山下哲、成田年 非視床性疼痛機構における慢性疼痛関連可塑性 前帯状回 Bone Joint Nerve 2012;2(2):253-258
- 脊髄視床路 外側 疼痛閾値そのものに関与 内側 痛みの不快な感覚の誘発に関係
- 前帯状回は、扁桃体と密接な双方向の線維連絡があることから、情動および情動が関与する行動に関連が強い部位とされる。
- 後帯状回は、海馬傍回避室の線維連絡があり、空間認知や記憶などに関与しているとされている
- 前帯状回吻腹側部は情動領域、前帯状回背側部は認知領域、後帯状回吻側/中間部は空間認知領域、脳梁膨大後方部は記憶領域とされている
- 前帯状回情動領域の活動は、自律神経系、内分泌系の制御に関与し、また、情動に関する生体の内外からの情報を評価、学習し、行動として情動反応を制御している可能性が示唆されている
- 認知領域は、競合情報またはエラー情報をモニタし、行動開始前の段階で、正しい行動を行うために行動の必要性や正しい行動を選択する、情動認知過程に深く関わっている。
- 帯状回の電気刺激による活性化や血流増加が、間接的に中脳水道周囲灰白質(PAG)を起始核とする下行性疼痛抑制系を活性化し鎮痛作用を生じることが推測される
- 帯状回へ入力する痛みの上行性経路のうち、内側系経路は、痛み刺激の部位・強度を検出するのでなく、慢性的な疼痛に対して防御的に感情を制御しているものと考えられ、この感情の制御が破綻すれば体得難い苦痛、不安、うつが生じることになると考えられる。
- 帯状回領域において、神経障害性疼痛により活性化したアストロサイトはシナプス伝達を変化させ、神経伝達効率に影響を与えている可能性が考えられる
- 痛みの慢性化に関わる情報伝達には、グルタミン酸受容体のなかでもNMDA受容体の活性化が大きく関与している
- 神経障害性疼痛による痛覚過敏状態下では、情動的側面を担う帯状回領域において、グルタミン酸神経系の情報伝達の亢進が引き起こされている可能性が示唆された。また、これらは、痛みの量的・質的変化に関わるシナプス伝達効率などの可塑的変化を引き起こしているものと考えられる
- 神経障害性疼痛により認められる睡眠障害やこうしたベンゾジアゾピン系薬物の効力低下は、細胞外GABAの低下に起因する可能性が考えられる
- 神経障害性疼痛下の帯状回領域におけるグルタミン酸の増加が、アストロサイトを刺激し、その結果GAT-3の細胞膜移行を誘導して、細胞外GABA濃度の低下を引き起こしている可能性が示唆された。これらの結果から、神経障害性疼痛により抑制性GABA神経系の伝達効率が低下し、睡眠障害およびベンゾジアゾ系薬物の作用減弱が誘発される可能性が推察される