高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応;各課での対応 精神科医の立場から

新里和弘 高齢期のいわゆる心因性疾患とその対応;各課での対応 精神科医の立場から 老年精神医学雑誌 2016;27(10):1092-1097

  • 人は晩年になると「自らの道の果てに死を見る」(ボーヴォワール)。野心や情念は薄れるが、経済的自立がなされ健康が維持されていれば、老衰に先立つ数年は「人生で最も幸福な時期である」とこの先人は言う。ただ、この「健康が維持されて」という条件は容易いものではない
  • 壮年期、中年期を通じて病気とまったく無縁で過ごせたとしても、加齢現象と無関係でいられる人はおらず、歳をとればだれでも身体を意識せざるを得ない、その点から高齢期は心因性の身体症状がでやすい時期ともいえる
  • 著しい症状へとかたちを変えるためには精神的・肉体的にエネルギーが必要であり、高齢期にはそこまでの余力が乏しくなっているといったほうが妥当なのかもしれない。身体化障害はもともと若い人の病気で、とくに若い女性に典型的にみられた病気であった
  • そういった観点から、高齢期の心因性身体症状との関わり方は、症状と対峙しそれを消し去るというスタンスはあまり得策ではない。むしろ症状とうまく付き合い、自己コントロールできる範囲に収めることが重要ではないかと思われる。そのためには代替となる方策を見つけていく努力が必要となる
  • 認知機能が低下することはマイナスの側面だけではない。たとえば、がん性疼痛なども認知症では生理的な痛みの要素だけが残り、認知症のないがん患者よりも痛みを感じることが少ないことは知られている
  • 認知機能が低下すると比例して、身体に対する強いこだわりも薄らいでいくことは臨床上しばしば経験される。高齢者であること、認知機能が低下しつつあることを生かしたアプローチが重要であると考える