角田郁夫: ウイルス感染・ワクチン接種による免疫性神経疾患:神経免疫学・ウイルス学の立場からHPVワクチンの推奨 思春期学 39(1):20-27,2021
- HPVワクチン接種ではいずれの機序でも起こり得ないことを、神経免疫学・ウイルス学の専門的立ち上から解説する
- ワクチン 大きく2つに分類
- 一般にワクチン接種によって誘導されうる免疫性の神経障害の機序
- 分子相同性、バイスタンダーキリング、エピトープスプレディング
- ウイルス感染あるいは弱毒化生ワクチン接種により多様な障害が諸臓器に起こり得るが、その障害のエフェクターとなるのはウイルスそのもの、あるいは感染に伴い誘発されて免疫反応によるものかの2つに分けられる
- ウイルス自体による傷害は、ウイルスが向性(tropism)をもった臓器の構成細胞に感染・増殖し、肝星細胞に細胞変性効果(cytopathic effect, CPE)をもたらすことでおこるものであり、ウイルス病理(viral pathology)と呼ばれる
- ウイルス病理の代表例は溶解感染(lytic infection)にりょう細胞死である。
- ポリオウイルスは、中枢神経系の運動神経細胞に感染し細胞死を誘導することポリオ(灰白脳脊髄炎)の原因となっている
- 日本では(ポリオ)生ワクチンから不活化ワクチンの接種に変更されており、不活化ワクチンの接種では、ウイルス感染・増殖が怒らないためポリオが起こらない
- HPVは皮膚・粘膜の基底層にのみ感染するウイルスであり、CNSを含むその他の組織細胞には感染できないため、直接的な神経細胞への傷害がおきない
- HPVワクチン接種ではL1に対する感染防御抗体だけが誘導され、ウイルスの感染・増殖は生体内のいかなる臓器でも起こらず、ウイルス病理は引き起こされない
- ウイルス感染あるいはワクチン接種において神経系傷害をきたし得る免疫病理の機序で代表的なものは、1) 分子相同性、2)バイスタンダーキリング、3)エピトープスプレディングの3つである
- 分子相同性は、微生物の構成分子(抗原決定基=エピトープ)と宿主細胞の構成成分が構造的に類似している際、微生物エピトープに対して誘導された抗体あるいはT細胞が、宿主の構成成分と交差反応を起こし、宿主細胞を攻撃することで組織傷害が起こる現象である
- 代表的な臨床例としては、カンピロバクター感染後に起こるギラン・バレー症候群がある
- これまでにHPVワクチンで誘導される唯一の抗体である抗L1蛋白抗体が、神経細胞を含むいかなる組織成分とも交差反応を示したという実験報告はない
- バイスタンダーキリング
- 本来、抗ウイルス免疫は感染したウイルスを排除するために、感染臓器が免疫細胞浸潤を伴う炎症反応を誘導するが、これがコントロールを失い過剰になった場合、臓器障害が生じる。本来は、抗ウイルス免疫の標的ではない傍観者(バイスタンダー)である未感染の細胞が傷害されるので、バイスタンダーキリングと故障される
- バイスタンダーキリングなどでCNSで髄鞘成分が一次的に損傷されると、CNSの髄鞘成分が血中に流出することになる。この流出した髄鞘成分を抗原提示細胞が細くし、T細胞に抗原提示することで、髄鞘蛋白に特異的なT細胞が誘導される。この髄鞘特異的T細胞は、自己反応性細胞として働き、脱髄を誘導することが可能であり、これにより髄鞘破壊が増悪し、臨床的に病気の進行あるいは再発をきたす。この一連の経過でエピトープ(抗原が結合する部位)はウイスル抗原から髄鞘抗原へ拡散したことになり、エピトープスプレディングと呼称する。(これは理論的には起こり得る現象であるが、実際に誘導されることは稀である。)
- CNS内に高度な炎症反応が起こらないHPVワクチン接種において、バイスタンダーキリングは起こり得ない。さらに、HPVワクチン接種では、一次的にCNSが障害される機序が働かないので、二次的にCNS傷害を増悪させる機序としてのイピトープスプレディングも起こらない
- HANSを誘導する要因としてHPVに含まれるアジュバンドが提唱されている
- HPVワクチンに含まれているアジュバンドはそれぞれ異なるが、A型肝炎、B型肝炎、Hibワクチンに含まれている
- A型肝炎、B型肝炎、HibワクチンにおいれHANS類似の神経症状の報告はないゆえ、アジュバンド仮説は否定される