中井吉英、阿部徹也 心療内科よりみた慢性疼痛と今後の課題 科学 2006;76:720-722

  • 慢性疼痛は’total pain’としての様相を呈する。単に生物学的要因のみならず、心理的要因、社会的・環境的要因、行動的要因、患者によってはスピリチュアルな要因が関係し合いながら病態を形成する。とくに、行動的要因は慢性疼痛の診断や治療に際しては重要である
  • 慢性疼痛患者では自律神経機能異常やうつ状態をしばしばともなう
  • 慢性期における腰痛の場合、器質性(腰椎椎間板ヘルニアなど)と非器質系(筋膜性腰痛)の腰痛患者を区別することがなかった。
  • 痛みの慢性化と情動との関係について考える場合に、不安ー回避モデル(fear-avoidance model)が参考になる
  • Sieben 初回発症の急性腰痛患者のうち、3ヶ月以内に活動制限をきたしていない44名の患者の対象に調査をおこなった。その結果、初診後2週間で不安が次第に増強していた群において、12ヵ月後の障害の強さに相関がみられた
  • Picavet 痛みへの悲観的にな感情や身体を動かすことへの不安が56ヶ月後の腰痛の程度や障害の予測因子になることを報告している
  • Pincus 腰背部痛の慢性化に関与する心理的要因として、心理的苦悩、抑うつ気分、身体化をあげている。また、急性腰痛患者の慢性化の予測因子として、腰痛の既往と痛みの強度を重視し、痛みへの不安感は予測因子にならなかったとしている。
  • George 不安ー回避思考が強い患者ほど特殊治療(不安ー回避モデルにもとづいた教育と段階的に負荷をかけ理学療法を行う)が有効であり、同思考の乏しい患者は標準治療が有効であった。この結果は、患者の心理状態を把握していなければ、有効な治療プログラムを選択できないことを示唆。
  • 慢性疼痛へのアプローチの今後の課題は、予測因子の研究と慢性疼痛に陥らせないための予防的アプローチである。残念ながら慢性疼痛に陥った患者に対しては、ペインセンターなどの学際的、包括的アプローチが可能な医療システムが確立が必要である