- Bonica 慢性疼痛の定義 急性疾患の通常の経過あるいは外傷の治癒に相当する期間を一ヶ月以上超えて持続するか、継続する痛みの原因となる慢性の病理プロセスと一体となっている疼痛、もしくは数ヶ月から数年の間隔で反復する疼痛
- 国際疼痛学会痛みの定義 組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか、このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動性体験である
- 神経回路の混線という観点で、痛み、認知、情動、自律神経に関する混線の起こっている接触点となるのが、近年飛躍的に注目を集めている前部帯状回や島皮質という脳皮質である
- 帯状回は、脳梁を前方、上方、後方から取り囲むように位置する脳回であり、Parez回路として知られる海馬―乳頭体―視床前核−帯状回―海馬に含まれ、情動に関係する大脳辺縁系を構成している
- 帯状回の4つの領域
- 情動領域、認知領域、記憶領域、空間認知領域
- 痛み体験に伴う自律神経反応、感情、注意、言語が、帯状回や島皮質といった部位で混線をおこし、痛みに関する患者の言語反応あるいは行動様式を多様化していると考えられる
- 以上の知見からも慢性疼痛患者に対する治療では、「痛み」を侵害刺激やそれに対する器質的変化の結果としてのみとらえるのでは不十分であることが理解されよう。患者の個人的な体験に基づき神経回路が修飾された結果としての患者の個人的な「痛み体験」に注目し、脳科学的な知識を理解した上で、さらに患者の苦痛に対する医療者の共感力や想像力を駆使して、病態を考えていくことが重要である
- オペラント学習型疼痛
- 小宮山 疼痛行動を維持増強する因子(報酬)
- 1 重要な人物からの注目、関心、擁護的かかわり(擁護反応)
- 2 家庭または社会生活への再適応の回避(現実逃避)
- 3 怒り、不満、罪悪感といいた心理的苦悩の抑圧(葛藤回避)
- 4 他の家族成員間の葛藤の回避(家族システムの維持)
- 回避学習型疼痛
- 心療内科では心身医学的診断として次の7つの軸を念頭に情報収集を行い、多面的な病態評価を行っている
- 慢性疼痛症例の特徴的な心理特性
- 医療不信
- 失感情症
- 依存欲求と怒り
- 身体的治療が必要で、心理療法が必要でないと主張する症例では、1身体的疾患でも心理社会的ストレスが過度になると交感神経系の関与から末梢の血流が悪化し自然治癒力の妨げとなり、身体疾患そのものが非常に悪化すること、2人体内には痛みの下行性抑制系があり、そのシステムを、たとえば「脊髄におてい痛みの増幅装置のボリュームコントロールを行っており、通常痛みはボリュームを抑制できている」といったたとえで説明し、「脊髄にある痛み増幅の抑制装置は脳疲労で故障し、その脳疲労を癒す工夫を行う必要がある」といった説明を行うこと、など2点を十分に説明することが患者の心理療法への動機付けに有効なことがある。つまり、脳疲労の治療についての専門家が精神科医や心療内科医であり、末梢の痛み病変に悪影響を起こす交感神経系の緊張を減らす為の工夫を個々の日常生活上の対人ストレスから分析し、それに対処する為に、個別のカウンセリングが有鉤であるという理解を促すことが必要である
- 前医への攻撃的感情に関しては、すぐに前医の行動の合理性を説明することは避け、患者が前医になぜそのような陰性感情もつようになったかの経過を十分に受容、傾聴し、多くの例で存在する患者特有の思考パターンを理解することが重要である
- 患者は前医を攻撃しつつも前医に執着する非合理的と思える行動を示すことがある。そのような症例では、本来、家族に向かうべき依存欲求の代理対象として前医に固執していることがあり、当初はその前医に対する葛藤を傾聴していても、長期的には本来受容してほしい家族の成員との葛藤にターゲットをあてた支持的心理療法や当事者である家族をまきこんだ家族療法を設定していくことが有用となる
- 慢性疼痛の治療目標は、1痛みにたいする耐性を高め、2痛みのある生活を受容しその自己コントロール感を獲得し、3日常生活の行動範囲を広げ、4社会生活への適応を改善していくことである。
- 慢性疼痛患者が改善していく流れは、痛みの存在に圧倒、占領された日常生活感から脱出し、痛みと付き合いながら、痛みにとらわれることなく自己実現を目標とした充実した人生を楽しむことであると理解される