鈴木貞夫 「名古屋スタデイは」調査結果の解説とHPVワクチンへの疫学的評価 日本医事新報 4939:55-55 2018.12.12
- 名古屋スタディ 2015年に全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部がだした要望書に名古屋市が応え、名古屋市立医大医学研究科公衆衛生学分野が実施したもの
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/PMC5887012
- オッズ比が算出可能な分析疫学研究
- 分析疫学は群間比較が根底にあるため、比較妥当性が最重要視される。
- アウトカムは薬害で、ある程度高いオッズ比が想定され、感度の低い研究でも検出可能と考えた。
- 対象 ヒトパピローマウイルスワクチンの無料接種が始まってからの期間に対象連例であった1994-2000年度生まれの7学年の女性、約7万人。返送約3万(回収率43.4%) 29,846人を対象
- 同じ症状について接種、非接種の差は小さい
- 症状の重複が増えるにつれ、むしろオッズ比は低下傾向
- 受診のオッズ比だけが上昇したことにより、因果関係以外の関連を検出した可能性が高い。それは受診行動(ワクチン接種と症状の因果関係について心配しての受診)と時期の誤認(以前からある症状出現を接種ごと誤認した)が作用していると考えられる
- 名古屋スタディの意義
- 今回、接種と症状の関連について否定的な結論が得られたが、まず、過去に接種して症状がでないか不安に思っていた本人や家族に対しての安心材料になった
- 今回の結果は、ワクチンの関与があったとして、若い女性の体調の分布に隠れてしまう程度のものであると言い換えることも可能である
- 次に現時点までのHPVワクチンの安全性についての文献的考察を試みる。;現時点での調査研究で関連ありとされたものは、フランス医薬品・保健製品安全庁調査(ANSM)によるギラン・バレー症候群のみである
- 以上、過去の薬害の経験、文献から考えて、HPVワクチンの接種後に現れるとされる症状が、ワクチンと因果関係を持っているという仮説は、エビデンスがほとんどなく、正統性を欠いていると考える。
鈴木貞夫 HPVワクチンと接種後症状との疫学的因果関係 名古屋スタデイの概念と解釈 外来小児科 22(1):39-44,2019
- 疫学研究のデザイン 記述研究と分析研究
- 事象の頻度と分布を明らかにするのが記述疫学 接種者のみを調査する接種後症状の追跡研究や、症状のあるもののみの接種歴をカルテなどで調査する症例研究は記述研究。記述研究では、群の比較や要因の分析はできないので、lこれらの追跡研究や症例研究からワクチンと症状との関連を検討することはできない
- 影響を与える要因を明らかにするのが分析疫学
- 名古屋スタデイは、接種・非接種、症状あり・なしをすべて調査するデザインで分析研究の分類され、群の比較や要因の分析が可能である。後ろ向きコホート
- サリドマイドのオッズ比は360
- オッズ比が2未満の場合は、その要因の関与は全体の半分未満で、それ以外の要因の関与のほうが大きい
- 本研究のメインアウトカムである24症状の発症について、HPVワクチン接種が有意なリスクとなっているものはなかった
- 病院受診のオッズ比が症状の発症のオッズ比より高く、早期症状を除外するとさらにオッズ比が上がるのは、ワクチンと症状の関連を心配して受診したことによると考えられる。;すなわち、生物学的な因果関係ではなく、受診行動による高いオッズ比と解釈される
- 暦年が下がるとほど全体にオッズ比が高かったのは接種率との関連が疑われる。すなわち接種率が85%を超えたときの非接種者は、もともと相対的に健康状態が良くないものの割合が高かった可能性がある
- 研究結果の意味するところ 2つ
- 1 一定割合の人数の人が悪影響を受け、その結果として異常が増えるタイプの因果関係は否定された
- 2 現在の子宮頚癌の頻度やワクチンの予防可能性、激烈な症状の頻度など、この研究を含めた現在までの知見を勘案すると、予防可能の子宮頚がん死亡の方が重篤な症状より頻度が高く、ベネフィットの方が大きい。
鈴木貞夫 ヒトパピローマウイスルワクチン HPVワクチンの安全性についての疫学的評価 「名古屋スタデイ」の調査結果を中心に 臨床と微生物 vol46(2):59-63,2019
- 要旨 ヒトパピローマウイルスワクチン接種と接種後に現れる24症状との関連を検討するために、名古屋市在住の女性約7万人を対象に調査を実施した。約3万人から返答があり、ワクチン接種が症状の有無を有意に上げているものはなかった。
- 子宮頚癌 毎年約1万人が罹患し、3000人が死亡している
- 20-50代の比較的若い世代で割合が高い マザーキラー
- 一次予防 HPV感染をワクチンで予防して前がん病変を発生させないようにする
- 二次予防 前がん病変のうちに発見して治療する(子宮頸がん検診)
- 名古屋スタディ 同一集団内で接種群と非接種群を直接比較する分析疫学研究であり、記述疫学研究とは一線を画するものである
- 意思決定は、リスク、ベネフィットの両面から考える必要がある。HPVワクチンは予防する疾患が感染症内で完結しておらず、社会防衛的な意味合いよりむしろ個人の意思決定が重要である。その上で子宮頚癌の頻度やワクチンの予防可能性、激烈な症状の頻度など、この研究の頻度など、この研究を含めた現在までの知見を勘案すると、ベネフィットの方が大きいと考えられる。接種率の落ちた2000年生まれ以降の女性の子宮頚癌の多発が懸念されており、問題は重大である
鈴木貞夫 再び動き出したHPVワクチンと名古屋スタデイ 現代医学 68(2):33-36,2021
- 名古屋スタディ
- 全国子宮頚がんワクチン被害者の会、愛知県支部と愛知県HPVワクチン副反応対策議員連絡会が、名古屋市長川村たかし氏に調査の要望書を提出し、市長が実施回答した2015年1月から計画され、名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野に調査依頼があったのは2015年4月であった
- 名古屋スタディが現在も唯一の自治体主導の疫学研究
- 主解析 接種者が被接種者に比べどのくらい症状を訴える危険度が高いか(オッズ比)を症状ごとにもとめたシンプルなもの
結果として、年齢調整した全24症状のオッズ比で、有意に1を超えたものはなく、ワクチンが症状のリスクとなっているという仮説は採択されなかった
- 厚生労働省科学研究補助金を受けた「子宮頚がんワクチンの有効性を安全性の評価に関する疫学研究(祖父江班)」の全国疫学調査が、「HPV接種歴のない者においても、HPV接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する者が、言って割合存在した」と総括したのは、これが基本的に記述疫学だからで、注意事項にも「因果関係に言及する調査ではない」」と明確に欠いてある
- そもそも、厚生労働省の積極的な接種勧奨差し控えの発端になったのは、接種後の症状についての個々のエピソードの集積であり、関連についての分析研究によるものではない。緊急避難としての「一時的な」接種勧奨差し控えであれば、このような措置が妥当といえても、8年間の会田に、これを裏付ける分析疫学的研究結果がでていないことから、症状との因果関係についての専門医委員会の判断は納得できるものだ
鈴木貞夫:HPVワクチンと接種後症状:名古屋スタディからの知見の中心に 臨床とウイルス 51(1):29-33
- 因果関係は、病院論的なメカニズムが不明のものについては、人間集団でのランダム割付臨床試験(RCT)を頂点とした分析疫学研究にもとづいて判断されるものであり、計数によるものである。
- 接種後の病態のわからない疾患や症状について、ワクチンの関与を調査するときに、患者を診察すればわかると考える人は多く、病態のメカニズムがわからないから、数を数えて因果関係を判定しているのだということが、人々の共通理解になっていない。
- 24症状
- 祖父江班研究 厚生労働省科学研究費補助金による「子宮頚がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」班
HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の多様な症状を有する者が一定数存在した
- 祖父江班の研究は、スモンやサリドマイドなどの典型的な薬害では、薬剤なしに症状が起きることがほとんどなく、HPVワクチンはそれらとは異なるということを示している。なお、このプロジェクトは「記述疫学研究」であり、もともと分析を目的とっしていない。そのことは班会議報告書にも明記されており、数値同士の比較や因果推論はしてはならない
- 副反応は、ワクチン接種の有無による比較から判断するものであり、接種者の症状という事象の記述のみから生まれることはない。
- 名古屋スタディは、その疑問に答えるために比較を目的に行われ、その結果ワクチンのリスクは検出されなかった
- ここでいう「ワクチンのリスク」は、ワクチンの薬理作用や生体に対する直接的な副反応にとどまらず、針刺しの痛みやワクチンの心理的影響など、すべてを含んでいる(疫学調査はその区別をしない)
- したがって、判断としては、動画と同じような事象は、ワクチンと関係なく起きていると考えるべきだ。原因と結果の前後関係は因果関係の必要条件であるが、それだけで因果関係を判断することはできない。無過失補償というシステムはそのためにある