内受容感覚と感情の複雑な関係

福島宏器 内受容感覚と感情の複雑な関係 ー寺澤・梅田論文へのコメント 心理学評論 2014;57(19):67-76

  • 心身相関の複雑なあり方
    • 1 内受容感覚がどのように評価・推測されるか
    • 2 内受容感覚がどのように(どの程度)感情に寄与するか
  • 1-1 身体の評価
    • SchachterとSingerの有名な実験 アドレナリン投与にあわせて被験者の状況や教示を操作することによって、生理的変化それ自体だけでなく、それをどのように評価・意味づけするかということが感情を形成することを示唆した
    • 自閉症スペクトラム障害などの発達障害者の一部には、身体感覚に過敏でありながら、様々な身体症状が統合されないままに経験されるという身体症状の認識の困難が見られる
  • 1-2 身体の推測
    • 実験状況で測られた「内受容感覚」は、生理状態よりも、外的な情報の方により影響を受けていた
    • 内受容感覚の推測過程については、このような身体的な「生理活動そのもの」の推測だけでなく、その「意味づけ」についての推測過程も考えられる
    • 「感情の主観的経験とは、身体内部状態についての能動的・予測的な推測過程の産物である」と捉えることができる
  • 1-3 内受容感覚の構造と定義
    • 生理的な層と認知的な層
  • 1-4 計測手法の問題
  • 2 複数の情報源とその重み付け

内受容感覚と感情の複雑な関係

福島宏器 内受容感覚と感情の複雑な関係 ー寺澤・梅田論文へのコメント 心理学評論 2014;57(19):67-76

  • 心身相関の複雑なあり方
    • 1 内受容感覚がどのように評価・推測されるか
    • 2 内受容感覚がどのように(どの程度)感情に寄与するか
  • 1-1 身体の評価
    • SchachterとSingerの有名な実験 アドレナリン投与にあわせて被験者の状況や教示を操作することによって、生理的変化それ自体だけでなく、それをどのように評価・意味づけするかということが感情を形成することを示唆した
    • 自閉症スペクトラム障害などの発達障害者の一部には、身体感覚に過敏でありながら、様々な身体症状が統合されないままに経験されるという身体症状の認識の困難が見られる
  • 1-2 身体の推測
    • 実験状況で測られた「内受容感覚」は、生理状態よりも、外的な情報の方により影響を受けていた
    • 内受容感覚の推測過程については、このような身体的な「生理活動そのもの」の推測だけでなく、その「意味づけ」についての推測過程も考えられる
    • 「感情の主観的経験とは、身体内部状態についての能動的・予測的な推測過程の産物である」と捉えることができる
  • 1-3 内受容感覚の構造と定義
    • 生理的な層と認知的な層
  • 1-4 計測手法の問題
  • 2 複数の情報源とその重み付け

心身症とアレキシサイミア ー情動認知と身体性の関連から

守口善也 心身症とアレキシサイミア ー情動認知と身体性の関連から 心理学評論 2014;57(1):77-92

  • 感情の元となる動物的・原始的心身の状態と、実際出来上がる「感情」という反応物は厳密には異なるのである
  • 感情の元となる動物的・原始的な心と体の状態を「情動 affect 」と呼んで「感情 emotion」と区別することがある
  • アレキシサイミアは、感情の元ととなる”火種”のようなものはあるが、それを「認識」して改めて人間の「感情」として作り上げることの障害である
  • たとえば「私は怒っているんだ」と改めて”気づかせる”ような、より高次のプロセスの問題であり、単純に「感情を失った」といった内容では語れないものを含んだ概念である
  • アレキシソミア より低次の情動・あるいは身体状態への気付きの障害
  • 外的な刺激の知覚以外に、生体は、内蔵や自律神経系、液性因子などの身体内部状態に関する情報を脳で知覚しており(内受容感覚 introception)、この内受容感覚への気付き(introceptive awareness)は自己の情動状態および感情(や意識)の生成の基礎を構築しているとされる
  • この内受容感覚への気付きに関しては、脳科学的に島皮質の役割がクローズアップされている
  • この内受容感覚の障害・アレキシソミアは、ありのままの情動・感情体験を阻害し、アレキシサイミアに繋がると同時に、心身症の背景因子の一つとして考えられている
  • また、もう一つの機序は、身体内部状態の気づきが悪いことで、たとえば身体状態の変化を危険信号として捉えられず、適切な対処(例:休息をとったり医療機関を受診したり)を行わないことで疾病の発症・増悪を招くといったプロセスも考えられる
  • 共感
  • 共感には、文字通り他人と気持ちを分かち合う、”ホット”な「情動的共感」と、ある程度冷めた”クール”な「認知的共感」がある
  • 特に情動的共感については、より動物的で原始的なシステムで、非意識的・自動的な自他マッチングシステムと考えられている
  • ミラーニューロンシステムは、原始的・動物的で、自動的な、自分と他者の運動のマッチングシステムであると考えられる
  • 誰かの手や足が、針で刺されたり、ドアに挟まれたりするような「痛い画像」を見た際の脳活動をfMRIで撮像すると、その画像を見た人自身は、実際には全く痛みを負っていないのに、体の感覚の関連の領域(感覚野)や、「痛み」のネットワークが活動する。これは「感覚」に関する自他の自動マッチングシステムで、shared representationと称することもある
  • 感覚運動レベルのマッチングと認知的共感
    • 理論説 vs シミュレーション説
  • 理論説 「人間の心とはこんなものだ」といった法則を他人に当てはめることによって、その行動を説明予測するもの 3人称の立場
  • シミュレーション説 他人の状況に自分の身を置いた場合、自分の脳内でその他人の感覚運動状態をシミュレートして得た結果、他人の心的状態がわかる 一人称の立場
  • 「痛み画像」を観察している際にfMRIによる脳血流を(自分は全く痛みを受けずに)測定し、アレキシサイミアと、コントロールと比較
  • コントロール 体性感覚野、視床・前帯状回、島皮質、背外側前頭前野などの、体の感覚の痛みに書かある脳領域の活動が観察された
  • アレキシサイミア 認知的・制御的な領域と考えられている背外側前頭前野(DLPFC)や背側前帯状回(dACC)では脳血流が低下していたのに対し、痛みの中でも情動的なプロセスを担当している部位と考えられる前部・中部島皮質(AI/MI),腹側前帯状回(vACC)などでは、逆に反応が亢進していた
  • アレキシサイミアの関する脳機能画像研究にレビューのまとめ
    • 1 外的な情動刺激(視覚)、および想像性に関わる課題に対する辺縁系・傍辺縁系扁桃体、島皮質、前帯状回、後帯状回)の反応性は低下していた。アレキシサイミアでにおいては、外的な刺激に対する覚醒反応が減弱している可能性がある
    • 2 身体的な感覚運動レベルの課題・刺激に関しては、島皮質や感覚運動領域をはじめとして、むしろ亢進している。この「身体感覚処理への依存」は症状の増幅などに関わっている可能性がある
    • 3 社会性にまつわる課題(特に他者理解)に対しては、内側前頭前野・島皮質などにおいて活動低下があり、アレキシサイミアと自閉症スペクトラムなどとのオーバーラップを示唆する
  • アレキシサイミアは外的な情動刺激の鈍麻と、一方でより内的なダイレクトな「身体」の感覚・運動処理への以前をあわせたもの、という捉え方ができる
  • こうしたアレキシサイミアの脳機能の特性は、アレキシサイミア傾向の高い者のうち、一部がより身体症状を強調した形で訴えを起こすことにつながっていると思われる
  • 感情への気づきの構成モデル
  • Core affectの形成には、身体内部の感覚に由来した内受容感覚 introceptionが大きな影響を果たす
  • 私達の心の状態を形成するのに必要なリソースは、1) core affect/身体内部からの情報、2)記憶(あと脳に蓄えられている過去の情報)、3) 外界からの(感覚)入力情報の3つしかない
  • そして、この3つの情報は、脳内で「カテゴリ化」と呼ばれる処理を受け、初めてある「考え」や「気持ち」「感情」などの心的状態が生成される
  • 「カテゴリ化」は、情報に名前をつけるといういみであり、こうして初めて心的状態として意識的に「体験」される
  • カテゴリ化は極めて認知的な処理ではあるが、カテゴリ化そのもののプロセス自体は、本人に意識されるとは限らない
  • より低いレベルの感情の気づき(core affect)の障害 アレキシソミア
  • より高いレベル(3種の 身体内外の情報を統合し、「体験される」心的状態を構成するプロセス)(カテゴリ化の障害) アレキシサイミア (自分の感情状態を怒りや喜びなどに分類表現できない)
  • Craigは、「内受容感覚」への気づき(interoceptive awareness)が情動・意識を生み出すもとであり、それには前島皮質が関与しているというエビデンスを詳細にレビューし、従来不明な部分が多かった島皮質の機能を明るみにしたものとして注目されている
  • アレキシサイミアの高い人々は、情動の体験場面において、特に身体情報のプロセスへ過度に依存し、自他の分離がうまくいかず、カテゴリ化やメタ認知などのより認知的なプロセスに移行していない様子が明らかになりつつある
  • こうした障害が、情動制御の不全、そして心身相関をもたらず全身システムを通じて、身体症状をもたらす機序が考えられる
  • 今後は、身体→脳、脳→身体という双方向のダイナミズムが脳研究の対象となっていき、心身症の病態解明に進むことが期待される

内受容感覚と感情をつなぐ心理・神経メカニズム

寺澤悠里、梅田聡 内受容感覚と感情をつなぐ心理・神経メカニズム 心理学評論 2014;57(1):49-66

  • James (1884)
    • 感情とは”身体的変化から興奮している事実を感じ取ること”であると定義し、”速い心拍、深い呼吸、唇のふるえ、l鳥肌、内臓の動きといった身体的変化がなければ感情の損ざし得ない”
    • 環境からの刺激が大脳皮質の感覚野や運動野を経由して起こした身体変化(内蔵変化・姿勢や表情)が、再び大脳皮質にフィードバックされ、これを知覚することによって感情の主観的経験が生じる
  • Charles Sherrington 英 生理学者
    • 外受容感覚(exteroception)、固有感覚(proprioception)、内受容感覚(interoception)という言葉を用いて感覚の機能的な区別を行った 1906
    • 内受容感覚とは
      • 身体全体のホメオスタシスの状態を意識するためのもの
      • 心房、頚動脈、大動脈の伸張受容器、頸動脈洞の化学受容器、門脈循環における脂質受容体、骨格筋の代謝受容体によって生じる感覚で、内臓や血管の知覚に関わっている
      • 心拍や血圧、呼吸などの変化の受容にはこの感覚が主に関わっており、感情の生起に伴って観察される感情反応と呼ばれる身体反応の多くは、内受容感覚器が検出できる変化をもたらす
    • 外受容感覚 
      • 目の視細胞、蝸牛の有毛細胞、皮膚の触覚受容器(機械的受容器)のように身体外部の情報の関与に関するもの
    • 固有感覚 
      • 骨格筋の紡錘細胞、ゴルジ腱器官、耳石器などから生じ、空間におこえる身体の動きの速度、向き、骨格筋の緊張、平衡感覚などの総称。身体各部の運動、静止、位置、平衡を感知して運動の調節、体位の維持に寄与する感覚
  • 内受容感覚に関わる帯状回前部、島皮質、視床の核などの中枢神経基盤は同時に痛みを感じる神経ネットワークとしても知られている部位である
  • このネットワークは、身体に起きている恒常状態からの逸脱を中枢神経、そして意識に上らせる役目を担っていると考えられるだろう
  • 身体状態が恒常状態から離れると前部帯状回、両側島皮質、視床、脳幹といった内受容感覚に関わる部位の活動がみられている
  • 島皮質、前部帯状回視床などが内受容感覚の中心的な神経基盤であり、とくに島皮質は内受容感覚との関わりが強い
  • 興味深いことに、主観的感情を経験している際に活動が報告されている複数の脳領域は、内受容感覚の神経基盤として特定された領域と大部分が重複している
  • 内受容感覚を意識するための神経基盤は、同時にこの感覚を主観的感情として感じるための基盤として機能していることを示唆。この事実は身体の状態を参照する、という過程が感情を経験するメカニズムの一部であることを支持していると考えられる
  • 楔前部の活動が島皮質・腹内側前頭皮質の活動と相互作用関係にあり、内受容感覚と感情経験を結びつける役割を担っていることが示唆された。先行研究の結果と併せると、内受容感覚と現在置かれている文脈や環境情報の統合が、主観的な感情経験の基盤となっており、感情を意識する過程には、潜在的に自己の身体内部状態を参照する過程が包含されている、という仮説の妥当性が支持されるだろう
  • 脊髄損傷例を対象とした研究で、患者は怒るべき場面では大声をあげ、ののしるという行動を示したり、テストの前には不安だ、とつぶやいたりした。しかし、それは、ある状況ではどのように振る舞うべきか、という知識に基づくものであって、実際に生々しい感情は生じていなかったと報告している
  • 内受容感覚の敏感さは個人によって大きく異なり、敏感なグループに属する実験参加者では敏感でないグループの実験参加者よりも状態不安、および情緒不安定傾向が高いことがわかった
  • うつ傾向の高い人や、人格障害者は、健常者よりも心拍知覚の敏感さが低い。また、明白な身体疾患がないにもかかわらず様々な身体症状を訴える身体表現性障害でも身体化障害の程度の重い患者では、心拍知覚課題の成績低下が認められている
  • 内受容感覚の鋭敏さは、自分自身の感情を意識する過程に一定の影響を及ぼしており、情緒に関する障害例ではその傾向がより強く観察されている可能性がみえてくる
  • 内受容感覚の鋭敏さは、視覚刺激の感情価評定よりも覚醒度評定に関連しており、感情覚醒度の認知と深く関連するという立場を支持する結果を得ている
  • 身体内部で生じていることを正確に感じ取れることと、特定の刺激によって喚起された感情を、より覚醒度の高いものとして認識できることの間に密接な関係性がある
  • 心拍検出課題の成績が良い人の方が、他者のごくわずかな喜びや悲しみの表情を認識できることを示した
  • 不安感受性の高い患者や、パニック障害の患者などでは日常的に過剰なまでに身体感覚に対して注意を向けていることがわかり、ノイズに過ぎないような微細な身体状態の変化も検知している可能性が示唆される
  • 一時的な身体状態の知覚そのものよりも、いかに内受容情報に注意をむけるか、という過程こそが主観的な不安感の実現には重要な意味をもっていることをしさするであろう
  • 不安傾向が高い人が身体の内部状態に注意が向きやすいのであれば、その注意を内的状態から外敵環境に再定位しなおすことによって、不安が低減されるという予測を支持するであろう

情動を生み出す「脳・心・身体」のダイナミクス:脳画像研究と神経心理学研究からの統合理解

梅田聡 情動を生み出す「脳・心・身体」のダイナミクス:脳画像研究と神経心理学研究からの統合理解 高次脳機能研究 2016;36(2):265-270

  • 情動とは、本来、生体が生き延びるために、敵と闘ったり、敵あkら逃げたりすることによって危険を回避するうえで生じる精神機能
  • 英語による表現のほうが細分化されている
  • emotion(情動) 動きを生じさせること意味する 生体に行動を生じさせる刺激が消失すると、それに伴う心的状態は徐々によわまりやがて消失する 一過性の心的状態
  • 情動emotionと関連の深い概念としてて、気分(mood)と主観的感情(feeling)が挙げられる
  • 気分 長時間持続する状態
  • 情動障害 一過性の心的状態の障害
  • 気分障害 代表的には、うつ病双極性障害などの障害をさす。すわなち、外的には、何ら気分状態を悪化させるような強い刺激がないにもかかわらず、躁状態が持続したりする場合が気分障害にあたる
  • 主観的感情 あくまでも対象となる人が経験として感じている心的な情動状態
  • 生体が、情動を誘発する刺激を受け取ると、それが処理され、身体反応が生じる。身体に反応がおこると、それが脳に伝達され、身体の変化が連続的にモニターされるようになる。外界で生じる状況の認識と、身体の変化の認識を同時に経験することが主観的感情体験である
  • 情動に関する脳部位
  • 情動の中核部位 扁桃体視床下部帯状回前部、側坐核前頭葉眼窩部
    • 扁桃体 生体の覚醒度を高め、、危険に曝された際に、即座に回避行動がとれるような状態にするうえで、もっとも重要な役割を担っていると言える
    • 視床下部 各制度の制御と深い自律神経活動の調整を担う重要な部位であり、情動を含むさまざまな本能行動の処理に深く関与する部位
    • 帯状回前部 自律神経における交感神経活動に関与しており、生体全体を活発化させ、注意の喚起に関わる機能を担う
    • 側坐核大脳基底核に含まれる) 報酬や快楽関わりに処理に関与する部位 
    • 前頭葉眼窩部 行動の価値判断に基づいて、自律神経を介した生体の制御に関わる
  • 情動の周辺部位
  • 情動に関連の深いネットワーク 4つ
    • 1 salience network 2 mentalizing network 3 mirror neuron network 4 default mode network
    • salience network
      • 帯状回前部および島皮質前部からなるネットワーク、身体の恒常状態であるホメオスタシスから逸脱し、内臓を含む身体に変化が生じた場合に活動し、ホメオスタシスの回復を促す役割を担う
    • mentalizing network
      • 心の理論と呼ばれる、自己や他者の心の世界の推論に関するネットワーク
      • 前頭前野内側部、帯状回前部近傍、側頭頭頂接合部、上側頭溝後部などからなりたつ
    • mirror neuron network
      • 観察をもとに、それを真似ることによる学習を実現するネットワーク
      • 頭頂葉下部、運動前野腹側・前頭葉下部
    • default mode network
      • 前頭葉眼窩部、楔前部、帯状回後部など大脳皮質正中構線構造に位置する部位から成り立つ
      • 外界に特に意識的注意を向ける対象がなく、いわば静かにしている状態で、むしろ強い脳活動がみられる部位の集合体総称
      • このネットワークは、身体内部に注意が向けられることと関係があり、自身の身体状態や感情状態の認識と深く関わっている
  • 1−4のネットワークは、それぞれラージスケールネットワークと呼ばれ、それぞれ比較的特殊な認知処理に関与している。こうしたネットワークが連携的に作用し、脳全体の統合的調和が取られている
  • 情動における身体の関与
    • ジェームズランゲ説 心拍の上昇などの自律神経を介した身体反応が感情体験を生起させる 末梢起源説
    • セイリエンスネットワーク 帯状回前部および島皮質前部 カップリングして活動 身体の恒常性状態であるホメオスタシスを乱し、内臓を含む身体に大きな変化が生じた場合に活動する この2つの部位はペインマトリックスと呼ばれており、痛みの感知と関連のある部位と考えられていた
    • 帯状回前部 心的ストレスがかかるような課題に従事させると活動する傾向 自律神経における交感神経活動と深い関連
    • 島皮質 当初、本人が物理的な痛みを感じているときに活動する部位と考えられていたが、その後さまざまな角度からの研究により、物理的な刺激や慢性疼痛のような痛みだけでなく、温感覚、冷感覚、かゆみを感じたときや、呼吸が荒くなるような運動時にも活動することが明らかになった
    • さらに痛みについては、本人が物理的な痛みを感じていない状態でも、親密な関係にある他者が痛みを感じている場面をみると、島皮質が活動することが明らかにされ、いわゆる心理的な痛みに対しても島皮質が関与することが示された
    • 現在では、島皮質は内蔵を含む身体内部の状態をモニタし、異変が生じたときに、それを意識化させる機能を持つものと想定されている
    • この身体内部の感覚は「内受容感覚 interoception」と呼ばれており、島皮質は身体における異変を脳に伝え、それに対処する上で重要な役割を担う部分であると考えられている
  • 共感の分類とそれを支える脳内メカニズム
    • 共感 他者の感情状態を理解するという機能とその状態を共有する、あるいはその状態に同期する機能に分けられる
  • 心理学 認知的共感と情動的共感
  • 認知的共感 
    • 他者の心の状態を頭の中で推論し、理解する(クールな機能)
    • 比較的意図的なプロセスを含んでおり、オンオフの切り替えがある程度可能
    • トップダウン型の処理
  • 情動的共感 
    • 他者の心の状態を頭のなかで推論するだけでなく、身体反応も伴って理解する(ホットな機能)
    • スイッチをオフにすることは困難
    • ボトムアップ型の処理
  • 著者の身体で表現される共感の分類
    • 行動的共感、主観的共感、身体的共感

脳画像研究で検証する中枢神経感作病態

関口敦 脳画像研究で検証する中枢神経感作病態 心身医 2021;61:165-171

  • 心身症患者では、体性感覚や内受容感覚など末梢からの刺激に対する中枢系の過剰反応が中枢神経感作病態として評価されていると考えられる
  • 近年、ストレス関連疾患の身体症状の認知科学的な拝啓として、内受容感覚(introception)が注目されている
  • 内受容感覚とは、呼吸・心拍・腸管の動きなど身体内部の生理的な状態に対する感覚のことであり、ホメオスタシスの維持に必要な機能と考えられている
  • 内受容感覚は、脳科学や心理学の分野でも広く研究されており、内受容感覚の信号は脳の島皮質に集約され、扁桃体への投射を通じてさまざまな情動体験の首座を担うとされている
  • 内受容感覚障害(introceptive dysfunction)はさまざまなストレス関連疾患(うつ病、不安障害、身体症状症、摂食障害など)で認められており、健常レベルでも不安や身体症状との関連性も指摘されている。われわれは、中枢神経感作病態の構成概念の一つとして内受容感覚に注目している
  • 内受容感覚に敏感 心身症
  • 内受容感覚に鈍感 本来感知すべき身体症状(疲労感、低血糖、空腹感など)を適切な対処行動に結び付けられない 結果として慢性ストレス負荷が蓄積
  • 内受容感覚に対して過敏であると考えられる、過敏性腸症候群に対して、内受容感覚暴露療法を実施し、症状改善と内受容感覚の過敏さの改善が関連することを検証する

慢性疼痛患者へのマインドフルネスアプローチの事例

山本和美、中居吉英 慢性疼痛患者へのマインドフルネスアプローチの事例 ー内受容感覚の視点を交えて 心身医 2021;61:147-152

  • 内受容感覚は、身体内部の生理状態の感覚を指す概念であり(Craig 2002)、内受容感覚の感度の程度や知覚の認知の仕方は、心身の健康に寄与する大きな要因と考えられている
  • 内受容感覚を適切なものにする方法として、身体感覚をありのままに観察する心の状態を育むマインドフルネス瞑想が期待される
  • 痛み感覚とそれを増幅させている破局的な認知を識別し、適切な対処の可能性を広げる
  • 痛みの認知において、拡大視、無力感そして反芻の破局的な認知は、痛みの病態を増悪させる。
  • A氏は、「何をしていても痛い」と痛み感覚に過度に注意が偏り、「怖い」と感じるほど痛みを拡大視し、過去の治療への怒りや後悔、将来への不安、痛みに対する無力感で破局的思考が反芻されていた
  • 初回面接では、不安と強い緊張から呼吸は早く浅い状態であったため、注意を痛みから呼吸に転換させて腹式呼吸を行い、上半身の緊張が緩む感覚を体験してもらった
  • また動かすことへの不安と緊張感ですべての感覚を痛みとしてとらえがちな様子に対し、身体に注意を向けてゆっくり動かすマインドフル・ヨーガをともに行い、リラックスしたときの自然の感覚を確認した
  • 2回目では、痛みが心の状態や動作によって変化することを観察する心の余裕が生まれ、日常に呼吸やヨーガを取り入れたり、体重増に対して食事内容を変えるなど、痛みとの関わり方が変化し、痛みへの無力感から自己効力感が芽生えている
  • その後の面接では、痛みが「恐れるもの」から、やり過ぎる傾向を見極める一種の「バロメータの役割」に変化している
  • また、痛みを、落ち着いてとらえる心の状態が安定し、不安や対人ストレスなど心の状態と痛みの発言といった心身相関への気付きが生じている。
  • 面接を重ねるごとに、痛みの話題は減っていき、「痛みはあるが、普通以上の生活ができている」と受容して痛みにとらわれない生活に変化した
  • マインドフルネスと内受容感覚
  • 身体を活用したマインドフルネス瞑想は、身体内部の生理状態の感覚である内受容感覚を適切なものとする方法として期待される
  • マインドフルネスは脳科学研究の観点から、注意制御、身体知覚、情動調整、自己概念の4つの心理過程が変化すると考えられている
  • A氏には痛みへの過度の注意の偏りが認められ、破局的な認知が痛みを増幅させていた
  • 破局的な思考にとらわれず、呼吸やヨーガ、歩行の動きに伴う今ここの身体知覚に注意を向けて観察することの繰り返しにより、注意制御力が高まり痛みに対する破局的思考の反芻も減少した
  • その結果、A氏は歪んだ認知により増幅された身体知覚を、受容的にありのままに観察する落ち着きを取り戻し、身体知覚能力が高まった
  • これにより内受容感覚の正確性が増し、職場や家庭でのさまざまな状況において変化する身体知覚を的確にとらえて、心身相関の気づきから適切な対処へとつなげていった
  • また、身体知覚能力の高まりは、情動が身体に根ざしていることから、情動を適切に認識し調整する力を高めると考えられている
  • A氏は、痛みに伴う否定的感情へのとらわれが軽減したことにより、慢性的な痛みの主要な背景因子であった離婚後の生活や大きな支えであった母親の死に改めて向き合って感情を整理する機会を得た
  • そして痛みがあってもうまく付き合いながら、一人の人間として自ら新しい生き方を模索し始めた