慢性疼痛の評価と治療における薬物療法の位置づけ

川井康嗣、大賀美穂、原田英宣、又吉宏昭、松本美志也 慢性疼痛の評価と治療における薬物療法の位置づけ 臨整外 2011;46(4):303-310

  • 慢性疼痛には、急性疼痛が遷延化したものと、心理社会的アプローチが中心的治療になるような、いわゆる難治性慢性疼痛との2種類が存在すると考えられている
  • 慢性疼痛の治療目標は、“日常生活動作の改善・生活の質の向上”である。痛みの改善よりも、それらの改善に焦点をあてることが重要である。そのような慢性疼痛に治療の中心になるのは、医療機関で受ける治療ではなく、自己の痛みのケア(セルフケア)である。また、患者に痛みから派生した行動(痛みの行動、疼痛行動)がみられ、それが心理社会的要因により増幅されたり、強化される状態にある。治療目標は痛みそのものより、痛み行動の減少から消失である。慢性疼痛に悩む患者に対し痛みに焦点を当てても、痛みの変化や残存した痛みにとらわれるだけで、背景に存在する患者の問題や苦悩は明確にならない。治療対象が明確でなく、痛みの強さにあわせて鎮痛薬が処方されると、むしろ痛みは難治化してしまう。
  • 心理社会的アプローチが中心となるべき“いわゆる慢性疼痛”に対しても、急性疼痛、もしくは、“急性疼痛が遷延化した慢性疼痛”として薬物療法が行われているのではないかと考える。とくにロキソプロフェンやセレコキシブなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を中心とする薬物療法金科玉条のようにされてきた点が問題である
  • 米国老年病学会による高齢者の疼痛治療ガイドライン アセトアミノフェンが第一選択
  • NSAIDsによる薬物療法が有効でない場合には、対象とする痛みが侵害受容性疼痛ではなく、神経障害性疼痛や、心理社会的要素の強い痛みではないかと考えるべきである
  • 神経障害性疼痛は体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接的に引き起こされる疼痛と定義されており、主に神経系の過剰興奮により構成されているという印象があるが、痛みの認知機構の歪みが病態に関与しているといわれ、一般的に難治性であると考えるべきである