ALSおよびsplit handについて

  • ALSおよびsplit handについて
  • #1より
  • 上肢発症型 4割 橈側優位の指の筋力低下
    • 短母指外転筋(正中神経傷害でもある)の感覚障害を伴わない傷害に第ー背側骨間筋(示指の外転)傷害をともなう場合はALSの可能性疑う
    • 第一背側骨間筋、小指外転筋 C8,尺骨神経支配の症状の解離
    • 母指球の萎縮に比して、小指球の萎縮が軽度
  • #2より
  • split hand
  • 母指側の手内筋(母指球筋および第一背側骨間筋)が萎縮するのに対し、小指側の筋(小指球筋)が比較的保たれる所見
  • 萎縮する母指球筋およびFDIと、保持される小指球筋は共通の末梢神経支配、髄節支配があると考えられている
  • #3より
  • 早期から三角筋、第一背側骨間筋、短母指外転筋が侵されやすく、一方、上腕二頭筋上腕三頭筋、小指外転筋は比較的保たれる
  • 手内筋では、橈側の母指球筋や第一背側骨間筋の萎縮が目立つのに比して、尺側の小指球筋がたもたれる split hand
  • 髄節で考えると、C5の三角筋、C8-Th1の第一背側骨間筋、Th1の短母指外転筋が侵されるのに対し、C5-6の上腕二頭筋、C7の上腕三頭筋は侵されない。つまりは病変が脊髄レベルでスキップしている
  • C8支配筋の第一背側骨間筋と小指外転筋とのあいだで解離がある
  • 手指の脱力を訴えた場合は、短母指外転筋や第一背側骨間筋と小指外転筋の解離、三角筋の挙上筋の筋力低下がALSを示唆する
  • 頚部屈筋の筋力低下もALSを示唆
  • #4 より
  • 頚椎症性筋萎縮症(Keagan型)では、三角筋上腕二頭筋が弱くなっても、短母指外転筋(APB)が弱くなることはないが、ALSでは三角筋とAPBの筋力低下が同時に存在しうる
  • APBと第一背側骨間筋(FDI)における筋萎縮・筋力低下にくらべて小指外転筋(ADM)が比較的保たれる 解離性小手筋萎縮
  • #5 より
  • 小手筋 
    • 手関節より遠位に起始と終止をもつ筋の総称
    • 母指球筋、小指球筋、虫様筋、背側および掌側骨間筋を含む
    • 髄節支配はすべてC8-Th1  正中神経か尺骨神経
    • 小手筋の萎縮が認められるかのという手の症候学は臨床的に非常に重要である
  • 萎縮を観察するのに臨床でよく用いられる小手筋は、短母指外転筋(APB),第一背側骨間筋(FDI)、小指外転筋(ADM)の3筋 すべてC8-Th1髄節支配 APBは正中神経支配、FDIとADMは尺骨神経支配
  • ALSではAPB,FDIの萎縮が目立ち、ADMが比較的保たれている split hand
  • #6より
  • APB,FDI,ADMはC8-Th1支配 とくにFDIとADMは末梢においても同じ尺骨神経支配。FDIとADMが解離して傷害されることは解剖学的には考えにくく、実際に通常は見られない
  • ALS患者ではAPB,FDIの萎縮が目立ち、ADMが比較的保たれるという、手内筋での筋萎縮の程度の解離が見られる。split hand
  • #7より
  • 母指球筋ー短母指外転筋、母指対立筋、短母指屈筋、母指内転筋の4筋からなる
    • 短母指外転筋、母指対立筋は正中神経支配
    • 短母指屈筋の浅層 正中神経支配 
    • 深層  尺骨神経支配
    • 母指内転筋 尺骨神経支配
  • 手内筋の髄節支配はC8-Th1とされており、末梢神経支配として橈骨神経支配は存在しないため、正中神経か尺骨神経のいずれかの支配である
  • 尺骨神経麻痺、平山病、C8根障害の筋萎縮の分布は酷似するが、後二者では、EDI,ADMの萎縮が高度であるのに対してAPBは相対的に保たれる。この説明としてAPBの髄節支配がTh1主体であるという説とC6-7を含むという説がある
  • ALS患者ではAPB,FDIの萎縮が目立ち、ADMが比較的保たれるという手内筋での筋萎縮の程度の解離が認められる。この現象は歴史的にsplit hadと称されてきた
  • これらの3筋はすべてC8-Th1支配であり、特にFDIとADMは同じ尺骨神経支配であるため、解剖学的にこの2筋が解離して萎縮することは説明できない
  • #8
  • split hand 母指球筋やFDIが萎縮するのに対し、小指球筋が比較的保たれる所見をさす
  • このような筋萎縮の差異が生じる理由を、解剖学観点から説明することは難しい。特にFDIとADMは、同じC8,Th1髄説支配、尺骨神経支配であるため、筋萎縮の際は通常生じにくい
  • この症候がALSに疾患特異性が高いことが、多数の研究により示されている
  • 疫学
  • #10より
  • 発症率 1-2.5人/10万人
  • 50歳代未満の発症は少なく、50歳代から発症率が上昇し、60-70歳代で最も発症率が高く、80歳代は減少傾向となる
  • 有病率は7-11人/10万 発症率は2.2人 男性の発症率は女性の1.5倍程度
  • 家族歴があるもの5%
  • 発症リスク因子 喫煙、頭部外傷
  • 2015年の多施設研究 孤発例の発症から死亡または侵襲的陽圧換気導入までの期間は、中央値で48ヶ月
  • #9より ALS 人口10万人あたり7人程度
  • #4より 40歳以降が多く、50-60歳代に発症のピーク より高齢での発症もある
  • 病態
  • #1より
  • 病態 
    • 核タンパク質であるTDP-43の異常が病態の本質 運動神経系もしくは前頭側頭葉中心に広がる
    • 後頭葉、小脳、眼球運動を司る神経や、排尿排便を司る神経系には広がりにくい
  • #3より 核蛋白質であるTAR DNA binding protein-43(TDP-43)が異常となり、細胞内に蓄積し、ある細胞を起点として神経間を広がっていくと推定される
  • #10より TDP-43が、孤発例ALSと一部の前頭側頭葉変性症(FTLD)の中枢神経系に異常に蓄積する蛋白であると同定されて以降、ALSとFTLDは、TDP-43 proteinopathy(蛋白異常症)として同一スペクトラム上にある疾患ととらえられており、TDP-43の広がりや、細胞内のふるまいによる病状進展の理解も進んできている
  • 症候
  • #10より
  • 下位運動ニューロン徴候 構音障害、筋力低下、筋萎縮
  • 上位運動ニューロン徴候 腱反射亢進、病的反射の出現
  • 舌萎縮
  • 上下肢筋萎縮の有無 体重減少の有無 split hand
  • 線維束性筋収縮の有無 手背、前腕、大腿を安静にして30秒程度観察
  • 深部腱反射の亢進、病的反射
  • #9より
  • 四肢型(上肢または下肢の麻痺)2/3
  • 球麻痺型(構音障害、嚥下麻痺) 1/3
  • 筋萎縮のパターンとして母指球筋や第一背側骨間筋が萎縮するのに対し、小指球筋が比較的保たれる split hand がALSに疾患特異性が高い所見である
  • 線維束性収縮はALSを疑う重要な所見であるが、甲状腺機能や電解質の異常によって誘発される場合や、健常者でも自覚されることがある
  • 体重減少 嚥下障害とは無関係に生じ、予後に関係するとされる
  • 球麻痺 構音障害、嚥下障害  
    • 真性球麻痺 舌の萎縮、線維束性収縮 
    • 偽性球麻痺 舌の萎縮や線維束性収縮は認めないが、発語が緩徐となり固形物より水分の嚥下障害が目立つ
  • 呼吸筋麻痺
  • 頚椎症では運動障害に加えて感覚障害も認める場合が多い
  • ALSでは前頭側頭葉型認知症を合併する事があり、人格変化、行動異常などをきたす
  • #8より C9orf72 遺伝子 ALSと前頭側頭葉型認知症の原因遺伝子の一つとして知られている
  • #4より
  • 頚部屈筋は上位頸髄レベルの筋であり、頚椎症性筋萎縮症で傷害されることは稀なため、頚部筋群(特に頚部屈筋)の筋力低下を認める場合には頚椎症ではなくALSが疑れる
  • 線維束性筋萎縮
  • #1より
  • 四肢から始まるものと球麻痺から始まるものがある
  • 上肢の遠位部もしくは近位部(肩が上がらない)から始まる 上腕二頭筋の筋力低下は初期には目立たない
  • 舌の筋萎縮、筋線維束攣縮、頚部前屈筋力低下
  • その他
  • #1より 頚椎症の手術例では、術後に悪化速度が増悪 手術は避けるべき
  • #4より 不要な手術を行うと、術後に進行が早くなる
  • #10より ALSの告知
  • 日本神経学会作成の「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013」には原則的なことが詳しく記載されているが、「どのような選択に対しても、全力でサポートするので、ともに考えて工夫していきましょう」という姿勢が大切である

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  • #1 小野寺理 整形外科領域に紛れる聡 筋萎縮性側索硬化症を見逃さないために 臨整外 2019;54(4):381-386
  • #2 澁谷和幹 Split Hand 筋萎縮性側索硬化症で認める解離性小手筋萎縮 BRAIN and NERVE 2016;68(5):501-507
  • #3 大津裕、小野寺理 ALSの早期診断は可能か Pharma Medica 2019;37(11)63-65
  • #4 東原真奈、國生雅弘 整形外科疾患と鑑別すべき神経疾患 LOCO CURE 2018;4(1):38-43
  • #5 桑原聡 筋萎縮性側索硬化症の診断と治療 脳21 2012;15(1):47-50
  • #6 桑原聡 上肢の筋萎縮性疾患へのアプローチ:解離性小手筋萎縮に注目して 末梢神経
  • #7 桑原聡 筋萎縮性側索硬化症における解離性小手筋萎縮 : Split hand 臨床脳波 2010:52(2):69-72
  • #8 澁谷和幹 特異な手内筋萎縮 Split Hand BRAIN and NERVE 2019;71(3):257-263
  • #9 和泉唯信、福島功二、沖良祐 筋萎縮性側索硬化症(ALS)を疑う神経症候とその特徴 medicina 2020;57(13):2354-2357
  • #10 林健太郎 筋萎縮性側索硬化症 Hospitalist 2021;5(1):135-142

心の問題に関連する痛みの対処法

山崎知克 心の問題に関連する痛みの対処法 チャイルドヘルス 2015;18(8):594-597

  • 総論的になりますが、身体症状症による痛みの対応方法としては症状の背景につらさや悩みがあること、つまり心身相関の存在を念頭におきます。そして可能であれば子どもの気持ちを言語化させ、言葉による表出が難しい幼児期など低年齢児であれば遊戯・絵画療法などにより感情表出をさせて、治療者と気持ちの共有を図ることが必要です
  • 痛みの表出は悩み解決の入場券のようなものなので、子供の生活状況の全体で把握しながら、症状のみに固執せず具体的な不適応感や困難感を理解することが需要です。子どものつらさを親御さんと共有した上で、具体的な問題の解決を目指していきます
  • うつに伴う痛み
  • トラウマに伴う痛み
  • 学習性疼痛
    • 子どもの問題行動における行動動機 4つ
      • 自己刺激(それをすると気持ちがよく心地いいので行おうとする)
      • 逃避欲求(その行動によりその場から逃れようとする)
      • 物的欲求(その行動をすることで物を得ようとする)
      • 注目欲求(その行動のより注目を集めようとする:子どもにとって注目されることは良い結果になります。)

高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応;各課での対応 精神科医の立場から

新里和弘 高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応;各課での対応 精神科医の立場から 老年精神医学雑誌 2016;27(10):1092-1097

  • 人は晩年になると「自らの道の果てに死を見る」(ボーヴォワール)。野心や情念は薄れるが、経済的自立がなされ健康が維持されていれば、老衰に先立つ数年は「人生で最も幸福な時期である」とこの先人は言う。ただ、この「健康が維持されて」という条件は容易いものではない
  • 壮年期、中年期を通じて病気とまったく無縁で過ごせたとしても、加齢現象と無関係でいられる人はおらず、歳をとればだれでも身体を意識せざるを得ない、その点から高齢期は心因性の身体症状がでやすい時期ともいえる
  • 著しい症状へとかたちを変えるためには精神的・肉体的にエネルギーが必要であり、高齢期にはそこまでの余力が乏しくなっているといったほうが妥当なのかもしれない。身体化障害はもともと若い人の病気で、とくに若い女性に典型的にみられた病気であった
  • そういった観点から、高齢期の心因性身体症状との関わり方は、症状と対峙しそれを消し去るというスタンスはあまり得策ではない。むしろ症状とうまく付き合い、自己コントロールできる範囲に収めることが重要ではないかと思われる。そのためには代替となる方策を見つけていく努力が必要となる
  • 認知機能が低下することはマイナスの側面だけではない。たとえば、がん性疼痛なども認知症では生理的な痛みの要素だけが残り、認知症のないがん患者よりも痛みを感じることが少ないことは知られている
  • 認知機能が低下すると比例して、身体に対する強いこだわりも薄らいでいくことは臨床上しばしば経験される。高齢者であること、認知機能が低下しつつあることを生かしたアプローチが重要であると考える

身体表現性障害(身体症状症および関連症候群)

左貫一成、山本晴義 身体表現性障害(身体症状症および関連症候群) 臨床と研究  2016;93(5):626-632

  • DSM-III 身体表現性障害 somatofrom disorder
  • DSM-V 身体症状症および関連症候群 somatic symptom disorder and related disorders
    • 身体症状性は、従来のDSM-IVの身体化障害、鑑別不能型身体表現性障害、疼痛性障害、一部の心気症を統合したもの
    • この統合は、身体症状の種類や個数によって診断名を細分化しても、結局のところ治療の基本方針が同じであれば、一つにまとめた方が実用的であるという考え方による
  • 身体症状症
    • 臨床像
      • 身体症状を繰り返し訴えて、症状を取り除くことを要求する
      • 症状を説明できるような医学的初見(診察、検査)に乏しく、その結果を説明しても患者はなかなか納得しない
      • 身体症状にとらわれていて、日常生活や社会生活に支障をきたしている
      • 心理社会的問題を認めたがらないことが多い
      • 経過は慢性かつ変動的
    • 診断
    • 「苦痛を与えている身体症状」と「身体症状に対する過度の思考、感情、行動」が主な特徴であるが、特に後者の「症状に対する過度の反応」が重視されている
      • その一方で、診断基準の中では、身体疾患の有無や病因論には触れられていない。これは、現代医学では検出不可能な身体的異常が将来的に検出可能になる可能性があることや、身体化(心理社会的問題が身体症状に影響する)のメカニズムが未解明であること、を踏まえたものと思われる
  • その他の身体症状症関連症群
  • 病気不安症
    • 従来の心気症にほぼ相当するが、1重篤な病気にかかっているという強いとらわれがあり、2身体症状はないが、あっても軽度で、3健康に関する過度の不安や行動がみられることが特徴である
    • 身体症状の訴えよりも、「重篤な病気にかかっているかもしれない」という強い囚われが主体である点で、身体症状症と区別される。そのため、身体症状を取り除くことよりも、重篤な病気に対する検査を強く要求する
  • 変換症
    • 従来の転換性障害という訳語が変更になったものである。運動障害(麻痺など)や感覚障害(視力障害など)が特徴で、症状の発症に心理的ストレス因が特定されることが多い
  • 身体症状症の治療
  • 身体症状症の意味
    • 身体症状における身体症状の本体は心理社会的問題と考えるが、その心理社会的問題と考えるが、その心理社会的問題はすぐには解決しがたいものが多く、向き合うことすら困難なものが多い。そこで、身体症状にとらわれることで、その問題と直面化することを回避できる
    • このように身体症状へのとらわれには、心理的防衛機制としての役割があるため、症状をすぐには手放せないのである
    • こう考えると、治療に難渋することも、薬物療法が根本的な解決策にはならないことも納得がいく
    • それでは、いつになれば、症状を手放せるのか。それは、患者自身が成長して、回避していた問題に向き合って対処できるようになったときである。ここでいう成長とは、精神面での成長であり、具体的には、ストレス対処能力や人間関係のスキルなどの向上のことである
    • これらの成長は一朝一夕に成せるものではないので、ある程度の長い期間が必要である。こう考えると、身体症状症の患者の身体症状へのとらわれが根強く、なかなか改善しなくても、我々医療者は焦らず患者の成長をサポートしながら見守れるのではないかと思う
    • 通常臨床医は、「健康上の問題点や症状を医師が解決する」という医療モデルに基づいて診療に臨むと思われるが、精神疾患においては、薬物療法は医療モデルに基づくが、薬物療法以外の治療は「問題点や症状を患者自身が解決できるように成長することを医療者がサポートする」という成長モデルに基づいている
  • 治療方針・方針の共有
    • 共感とねぎらい、発症因子、増悪因子、改善因子、対処方法など
    • 生育歴、生活歴、家族関係、友人関係
    • 治療の目標や方法
    • 「これまで他の病院でいろいろな治療をしていて、それでも症状が依然続いていることから、ここでの治療もすぐに効果が出ないかもしれにせん。しかし、これまでの検査結果から、癌などのような怖い病気ではないことはわかっているので、いきなり症状をなくすことを目指すのではなく、まずその手前の段階として、症状とつきあうことを目標にしましょう。いろんな対処法で付き合っていきながら、徐々に症状が軽くなっていくことを待つのです。症状と付き合う方法を一緒に練習していきましょう」
    • 「症状があっても、やり過ごせるようになる」ことを当面の目標にする
    • つまりは「症状があっても、症状と付き合いながら、その時にできることをする」という森田療法的アプローチである
  • その他注意点
    • 陰性感情への対処である。医師も人間である以上、時には患者に対して陰性感情を抱くこともある。しかし、陰性感情を抱いたまま患者に接することは治療の妨げになることもある。しかし、陰性感情を抱いたまま患者に接することは治療の妨げになる。私の場合は、強い陰性感情を抱いた場合は、同僚の医師、臨床心理士、看護師に相談するようにしている。言葉にすることで陰性感情が和らぐこともあるし、別の視点からのアドバイスをもらえることもあり、相談することは有用である

高齢者の心因 神経症から身体症状症(DSM-5)へ

木村宏之 高齢者の心因 神経症から身体症状症(DSM-5)へ 老年精神医学雑誌 2016;27(10):1037-1045

  • 医療者が説明する「心因」は具体的に想定されたり、対策が講じられたりすることは少なく、「よくわからない患者」というレッテル貼りにつながりかねない
  • 歴史的概観
  • 紀元前 ヒポクラテス全集 婦人病250頁 子宮の窒息というヒステリーの記載がある
  • 19世紀 ヒステリー(hysteria)やヒポコンドリー(hypochondriasis)は原因不明の疾患として別々に扱われていた
  • 1877 Cullen W(イギリス) 生理学では説明がつかない奇妙な患者群を包括しようとして、神経性疾患(neurosis(昏睡 comata, 脱力 adynamiae, けいれん smasmi, 狂気 vesaniae)という概念を初めて提唱し、これが神経症の始まりとされる
  • 当時の「説明がつかない」が意味したものは、炎症性/消耗性/局所性以外の神経性疾患であり、この時点では、変性疾患、精神病性障害気分障害なども含まれていた
  • その後、神経症は、身体(脳)の要因は除外されていき、心理的疾患という色彩を強くしてく。この過程で、「神経症」は「医学で説明のつかない」ことから「患者の心理的要因によって生じること」へと意味を変えていった
  • Freud S ヒステリー患者の臨床研究をきっかけに精神分析を確立していった。そして、神経症を、無意識的葛藤とは無関係で現実生活による現実神経症(actual neurosis)と無意識的葛藤に基づく精神神経症(psychoneurosis)に分類した。そして、神経症症状は、本能衝動とそれを禁止する超自我との間で生じる無意識的葛藤に基づいて生じるとした
  • 1884 ゾンマー(Sommer R) 心因の始まりであr「心因症」を提示した
  • いずれにしても「説明のつかない」患者は、ヒステリーから神経症に抱合され、心因という茫漠とした輪郭のはっきりしない原因によって生じると考えられた
  • 1952 軍部の主導でDSM-Iが出版 力動精神医学の考え方が取り入られた
  • 1968 DSM-II 神経症は引き続き用いられ、ヒステリーは、解離ヒステリーと転換ヒステリーに分割されて診断された。それぞれエキスパートの神経症概念は多様で独自的となってしまい、臨床家間で診断が一致しないという混乱した状況に陥っていた
  • 1980 DSM-III アメリカ精神医学会 症候記述的を中心とした操作的診断基準を採用
    • 診断基準から神経症という用語は姿を消し、転換ヒステリーは、身体表現性障害という診断名に変更された
    • 身体表現性障害の診断には、身体疾患の除外が求められ、さらに、身体症状は心理的葛藤により起こり、明確な象徴的意味を有し、二次的社会的利得が必要になるなど、力動的な色彩は残された
  • 1987 DSM-III
    • 身体症状は、明らかな心理社会的ストレッサーと症状の出現あるいは悪化の時間的関係を認めればよくなった。このように力動的な色彩は段階的に薄まり、「心因」はほぼ排除された
  • 2000 DSM-IV-TR
    • 多軸診断 患者を包括的に理解
    • 実際の臨床場面では、高齢者の多彩な身体愁訴を身体疾患に基づかないと判断することは非常に難しいという問題がのこった
  • 2013 DSM-5
    • 身体表現性障害は身体症状症という診断名になった
    • そして「(変換症は除き)身体症状に対して医学的説明ができない」ことが、定義から除外された
    • 背景には、医学的説明ができないとう決定の信頼性に限界があり、また医学的説明ができないことよりも「苦痛を伴う身体症状とそれに対する異常な思考・感情・行動」に主眼がおかれたことがる
    • さらに、医学的説明ができないことが強調されることによって、患者が診断に屈辱感を持ちやすいという弊害もあった、こうした背景もあり、DSM-5では多軸診断は中止された
  • 「心因」は、「説明のつかない」神経症の原因であったが、そこから「心理的要因」という色彩をより強めた。そして、「心理的要因」そのものの評価は、精神力動的な「主観的理解」から客観的評価コードによる「客観的理解」へとその軸足を移しつつある

身体症状症の対人関係療法における心理教育

近藤真前 身体症状症の対人関係療法における心理教育 心身医 2016;56:1187-1191

  • 対人関係療法 IPT
  • IPTは精神疾患の発症・維持には遺伝的・環境的要因などの他因子が関連するとの立場をとるが、そのうち対人関係に注目する
  • 特に配偶者や親、恋人といった重要な他者との対人関係が疾患の症状に影響を与え、逆に症状も対人関係に影響を与えるため、現在の対人関係に取り組んで症状が改善することを目指す
  • 対人関係領域とは、悲哀(重要な他者の死)、不和(重要な他者との役割期待の不一致)、変化(対人関係上の役割の変化)、欠如(対人関係の不在)である
  • IPTで言う役割とは、他者に「ーーして欲しい」と期待している対人関係上の役割のことであり、その期待を役割期待と呼ぶ
  • 重要な他者とのコミュニケーションと役割期待に焦点化して面接を進め、Ptは実生活の対人関係の変容に取り組んだ

疼痛に対するリエゾンサービス

木村元紀、小林未果、松島英介 疼痛に対するリエゾンサービス 臨床精神医学 2017;46(19)43-47

  • 疼痛性障害
    • 身体に異常があるということにとらわれるために、身体科をはじめに受診し、疼痛の原因検索を求める。しかし、検査ではほとんど異常がみつからず、対症療法として処方される薬剤も多くの症例で効果がないく、対応に困った結果として精神科に紹介されることも多い
    • このような経過により、治療のはじまりにおいては精神科の医師に対する不信感を患者が抱くことも多い、疼痛性障害の患者は、疼痛の原因を心因と認めることが困難で、身体因にとらわれるために、精神科医が精神療法的な介入を試行錯誤しても、患者から治療の終結を求められることもある
  • 患者は治療者が思っているよりも、痛みをはるかに苦痛を感じており、それを理解した上でなければ、治療関係を気づいていくことは困難である
  • 積極的傾聴という言葉もよく使われるが、まずは患者の訴えをよく聞くことが第一である。聞く時間ではなく、聞き手の態度など質が大切である
  • 検査結果の異常や明らかな身体疾患がなくても、患者が訴える痛みは存在していることを保証し、コンサルテーションを受けた精神科医が必要と考えたら、主科の医師と相談し、適宜検査をしたり、たかにさらに依頼することもけんとうする。
  • そして、疼痛性障害と診断したら、患者に病名を伝え、身体的にはこれ以上の検査や治療は必要でないことも説明する。
  • 患者が体験している痛みと診断との解離に、患者は戸惑いや時には怒りを感じることがあるが、そのような訴えもさらに傾聴していく。
  • 一方で、治療の枠組みも意識していくことが必要である。入院中であれが、病棟のスタッフを通して頻回の診察を求めることもよくあることであるが、治療者が振り回されて陰性感情をおこすことを防ぐ目的だけでなく、患者自身が自身の痛みと向き合い、感情をコントロールしていくにも必要な対応である

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