HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか 日本医事新報 No5000 p43 2020.2.22

  • 医学的には、副反応は機能性身体症状であると説明され、接種が機能性身体症状の発生頻度を上げる有意性が疫学調査で否定され、また、ワクチンのHPV感染や前癌状態の予防効果が、海外だけでなく国内でも証明されつつある

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(2) 日本医事新報 No5004 p62 2020.3.21

  • 同様の症例は、頻度は低いものの海外でも報告されているが、「発症時期・症状・経過に統一性がないため、単一の疾患が起きているとは考えておらず、ワクチンの安全性に懸念があるとは捉えられていない」とされている。また、昨年、世界保健機関(WHO)はワクチン後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISSR)として改めてまとめているが、その中で複合性局所性疼痛症候群、体位性頻脈症候群、慢性疲労症候群、身体症状症について、ワクチンと因果関係がない有害事象と判断している
  • すくなくとも複雑系としての脳の神経・精神システムの変容に由来するものという印象からは、原因を追求して還元論的に医療を組み立てるにはあまり適切でない疾患であり、だからこそ生物心理社会的モデルを想定して診療論からアプローチすべき疾患と思われる

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(3) 日本医事新報 No5010 p63 2020.5.2

  • 4つの症例
  • 他の症例を含め、全体像として、身体の疼痛と運動障害を中核とした多様な症状と整理され、経過は、発症、悪化、生活傷害の残存する慢性期という3つの相が見られた

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(4) 日本医事新報 No5015 p59 2020.6.6

  • そもそも末梢の組織傷害由来の疼痛は、脊髄視床路を経て、視床から島皮質、前帯状回前頭皮質、感覚皮質、扁桃・海馬などのpain matrixの活性化を反映するこの神経ネットワークは、刺激の弁別に情動や認知、記憶が複雑に関係していることを示しているが、慢性疼痛の多くでは、視床の活動はむしろ抑制的で、情動と認知に関わる前帯状回前頭皮質が活性化されていることがfMRIなどで証明されている。つまり幻肢痛など病理的存在そのものがない痛みでの指摘されているように、必ずしも末梢に病変が存在しなくても疼痛は出現することを意味している。そこには病理的には、神経系の変化(中枢神経系の感受性の異常亢進、シナプス・受容体の変化)が推定され、機能的には情動の関与(疼痛の不安が増幅し、不安の支持を求める情動)が反映していると考えられる

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(5) 痛みと慢性疼痛CRPSについて 日本医事新報 No5019 p66 2020.7.4

  • 痛みとは何か、と問われたとき、我々は往々にして神経病理を基本として考える。しかし、痛みに臨床的に対応しているペインクリニックや精神科、心療内科では、器質的異常では説明できない痛みについて、人間を生物学的、心理的、社会的側面をもった複雑系として理解、対応している
  • ここで、この疾患全体をCRPSと診断できないのは、日本の判定指標が主に40代後半を平均とした女性を対象としており、思春期にもう一つのピークがあることがあまり知られていないことにもよる。「小児期CRPS」「”CRPS in children” UpToDate)は、13歳を平均とする女性に多く、契機となる外傷(ワクチンを含め)の変化が目立たず、予後が良好で、しばしば転換性障害を合併し、認知行動療法が有用であるなどの特徴があると説明されている。私は、この概念が、HPVワクチン接種後の症状をより的確に説明していると考えている

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(6):ISSRと日本の現況 日本医事新報 No5021 p66 2020.7.18

  • 昨年、世界保健機構(WHO)は、ワクチン接種後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISSR)として、その生物心理社会モデルを提示した。そこでは、血管迷走神経反射や失神といったワクチン接種後の急性反応については、女性・思春期という生物学的リスク、そして予防接種についての知識不足と潜在的な不安という心理学的リスク、ワクチンについての社会と家族のサポートの欠如というリスクが関与していると説明。さらに接種後の、麻痺、異常運動、歩行異常、発語困難、被てんかん性痙攣などの解離性神経学的反応については、個人的な痛みに対する過敏性という生物学的リスク、不安や恐怖などの潜在的な心理学的リスク、および対応する医療者、家族、友人さらにはマスメディアの社会的リスクが関与している、と説明されている
  • これらの議論を踏まえて、HPVワクチン接種後の慢性疼痛と多彩な症状は、「ワクチン接種が契機となった可能性はあるが、因果関係は不明」とした上で、小児期のCRPSを含めた慢性疼痛や身体症状症(DSM-5)に解離症状が合併した、つまり厚労省の説明する機能性身体症状として診療が組み立てられるべきと思うが、日本では、この診療がなかなか成り立たない
  • 多くの医療機関で診療が敬遠され、訴えが受け入れられず、詐病や精神病扱いされて患者は放浪し、最終的には多くの患者さんが、免疫学的な神経疾患として治療する特定の病院へ集まっているのが現状がる。もし積極的推奨が再開され接種が広まれば、副反応の出現した患者さんが再び行き場を失って医療機関を転々とする可能性が大きいということである

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(7):接種前のリスク対応 日本医事新報 No5024 p65 2020.8.8

  • HPVワクチンの副反応の診療には、発症・増悪の背景と考えられる生物心理社会学的リスクを軽減することと、発症した機能性身体症状そのものを治療することの2つの視点が必要である。そのため、「接種前のリスク対応」と「発症時の初期対応」、そして「治療の考え方と実際の治療」に分けて説明する。

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(8) 日本医事新報 No5028 p65 2020.9.5

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(9) 日本医事新報 No5033 p62 2020.10.10

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(10)日本医事新報 No5094 p61 2020.12.11

  • 「HPVワクチン接種後の多様な症状」とは、ワクチン接種のストレスを契機として発症した身体の疼痛を主張とする機能性身体症状で、それには、1身体症状症としてのせいかと意識の変容、2身体不活動によるdeconditioning、の2つの要素があり、背景に心理社会的リスクが複雑に関係していると理解している。当時、初めての筋肉注射という不安や性教育も含む理解の困難さによる心理的リスク、家族、教育者、医療者など周囲からの支持の不確かさと、繰り返しマスメディアが報道する、疼痛、痙攣、麻痺などの画像から受ける社会的リスクが、思いの外、被接種者の状態を不安定にしたと考えている。
  • 日本の医療者も社会も、原因解決型の医療は原因が医学的に解明されなくては迷走するという悲劇を自覚しなければならない。患者に相互の信頼をもって寄り添いながら、肯定的なコミュニケーションに努め、有用性を集めて患者の苦しみを救う、という医療の原点に戻る必要があり、それには国の用意した協力医療機関の医師だけではなく、患者と接するべきすべての医療者の役割と責任が大きいということはいうまでもない。