佐貫一成、山本晴義 身体表現性障害 臨床と研究 2016;93(5):626-632
- 身体表現障害から身体症状症への改変
- 身体症状症の治療
- 身体症状症に特異的に確立された有効な治療法は現時点で存在せず、治療に難渋することが多い。だからと言って、治療者が「どうにもならない」などと早急に投げ出すようなことはしてはいけない。諦めず、かつ焦らずに、気長に患者と付き合っていくことが大切である。そのように医師が患者と気長に付き合おうとする姿勢が、患者が自身の症状と気長付き合う姿勢に反映されていくと感じている
- 身体症状症における身体症状の本隊は心理社会的問題と考えるが、その心理社会的問題はすぐには解決しがたいものが多く、向き合うことすら困難がものが多い。そこで、身体症状にとらわれることで、その問題と直面することを回避できる。このように、身体症状へのとらわれには、心理的防衛機制としての役割があるため、症状をすぐには手放せないのである。こう考えると、治療に難渋することも、薬物療法が根本的な解決策にはならないことも納得がいく
- では、いつになれば、症状を手放せるのか。それは、患者自身が成長して、回避していた問題に向き合って対処出来るようになったときである。
- ここでいう成長とは、ストレス対処能力や人間関係のスキルの向上
- 通常、臨床医は「健康上の問題点や症状を医師が解決する」という医療モデルに基づいて診療に臨むと思われるが、精神疾患においては、薬物療法は医療モデルに基づくが、薬物療法以外の治療は「問題点や症状を患者自身が解決できるように成長することを医療者がサポートする」という成長モデルにもとづいている。
- 治療目標・方針の共有
- 「ストレスが体調に影響することもありますから、話せる範囲で構いませんので、生活環境(家庭、職場、友人など)について教えてください。その中に治療のヒントが隠れているかもしれません」などと説明して、生育歴、生活歴、家族関係、友人関係などについても情報収集する
- たいていの患者はいきなり「症状を取り去る」ことを要求するが、それは高い山の登山でいきなり山頂を目指すことと同じで現実的ではない。そこで具体的には、「これまでの他の病院でいろいろと治療して、それでも症状がい以前続いていることから、個々での治療もすぐには効果が出ないかもしれません。しかし、これまでの検査結果から、癌などのような怖い病気ではないことはわかっているので、いきなり症状をなくすことを目指すのではなく、まずその手前の段階として、症状と付き合うことを目標としましょう。いろんな対処法で付き合っていきながら、徐々に症状が軽くなっていくことを待つのです。症状を付き合う方法を一緒に練習していきましょう。」などと説明し、「症状があっても、やり過ごせるようになる」ことを当面の目標にする。つまりは「症状があっても、症状と付き合いながら、その時にできることをする」という森田療法的アプローチである
- 症状への対処法の実際
- 症状をやり過ごすことに少しづつ自信をもってもらい、やがては、「症状が出てきても、やり過ごせるし、そんなに怖がらなくていい」というように症状に対する考えかたが変わることを期待する。そして、診察の中で症状の話題が徐々に減少し、症状以外の話題がでてきたり、「症状を気にしない時間が増えてきた」などと話すようになれば、診断基準Bにある「身体症状へのとらわれ」と「過度の反応(感情、思考、行動)」を和らげられており、治療は軌道にのってうまくいっていると考えて良い。
- その他の注意点
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