ALSおよびsplit handについて

  • ALSおよびsplit handについて
  • #1より
  • 上肢発症型 4割 橈側優位の指の筋力低下
    • 短母指外転筋(正中神経傷害でもある)の感覚障害を伴わない傷害に第ー背側骨間筋(示指の外転)傷害をともなう場合はALSの可能性疑う
    • 第一背側骨間筋、小指外転筋 C8,尺骨神経支配の症状の解離
    • 母指球の萎縮に比して、小指球の萎縮が軽度
  • #2より
  • split hand
  • 母指側の手内筋(母指球筋および第一背側骨間筋)が萎縮するのに対し、小指側の筋(小指球筋)が比較的保たれる所見
  • 萎縮する母指球筋およびFDIと、保持される小指球筋は共通の末梢神経支配、髄節支配があると考えられている
  • #3より
  • 早期から三角筋、第一背側骨間筋、短母指外転筋が侵されやすく、一方、上腕二頭筋上腕三頭筋、小指外転筋は比較的保たれる
  • 手内筋では、橈側の母指球筋や第一背側骨間筋の萎縮が目立つのに比して、尺側の小指球筋がたもたれる split hand
  • 髄節で考えると、C5の三角筋、C8-Th1の第一背側骨間筋、Th1の短母指外転筋が侵されるのに対し、C5-6の上腕二頭筋、C7の上腕三頭筋は侵されない。つまりは病変が脊髄レベルでスキップしている
  • C8支配筋の第一背側骨間筋と小指外転筋とのあいだで解離がある
  • 手指の脱力を訴えた場合は、短母指外転筋や第一背側骨間筋と小指外転筋の解離、三角筋の挙上筋の筋力低下がALSを示唆する
  • 頚部屈筋の筋力低下もALSを示唆
  • #4 より
  • 頚椎症性筋萎縮症(Keagan型)では、三角筋上腕二頭筋が弱くなっても、短母指外転筋(APB)が弱くなることはないが、ALSでは三角筋とAPBの筋力低下が同時に存在しうる
  • APBと第一背側骨間筋(FDI)における筋萎縮・筋力低下にくらべて小指外転筋(ADM)が比較的保たれる 解離性小手筋萎縮
  • #5 より
  • 小手筋 
    • 手関節より遠位に起始と終止をもつ筋の総称
    • 母指球筋、小指球筋、虫様筋、背側および掌側骨間筋を含む
    • 髄節支配はすべてC8-Th1  正中神経か尺骨神経
    • 小手筋の萎縮が認められるかのという手の症候学は臨床的に非常に重要である
  • 萎縮を観察するのに臨床でよく用いられる小手筋は、短母指外転筋(APB),第一背側骨間筋(FDI)、小指外転筋(ADM)の3筋 すべてC8-Th1髄節支配 APBは正中神経支配、FDIとADMは尺骨神経支配
  • ALSではAPB,FDIの萎縮が目立ち、ADMが比較的保たれている split hand
  • #6より
  • APB,FDI,ADMはC8-Th1支配 とくにFDIとADMは末梢においても同じ尺骨神経支配。FDIとADMが解離して傷害されることは解剖学的には考えにくく、実際に通常は見られない
  • ALS患者ではAPB,FDIの萎縮が目立ち、ADMが比較的保たれるという、手内筋での筋萎縮の程度の解離が見られる。split hand
  • #7より
  • 母指球筋ー短母指外転筋、母指対立筋、短母指屈筋、母指内転筋の4筋からなる
    • 短母指外転筋、母指対立筋は正中神経支配
    • 短母指屈筋の浅層 正中神経支配 
    • 深層  尺骨神経支配
    • 母指内転筋 尺骨神経支配
  • 手内筋の髄節支配はC8-Th1とされており、末梢神経支配として橈骨神経支配は存在しないため、正中神経か尺骨神経のいずれかの支配である
  • 尺骨神経麻痺、平山病、C8根障害の筋萎縮の分布は酷似するが、後二者では、EDI,ADMの萎縮が高度であるのに対してAPBは相対的に保たれる。この説明としてAPBの髄節支配がTh1主体であるという説とC6-7を含むという説がある
  • ALS患者ではAPB,FDIの萎縮が目立ち、ADMが比較的保たれるという手内筋での筋萎縮の程度の解離が認められる。この現象は歴史的にsplit hadと称されてきた
  • これらの3筋はすべてC8-Th1支配であり、特にFDIとADMは同じ尺骨神経支配であるため、解剖学的にこの2筋が解離して萎縮することは説明できない
  • #8
  • split hand 母指球筋やFDIが萎縮するのに対し、小指球筋が比較的保たれる所見をさす
  • このような筋萎縮の差異が生じる理由を、解剖学観点から説明することは難しい。特にFDIとADMは、同じC8,Th1髄説支配、尺骨神経支配であるため、筋萎縮の際は通常生じにくい
  • この症候がALSに疾患特異性が高いことが、多数の研究により示されている
  • 疫学
  • #10より
  • 発症率 1-2.5人/10万人
  • 50歳代未満の発症は少なく、50歳代から発症率が上昇し、60-70歳代で最も発症率が高く、80歳代は減少傾向となる
  • 有病率は7-11人/10万 発症率は2.2人 男性の発症率は女性の1.5倍程度
  • 家族歴があるもの5%
  • 発症リスク因子 喫煙、頭部外傷
  • 2015年の多施設研究 孤発例の発症から死亡または侵襲的陽圧換気導入までの期間は、中央値で48ヶ月
  • #9より ALS 人口10万人あたり7人程度
  • #4より 40歳以降が多く、50-60歳代に発症のピーク より高齢での発症もある
  • 病態
  • #1より
  • 病態 
    • 核タンパク質であるTDP-43の異常が病態の本質 運動神経系もしくは前頭側頭葉中心に広がる
    • 後頭葉、小脳、眼球運動を司る神経や、排尿排便を司る神経系には広がりにくい
  • #3より 核蛋白質であるTAR DNA binding protein-43(TDP-43)が異常となり、細胞内に蓄積し、ある細胞を起点として神経間を広がっていくと推定される
  • #10より TDP-43が、孤発例ALSと一部の前頭側頭葉変性症(FTLD)の中枢神経系に異常に蓄積する蛋白であると同定されて以降、ALSとFTLDは、TDP-43 proteinopathy(蛋白異常症)として同一スペクトラム上にある疾患ととらえられており、TDP-43の広がりや、細胞内のふるまいによる病状進展の理解も進んできている
  • 症候
  • #10より
  • 下位運動ニューロン徴候 構音障害、筋力低下、筋萎縮
  • 上位運動ニューロン徴候 腱反射亢進、病的反射の出現
  • 舌萎縮
  • 上下肢筋萎縮の有無 体重減少の有無 split hand
  • 線維束性筋収縮の有無 手背、前腕、大腿を安静にして30秒程度観察
  • 深部腱反射の亢進、病的反射
  • #9より
  • 四肢型(上肢または下肢の麻痺)2/3
  • 球麻痺型(構音障害、嚥下麻痺) 1/3
  • 筋萎縮のパターンとして母指球筋や第一背側骨間筋が萎縮するのに対し、小指球筋が比較的保たれる split hand がALSに疾患特異性が高い所見である
  • 線維束性収縮はALSを疑う重要な所見であるが、甲状腺機能や電解質の異常によって誘発される場合や、健常者でも自覚されることがある
  • 体重減少 嚥下障害とは無関係に生じ、予後に関係するとされる
  • 球麻痺 構音障害、嚥下障害  
    • 真性球麻痺 舌の萎縮、線維束性収縮 
    • 偽性球麻痺 舌の萎縮や線維束性収縮は認めないが、発語が緩徐となり固形物より水分の嚥下障害が目立つ
  • 呼吸筋麻痺
  • 頚椎症では運動障害に加えて感覚障害も認める場合が多い
  • ALSでは前頭側頭葉型認知症を合併する事があり、人格変化、行動異常などをきたす
  • #8より C9orf72 遺伝子 ALSと前頭側頭葉型認知症の原因遺伝子の一つとして知られている
  • #4より
  • 頚部屈筋は上位頸髄レベルの筋であり、頚椎症性筋萎縮症で傷害されることは稀なため、頚部筋群(特に頚部屈筋)の筋力低下を認める場合には頚椎症ではなくALSが疑れる
  • 線維束性筋萎縮
  • #1より
  • 四肢から始まるものと球麻痺から始まるものがある
  • 上肢の遠位部もしくは近位部(肩が上がらない)から始まる 上腕二頭筋の筋力低下は初期には目立たない
  • 舌の筋萎縮、筋線維束攣縮、頚部前屈筋力低下
  • その他
  • #1より 頚椎症の手術例では、術後に悪化速度が増悪 手術は避けるべき
  • #4より 不要な手術を行うと、術後に進行が早くなる
  • #10より ALSの告知
  • 日本神経学会作成の「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013」には原則的なことが詳しく記載されているが、「どのような選択に対しても、全力でサポートするので、ともに考えて工夫していきましょう」という姿勢が大切である

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  • #1 小野寺理 整形外科領域に紛れる聡 筋萎縮性側索硬化症を見逃さないために 臨整外 2019;54(4):381-386
  • #2 澁谷和幹 Split Hand 筋萎縮性側索硬化症で認める解離性小手筋萎縮 BRAIN and NERVE 2016;68(5):501-507
  • #3 大津裕、小野寺理 ALSの早期診断は可能か Pharma Medica 2019;37(11)63-65
  • #4 東原真奈、國生雅弘 整形外科疾患と鑑別すべき神経疾患 LOCO CURE 2018;4(1):38-43
  • #5 桑原聡 筋萎縮性側索硬化症の診断と治療 脳21 2012;15(1):47-50
  • #6 桑原聡 上肢の筋萎縮性疾患へのアプローチ:解離性小手筋萎縮に注目して 末梢神経
  • #7 桑原聡 筋萎縮性側索硬化症における解離性小手筋萎縮 : Split hand 臨床脳波 2010:52(2):69-72
  • #8 澁谷和幹 特異な手内筋萎縮 Split Hand BRAIN and NERVE 2019;71(3):257-263
  • #9 和泉唯信、福島功二、沖良祐 筋萎縮性側索硬化症(ALS)を疑う神経症候とその特徴 medicina 2020;57(13):2354-2357
  • #10 林健太郎 筋萎縮性側索硬化症 Hospitalist 2021;5(1):135-142