慢性疼痛に対する理学療法

村上孝徳 慢性疼痛に対する理学療法 Bone Joint Nerve 2012;2(2):301-307

  • 慢性疼痛の定義 国際疼痛学会 2007
    • 治療に要すると期待される時間的枠組みを超えて持続する痛みあるいは進行性の非癌性疾患による痛み
  • 理学療法は本質的な鎮痛効果を期待するものではないが、運動器の強化、廃用性障害の予防・改善によりADLを確保・拡大し、生活の質を向上することで二次的に疼痛緩和に寄与できると考えられる
  • 近年、疼痛の治療法として認知行動療法(cognitive behavioral treatment)が国際的に重視されている。認知行動療法は痛みが単に器質的病変のみならず、認知・感情・行動などによって影響をうける多次元の経験であるとする考え方を礎にしている。認知行動療法は、1疼痛制御感、2自己効力感 3恐怖回避感 4コーピングの4つの観点に基づき分析、実行が重視される。広義の認知行動療法は決して専門分野のみなしえることではなく、運動機能訓練を通しても達成することが可能である。
  • 近年疼痛コントロールに関する中枢機序として中脳辺縁系におけるdopaminergic mechanismが報告されている
  • この系の作動は疼痛コントロールに寄与するばかりでなく、喜び・快楽や報酬、抑うつ状態にも関係する。すなわち、喜びのない生活、もしくは抑うつといったストレス状態にある場合、tonic dopamineの恒常的放出によるVTAでのdopamine枯渇のためphasic dopamineの減少から疼痛コントロールが障害され、抑うつ状態の継続および痛覚過敏がもたらされると説明される。運動療法はその達成感から前頭前野帯状回視床扁桃核もしくは海馬の活性化を促し、さらにventral tegmental area (VTA)-ventral striatum/nucleus accumbens(NAc)の活性化を促進する
  • Florらは四肢切断症例における幻肢痛について、体性感覚野の機能変化に関して報告を行っている。切断によって求心性入力が遮断されると当該感覚野は周辺領域にまで知覚領域を拡大し、結果として知覚過敏、過敏域の拡大を呈する。、さらに彼らは、機能訓練によって感作された感覚野の是正が可能であると報告している。Moseleyらは慢性腰痛症例においてfMRIを用いた研究で同様の報告を行っている