- 人生早期の母親への依存関係は、その後の対人交流に多大な影響を与える。疼痛性障害患者では疼痛を訴え行動(疼痛行動)が主要な問題となることがあり、そのような症例では生育歴上母親との葛藤により満たされなかった強い依存欲求が潜在し、現在の行動様式に影響している背景が考えられるが、その分析に関する報告はほとんどない
- 病院では依存欲求の対象が看護婦に向けられ、疼痛時のみ患者の訴えを傾聴、受容、共感すると、実際の家庭環境で依存欲求が満たされていない症例では、平常時に得られなかった心理的依存が症状時のみ可能となることから、疼痛行動の頻度や程度を増大させ難治化の因子となる
- 治療
- 散歩を週5回定期的に行い、認知行動療法的アプローチを行った。散歩中の取り決めとして、痛みに関する会話はしないことにした。
- 散歩を通し、医師や看護婦と痛みを介さずに会話できたという経験から、対人交流が増不得手であるという思い込みから脱却でき、患者は対人交流に自信がもてるようになり、肯定的んあ自己評価が生まれた
- 家族間で痛みを介さない良好な対人交流を目指すことが重要であるという心理教育的アプローチを追加
- 両親からの愛情を渇望している感情への洞察が得られ、痛みと依存欲求への気付きがもたらされた。
- 患者の実存的苦痛にはなるべく情緒的に受容、共感、傾聴し、依存欲求を治療的に有効に利用した看護婦や医師との散歩による肯定的関わりが治療の転機になった
- 看護教育において疼痛性障害患者の看護はあまり知られておらず、Funkらは、「看護の教科書では短時間の障害によって生じる痛みに対する行動と長期に及ぶ痛みに対する行動とを区別していないものがほとんである」と述べている
- 疼痛性障害の場合、疼痛行動そのものが重要な病態であり、その頻度や程度を減らす工夫が治療として重要である。疼痛性障害における看護としては疼痛行動を減らすこと、疼痛行動を必要とする背景である依存欲求を適応的な行動で満たす工夫をするという行動療法的アプローチが重要であるが、その臨床報告はほとんどない
- 本稿では、その臨床の実際を報告し、痛みを話題とせず散歩していて、患者の「私は嫌われている」ちおう誤った認知を肯定的、情緒的な関わりで修正し、日常生活行動の拡大をもたらし、社会適応に必要な良好な対人交流を促進することになった