ペイン:臨床痛み学テキスト

ペイン:臨床痛み学テキスト

  • 作者: Jenny Strong,Anita M.Unruhほか,熊澤孝朗監訳
  • 出版社/メーカー: エンタプライズ
  • 発売日: 2007/12/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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第一章 痛み学への誘い 序論

  • 痛みは情動と感覚で構成された強烈な個人的体験である
  • IASP 1994 痛みの定義
    • 不快な感覚性、情動性の体験であり、それには組織損傷を伴うもの、または伴っている可能性のあるものとそのような損傷があるような言葉で表現されるものがある
  • 急性痛と慢性痛の区別は、痛みの期間ではなく、より重要なことは、身体が生理的機能を正常な恒常性のレベルへ回復させられるか、させられないかである
  • 痛みというものは主観的な体験であるということを認めるべきであり、患者があるといった時に、そしてあるといった部位に痛みは存在しているのである。
  • 自分の痛みが深刻な病気に関連しているという思い込み(信念)は、不安を増強させ、痛みをより脅威と受け止めるようになるであろう。
  • 痛みは主観的なものである。決して証明も反証もできないだろうものを扱う上で、騙されるということは当たり前の現実である。医療チームの全メンバーはこのことを認識するべきであり、騙されるリスクがあるからといって、患者を疑ったり、痛みの緩和を差し控えたりすることを正当化することはできない。

第四章 痛みの心理環境行動的側面

  • 痛みのような体験を生物学的要素と心理学的要素に分けたくなることが多い。しかし、生物面と心理面は相互に作用し合っているものであり、互いに影響し合い、変化させ合うものである
  • 痛みの体験というものは、侵害刺激を痛みとして、その人が知覚したり認識したりすることで決まり、このよな痛みの知覚に対して、心理的要因および環境要因が大きく影響している可能性がある。これらの要因によって、同じ大きさの侵害刺激がひとによって強く感じられることがある。
  • 心理的および環境要因は、急性痛の知覚に明らかに大きな影響力をもつ。その逆に、持続する慢性的な痛みは、痛みの心理的知覚につよく影響する。
  • 痛みの心理的要素
    • 患者は組織損傷が潜んでいる症状として痛みを受け止め続け、このような思い込み(信念)が回復を妨げている可能性がある
    • 慢性的な痛みをもつ患者のマネージメントにおいて、その重要な目標の一つは、痛みに対する受け止め方を転換させることてである。つまり、痛みの元になっている原因解決に的を絞った急性痛の考え方から、痛みにうまく対処していく考え方に転換させるということである。問題解決型のアプローチを痛みのマネジメントに組み入れて、生産的で機能的な日常生活を取り戻すことを目標とする。
    • 破局化は、痛みのことをあれこれ考えたり、増幅したり誇張したりして、痛みに対して無力であることを感じることによ関連した感情的な考え方を反映している
    • 不安は、慢性的な痛みよりも急性痛に関与している傾向が強い
    • 痛みの訴えの正当性を他人が信じていないということもまた痛みの不安の一因となっている。
    • 患者は痛みを組織損傷と結びつけて考えることが多く、持続する痛みが組織損傷の悪化や存続を表していると考えて心配するようになる
    • 痛みへの不安や恐怖は、痛みに対する危機反応を作り出し、コーピングを妨げていると考えられ、痛みの程度から予想される以上の能力低下をもたらす可能性がある。
    • 痛みがひどいこと、予測やコントロールができないことなどの要因は苦悩を増大させるが、より重要なことは、痛みが他の慢性疾患や障害とほぼ同様に、その人の自己を深層で変えてしまうことである。
    • うつ状態、疲労、活動制限、そして自分の痛みはコントロールできないものであるという信念が、日常生活におけるストレスを増大させていく。
    • 悲嘆と慢性的な痛みについてはほとんど分かっていないが、慢性的な痛みを抱える人では、何らかの喪失を深く悲しんでいる人々と同様の感情的な反応がみられる人もある。
    • 抑え込まれた敵意や攻撃性、柔軟性のない超自我、罪悪感、憤り、失ったものにたいする防御や失うことへの脅威、幼児期の窮乏やトラウマ、仮面うつ病神経症的傾向、その他のパーソナリティ障害などのようなパーソナリティの問題は、慢性的な痛みの発生と因果関係があるとかんがえられてきている。
    • 慢性的な痛みというのは、二次的利得よりも二次的損失により関係していることが多い
  • ペインクリニックを訪れる患者の多くは、過度の痛み行動が障害となり、セルフケアや余暇活動、生産的な作業における能力低下のリスクを増大させる行動を示す。そのような患者はまた、相当な孤独があり、家族、友人、職場の人々から孤立している可能性がある
  • 痛みの研究および臨床では、痛みの生理学的側面をこれらの複雑な心理的、環境的、行動的要因から分けてしまいたい気にさせられる。しかし、分けてしまうことはほとんど意味がない
  • 心理的、環境的、行動的要因は、すべてが相互に作用し、痛みの生理的側面に影響をもつ。