高度情報社会におけるアイデンティティの変容 ー内受容感覚への注目

濱野清志 高度情報社会におけるアイデンティティの変容 ー内受容感覚への注目 心身医 2021;61:158-163

  • テレワークをすることが増えて改めて感じることは、きわめて私的な空間にいながら仕事向けの顔を使うという体験の微妙な居心地の悪さである
  • 内的空間がどこまでも他者を前提にした体験様式とならざるを得なくなり、身の回りの複数他者に応じた自分自身の分割提供を自然と行うことになる。ここにはプライベートと仕事を切り分け、本音と建前、表と裏を使い分ける日本人の従来の感覚に大きな挑戦がつきつけられているといえるだろう
  • 大人になるということは、多様な人間関係のなかで部分化し役割化した自分の上手に活用し、個人としての一貫性を保つことができるということである
  • 自我の機能が健康である限り、いくつかの部分化した「私」の違いは自覚されており、そこで生じる矛盾にも目を向けることができる。そして、矛盾した自分が全体としてひとりの「私」であることを把握できているのである
  • それが真の大人となることだとするなら、ウィズコロナの状況は私たち日本人に真の大人になる試練を与えているということもできるだろう
  • この心理的経験を統合する母体としての身体は、全体が一貫としてまとまりをもっている感覚、生きた身体の全体的な感覚に支えられている。この中核的な感覚基盤が後に検討する内受容感覚である
  • アイデンティティの基盤としての内受容感覚
  • 内受容感覚は、「身体の状態をとらえるための内的生理状態の求心性の機能」といわれるように、皮膚の内側の環境が安全な状態かをみる機能として発達してきた感覚である
  • 外受容感覚、自己受容感覚、内受容感覚の3つを並べ、これらを生命体にとって一定の環境内で生命現象を維持するための必須のセンサーとして捉え直してみると、感覚という現象に当然のように自我意識を主体としておくことは、人間特有の思い上がりであることに気づく、こうやって自我意識と感覚を切り離してみることも重要なことである
  • 乾は、「換言すれば、前島は、われわれが「見て、聞いて、感じる」ものを内受容予測の影響のもとで統合し、身体の多感覚表現を作っているのである。このためこの領域は統合された意識経験の基盤を形成しており、「身体的自己の基盤」であるといわれている
  • 帯状皮質や腹側前頭前野から内受容感覚が予測され、前島で実際の内受容感覚との予測誤差が検出され、この予測誤差が少なく、精度の高い状態が、環境の中にあって自己の身体がほどよい状態を保っているということを示すのであって、このあたりの現象が自己存在感や主体感の基盤となるのではないかという
  • このようにみてくると、島皮質を中心に生じる脳神経現象が、環境世界に生きる生命体としての人間にとって、生命としてのまとまりを保つ身体的な自己の中隔であることが理解されるだろう
  • 神原が人間の健康を保つ上での意識的な調整につながる「気づき」と意識下の生理的な調整機能との連携のポイントを島皮質領域に位置づけていることもうなずける