疼痛性障害に対する森田療法

平林万紀彦 疼痛性障害に対する森田療法 心身医 2014;54(4):339-345

  • 痛みが長引く要因 3つ
    • 疾患そのものが難治性である場合
    • 診断を誤ったり、治療手段が限定されるなど医療側の問題があり有用な治療を提供できない場合
    • 患者の性格の問題や精神疾患の合併または訴訟中など、患者側に痛みが遷延化する要因がある場合
  • なかなか改善しない痛みと上手に付き合うことはできないものかと感じたことが、森田療法を学ぶきっかけとなった
  • 疼痛性傷害
    • DSM-V 医学的に説明がつかない疼痛に対し非適応的な施行が生じる“身体症状傷害(試訳)”として紹介している。この病態は、厳密にいえば急性疼痛や癌性疼痛においても生じるが一般的には非癌性慢性疼痛を指すことが多い。その原因は身体因と心因が複雑にからみあったものであり、どちらが原因かを厳密に区別することは臨床的に意味をもたない。この病像を一言で表現するならば、“痛みに支配され、自分自身の生活を見失い苦しみに生きる樣”と換言できるのではないか
  • 疼痛性傷害患者は、「痛みはあってはならないもの」と痛みを敵対視し、痛みに負けじと痛くても自らの身体負荷をかけてしまうことが多く、これは慢性的な筋肉の緊張という筋肉性の問題を引き起こす。また、痛みを過大に恐れ不安を強める傾向があることから、疼痛性障害に関連が深い認知様式として強迫性があるのではないかと筆者は考えている
  • 疼痛性障害に対する森田療法の治療目標は”自分の生活を犠牲にしても、なにがなんでも痛みを治そうとする”スタイルから”自らのとらわれや生き方の不自然さを知り、自ら修正し、痛みがありながらも生き生きと生活する”スタイルに転換することである
  • 治療初期 患者にとって痛みの原因を尊重した上で痛みのとらわれを明確にする
    • 「痛みを過剰に恐れると痛みに注意がむきやすくなり、感覚が研ぎ澄まされ、痛みが強くなる。痛みが強くなるのでますます注意が向くという悪循環が起こる。この状態は筋肉の緊張も招きやすく、筋肉のこりが生じると、さらに痛みが強くなり注意がむきやすくなるといったこころと身体の悪循環にもつながる」ことを説明し、「あなたは痛みはあってはならないものと考え、なんとかしようと多くの時間と精力を注いでいるが、実際は思い通りに痛みが治らないため、かえって苦しくなっているのではないか」と問いかけ、とらわれへの自覚を促していく
  • 治療中期 患者の不自然な生活パターンを取り上げ、過剰を削り、臨機応変な態度を促す
  • 治療後期 一歩踏み込むことで押し寄せる危機を乗り越えられるように支持する
    • ”痛みに挑む態度”を諦め、”痛みに応じた行動”ができるようになったところで、もう一方踏み込んでいく。まずは「痛くても今でもできていることを丁寧にやる」「痛みがあるからといって諦めていたこともできそうなものから恐る恐る手をだしてみる」など目的本位に1日1日を大切に生きていくことを促す。ここで生活とのかかわりが深まり、避けてきた課題に徐々に直面していくことになるため、危機が繰り返し押し寄せる
    • 治療者はこの危機のもつ肯定的な側面を強調し危機を乗り越えられるように支持し、患者は小さな成功体験を積み徐々に自信がつき、活き活きとした生活を取り戻していく。ただし、これまでの自分の生活スタイルを修正していくことは難しいと保証した上で、180度の修正でなくほんのすこしの修正で十分であると伝える