの感覚が主に関わっており、感情の生起にともなって観察される感情反応と呼ばれる身体反応の多くは、内受容感覚器が検出できる変化をもたらすものである
  • Damasio (2003)は、外受容感覚として、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚を挙げ、内受容感覚は身体内部環境に関する感覚であると述べている
  • 具体的な情報源として、痛みや体温を含む身体内環境(internal milieu)、内蔵、横紋筋、前提システム、体液の状態を挙げている
  • 内受容感覚の気付きに重要な領域(fMRI) 右島皮質前部/弁蓋部、右島皮質後部、前部帯状回視床頭頂葉内側部(楔部)、体性運動皮質、補足運動皮質
  • オンラインの感情、身体状態双方のモニタリングに深く関与する領域 右島皮質および腹内側前頭前野
  • 感情状態の評価 左側頭極、両側後部帯状回、両側前部帯状回、右内側上前頭回、両側下前頭回、左縁上回、上前頭回
  • 楔前部の活動が、島皮質・腹内側前頭皮質の活動と相互作用関係にあり、内受容感覚と感情経験を結びつけている
  • 先行研究の結果と併せると、内受容感覚と現在置かれている文脈や環境情報の統合が、主観的な感情経験の基盤となっており、感情を意識する過程には、潜在的に自己の身体内部状態を参照する過程が包含されている、という仮説の妥当性が支持されるだろう
  • 心拍知覚課題の成績が良い人のほうが、他者のごくわずかな喜びや悲しみの表情を認識できる
  • 内受容感覚への気づきは、自身において生じている感情への気づきと密接な関係にあることを示唆
  • 身体表現性障害 内受容感覚の亢進を報告する一方、減弱の報告もある
  • Garfinkel (2013) 内受容意識(interoceptive awareness)、内受容感覚の正確さ(interceptive sensitivity/accuracy)、内受容感覚の敏感さ(interoceptive sensibllity)の3つの区分を提言
  • パニック障害 内受容感覚の敏感さは高いが、心拍知覚課題の正確さは同等 内受容感覚の不適切さがパニック障害重篤化と関連
  • 自閉症スペクトラム 内受容感覚の敏感さは高いが、正確さは低い